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いつまでもあると思うな親と米

先般起きた「令和の米騒動」なるものの違和感が拭えないので色々と並べてみることにしました。

米の生産と需要

農林水産省「最近の米をめぐる状況について」より抜粋

いきなり色んな答えが出てしまいそうなグラフですが、米騒動なるものが起きる直前の8月に農林水産省が資料をとりまとめていました。不穏なので臨時に出したようです。マスコミは全く触れてないのではないか?
まず認識しないといけないのは「ずぅぅぅぅぅぅぅっと米の消費は下がり続けていく一方である(現在進行形)」ということです。日本政府の政策は戦後(終戦は昭和20年)食料が安定しなかったのできちんと生産するところから、余りまくる米をどうするかにシフトしていきました。このグラフの左端が1960年ですが、60年代後半から何度か需要を下回る生産量の年があるものの、おおむね需要を上回っている年が多いことが分かります。そのため減反政策という「コメの作付を減らして転作した場合に補助金を出す」という政策でなんとか農業の維持を図りましたが、2018年に減反政策を廃止しました。結果、年老いた農家は何も作らなくなり、田んぼが放置されるケースが増えました。確か当時財務省から「こんな終わりのない政策に金は出せない」みたいな反対意見も出た様に記憶しています。

小麦の供給と需要

次に小麦です。炭水化物エネルギー源としての主食は常に必要なわけですから、米以外にも触れねばなりません。ご存じの通り小麦はかなりの部分を輸入に頼っています。

農水省「小麦の自給率」より抜粋

なんと戦前は自給率が100%を超えていましたが、「食事の欧米化によって小麦消費が増えたこと」「日本の梅雨が小麦栽培に向いていないこと」「うどん向けの品種が多く、パンや中華麺向けの強力粉の品種が少なかったこと」などからガンガン輸入が増えました。ちなみに日本の人口は2012年(平成24年)から減少に入っていますが、全く需要は衰えていないことからも、みなさん米を食べずに小麦の麺やパンを好んで食べていることが分かります。
ちなみにパスタはこちら

日本パスタ協会のHPから抜粋

国内の生産は安定、輸入量は凸凹しつつも増えていっているに近い状況です。ちなみに輸入小麦にも産地と品種の差があり、

先ほどの農水省のHPから抜粋

製パン業界は北米産を好み、製麺業界はオーストラリア産を好みます。ですから、例えば北米で不作になったからといって豪産で代替できるかというとそうではないということです。また、ウクライナでの戦争が始まった時、ウクライナが小麦の一大生産地であったことから「すわ小麦不足になるのでは?」なんてデマが流れましたが、ウクライナ産の小麦は日本が好む品質ではないため元々飼料用を除いて購入しておらず、また北米産や豪産は非常に価格が高いため、ウクライナ産の小麦を購入していた中東やアフリカの人たちは買えないので取り合いにはならないという実態がありました。

米は本当に足りていなかったのか?

では主食の穀物のこれまでの大まかな流れを整理したうえで、猛暑で不作と散々言われた昨年はどうだったのか。先ほどのグラフとは数値が違いますが、令和5年の米の生産量について資料を漁ってきました。

農水省「令和5年産水陸稲の収穫量」から抜粋

これは来年用の種もみも含みますので、右側の「収穫量(主食用)」の欄を見てください。確かに昨年(令和5年)の収穫量は猛暑もあって減収していますが、令和4年の生産量に比べると98.6%です。そこら中で米が欠品することはあり得ない数字です。だって98%ですよ?365日ご飯食べる人が居たとして、その人が1週間うどんかラーメン食べたら済む話です。令和4年は足りていたのだから足りなくなるわけがない。政府備蓄米を放出しないことにやたらと批判がありましたが、たかだか2%未満の量の為に、新米出荷直前に価格崩れを起こすようなことを農水省が避けたのは合理的にしか見えません。

そして今Twitterではスーパーが米の返品を断る掲示をしていることが目撃され(生鮮食品なのだから当然です)、挙句の果てには

これです。キャンセル大会。つまりこれらを総合すると、「コメが足りてなかったのではなく、マスコミに煽られて必要以上に買い漁った人たちが居た」というのが正確なところではないかと考えられます。

みなさんどんどん小麦(うどん・ハンバーガー・パスタ)を食べるようになって米の需要はどんどん減っていっているのに、たかが2%に満たない減収で煽るマスコミの姿勢もいかがなものかと思います。しかも平然とこうやってキャンセルのニュースを流すのですから。
おそらく家庭内在庫が大量にありますから、今後の新米の売れ行きは例年より悪くなるでしょう。被害者は振り回された農家と、本当に毎日の子どものお弁当とか安定してお米を食べていた家庭だと思います。

とはいえ農業は危機的状況

直近の米騒動は完全にデマに近い話であったという結論は一旦置いておいて、農業をめぐる環境が非常に厳しいことは事実です。米の作付面積が減少し、耕作放棄地になっていることは先ほど触れた通りですが、その前にまず農業従事者構成がこうなります。

農水省「農業労働力に関する統計」より抜粋

専業農家の平均年齢がほぼ69歳です。2~3年で1歳ずつ着実に上がっています。そして何より従事者の数が減っています。戦前に比べたら機械化が進んでいるとはいえ、ここ10年でそんなに劇的に仕事が楽になったわけではありませんし、むしろ気候条件などは過酷になっています。現に猛暑で昨年の米の作柄が悪かったのですから。
つまるところ、米に限らず、トマトだろうが白菜だろうがリンゴだろうがどんどん生産が失われていく可能性が高いと言うことです。現に当社もポン酢用の果汁が天候不順なのか不作になったり、産地から人手不足の悲鳴が聞こえてきたりともう大変です。何とか長期的な対策を打とうと色々と模索しています。

では結局どうすればよいのかと言えば、それはもちろん農水省の仕事であるわけですが、私個人は価格を上げて農家の収入を上げるしかないのではないかと思います。食べていけなくて離農する若手の話は枚挙にいとまありません。いずれこのペースで農家が減れば、足りないので自然と価格は上がっていくでしょう。

異常気象はこれからも続くでしょうし、米が本当に足りなくなったら小麦でどうするのか、どんなものが作れるのか、野菜が高くなったら家計の為に何が出来るか、マスコミの煽りに負けないで慌てず対応が取れるように考えておきたいものですね。
まぁ今は外食もコンビニも冷凍食品も充実しすぎてて、買ってきたら終いなんですけども、これを機会にベランダでも出来る家庭菜園とかやってみると面白いですよ。

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