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客を育てる

書きたくなるテーマがなかなか見つからず更新が遅れました。(言訳

さて、世の中には「お客さんを育てないといけない業界」というものがあります。なんだか上から目線の様に聞こえるかもしれませんが、「知ってもらって良さを理解させる努力をしないとハマってもらえない、ご新規さんに来てもらえない」ということです。おお、文章力が無くて更に上から目線に。笑

もう少し柔軟な表現にしましょう。「普通に生活していると接点がなかなかない業界」ということです。
良く言われる業界が「歌舞伎」です。普通に生活していたら「映画館に行こう」とはなっても「歌舞伎座に行こう」とはなりません。歌舞伎座・新橋演舞場(東京)、大阪松竹座(大阪)、南座(京都)、オフィシャルには舞台はこの4つしかありません。まず交通費がかかります。しかも江戸時代に作られた演目中心で言葉遣いもストーリーも難しく、音羽屋だの成田屋だの松嶋屋だの屋号もややこしいし、幕間の時間だのお昼のルールだの色々あります。行ったら行ったで着物で着飾ったご婦人がいらっしゃったり、もー「ザ・敷居が高い」を地で行く業界です。
うわー行きづらいですよね。
私も殆ど行きませんが、実は俳優同士がアドリブで掛け合いをしていたりして、何も知らずに行っても結構面白かったりします。しかし、外から見た感じは先述の通り万事こんな有様ですから、積極的にお客を誘い、何度も足を運んでもらって面白さを知るきっかけ作りに努めないと新規のお客さんが入ってこないのです。逆にこういった業界で慣れ親しんだお客さんを「目の肥えたお客さん」と呼んで役者がリスペクトして緊張するのは、それ故です。

具体的に歌舞伎界ではどうしているのかというと、歌舞伎俳優がTVのドラマに出演して知名度を上げたり、新作歌舞伎として一般劇場でマンガやアニメとコラボレーションした新作演目をやったりして、新たなファンの開拓をしたり、何度も足を運んでもらうキッカケを作るわけです。

飲食の世界では

飲食や食品の業界でもそういうのがあるのかといえば、あります。一番極端な例は「一見さんお断り」ですね。いわゆる「紹介制」というお店です。ただ、この場合はお客を育てるというよりは、お客を選別して店の雰囲気を保ちたいということが優先的な目的の様に思います。高飛車な感じがしますが、ちゃんとした新規さんを紹介してくれるお客さんはとても大切にするので、これはこれでちゃんとしたマーケティングだと思います。

他方で歌舞伎同様客を育てる必要があるのが「BAR」です。そう、お酒を飲むところのBARですね。

いわゆるこーゆーお店です。(写真はフリー素材)

BARというと一般的には、薄暗い照明、重々しい扉、外から伺い知れない店内、大人のお店、そんなイメージではないでしょうか。
実は先日BARを経営されている方と飲みに行く機会があって、そんなお話が出ました。
「BARって、こう、最初は背伸びして行くところだと思うんですよ。上司とか先輩とかに連れられて、その雰囲気を知って、恐る恐る彼女を連れてくるとか、給料増えてから独りで来るとか。だけど最近の若い人は「お酒は飲みたくありません」とか「職場の人との飲みとか絶対嫌です」とかそういった嗜好の変化もあって、最初の接点が難しくなってるんですよね…」
とため息をついておられましたが、確かにそういうところはあるかもしれません。そういえば私も昔上司先輩に連れられてBARデビューしたような気がします。今ではもうカンタンに重いドア開けちゃうし、ジントニック頼んで大体好みの店かどうか決めています。気に入ったお店にはガンガン友人も連れて行って紹介します。そのお店に長く続いて欲しいですし、私自身高頻度で行くわけでもなく席が埋まってしまって困るということもありませんので。(ご飯屋さんは別w)
私は上手に育てられた方ですが、BARが満席で断られたって経験はあまりありませんので、経営は大変そうです。

実は料理もそのきらいがある

私は調味料製造企業をやっていますが、個人的には家庭での料理も「育てなければいけない分野」になりつつあるのではないかと感じます。直接的なデータは探したけれど見つからなかったので、補助的なデータで固めてみます。

まず醤油の生産量が落ち続けています。細かい数字は公表されていないのでここでも伏せますが、コロナの3年間で5%落ちた消費量(主に外食の営業自粛起因)はコロナ明けでも戻ってこず横ばい、そして昨年はまた1%以上減りました。外食にこれだけ人が戻ったにも関わらずです。つまり内食(家庭内調理)でも中食(持ち帰り)でも外食でも、少なくともみなさん和食を食べる機会は減少している。

次に近年の冷凍食品の隆盛です。まず日本冷凍食品協会の統計データですが、冷凍食品全体ではこんな感じです。

日本冷凍食品協会HP資料より抜粋

なんと10年で家庭用は1.5倍になっています。いやいや、冷凍食品と言っても幅広い。スーパーでは肉や野菜の冷凍も最近随分増えたぞ!って思うじゃないですか。

同上

殆ど「調理食品」なんですよねぇ。この他、中食、つまりスーパーやコンビニで買えるお惣菜もコロナ前に戻りました。私はこれらの主因は夫婦世帯全体の6割まで増えた共働き世帯と、全世帯の3割に達した単身者世帯にあると思っていますが、これは時代の変化として仕方のないことです。忙しければゆっくり料理は出来ませんし、自分一人なら食事は適当でもいいかなと思う日もあるでしょう。
レシピ雑誌なんて発行部数減少が止まりません。(こちらは動画サイトに取られているところもあるので料理しなくなったからと短絡的には言えませんが)
それから、醤油と並ぶ和食の基礎調味料である味噌も消費量の減少が止まりません。

コロナで内食が増えたはずなのですが、外食の復活と共に減少し、さらにコロナ明けの多忙さもあって冷凍食品やらなんやらで、少なくとも自宅で和食を作る機会が減少しているのは確実ではないかと思います。勿論便利な濃縮つゆやポン酢という形に姿を変えて利用されているかもしれませんが、それを含めても醤油の生産合計量で減っているわけです。従って、自宅での料理そのものもそうですが、何より基礎調味料である醤油を使った和食の作り方というのは、積極的に発信していかないとどんどん減ってしまいそうだということになります。和食って出汁をとったり、下茹でしたり、手間かかるんですよね。そこが敬遠される理由の一つではないかと思います。

しかし和食は恐ろしくヘルシーで、体重や血圧、血液検査の数値などが気になる方にはうってつけです。また常温や冷えた状態でも美味しく食べられるものが多く、常備菜に出来るメニューも多いんですよね。ですから、本来上手に使いまわせば、健康管理に悩む共働きで忙しいお家を楽にできるのですが、料理が得意であったり好きじゃないとどうしてもここのハードルが高くなるわけです。

インフレ対策に効果テキメンなのは自炊

どこの業界でも今困っているのは人手不足です。機械の納期も工事の期間も外食の値上げもどうにもなりません。ということは、「誰かにやってもらうための人件費」を端折れる自炊の節約効果はかつてなく高まっているということになります。別に毎食すべて自炊にする必要は無いのです。おかず一品つくるだけでもそれなりの節約になるということです。
「仕事で疲れて帰ってくるのに、んなことやってらんないよ」
という気持ちもとてもよく分かりますが、時短で美味しく出来るレシピは世の中にたくさんあります。そしてクラシルやYouTubeの様な動画サイトを見ればレシピ本などよりよほど分かりやすくなっています。当社ももちろんですが、各企業もレシピをホームページにたくさん載せています。

しかし増えない

こんなにみんなして料理を盛り上げようとしていますが、なかなかお客さんは育ちません。COOKPADも「自炊は世界中で割と微妙ですね」って調査結果を公表しています。

料理に限らず、お客さんを育てなければいけない業界、各業界頑張って「お客さんに教え広める活動」をしていますが、うまく裾野が広がったという話はなかなか聞きません。歌舞伎は今週末のチケットだって今(金曜日)買えますし、ヤマハ音楽楽器さんもピアノは売れなくなってきているし、醤油も味噌も消費量減少が止まりません。「ゆるキャン△」というマンガから火が点いて一大ブームとなったキャンプは、今ではリサイクルショップに山の様に道具が積んであるそうです。あれだけの流行でも定着しなかったんですね。
各業界「他の事業で補っていく」とか「減っていく中でも縮小均衡を目指す」とか考えていかざるを得ないのでしょう。この「広める活動」は「増やさないまでも減少をゆっくりにする」という効果はあると思います。決して前向きではありませんが、それで時間を稼いで企業の姿を変えていくしかありません。

料理に限って言うと、これからは「掃除洗濯」と並び立つ様な家事ではなく、趣味になっていくのかもしれません。「出来るとイイネ」的な。既に「裁縫」がその域に達している気がします。
現に台湾では外食文化が席巻しています。それは屋台という新しい文化と観光資源を生み、キッチンの無い部屋に住む人も普通だそうです。原因は共働き故の忙しさと、屋台ゆえの安さ手軽さの様ですが、台湾料理文化ってどうなるんでしょうね。

幸か不幸か当社は中小企業である為、「知る人ぞ知る」というポジションでも生きて行けそうですから、ご飯の美味しさ、多幸感を訴え続けながら、しぶとく生き残っていきたいと思います。その辺はちゃんと考えてあります。(ΦωΦ)フフフ…

今の時代、やらなきゃいけないことも多くてみんな忙しいし、やったら楽しい趣味もたくさん選択肢があります。そんな中では「お客さんを育てないといけない業界」というのは不利なのかもしれません。お客さんにそれなりに出費も求めることが多いですしね。
当事者である私たちは何とかして残していく方法を考えていきますが、これを読んだ方の中で「そういえばまだあのBARあるかなぁ?」なんて思い出した方は、是非久しぶりに足を運んでみてあげてください。とても喜んでくれると思います。
色んな文化が少しでも長く続きますように。

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