本のおススメ「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」
前回書いたインプット、私の場合は本も含まれます。
およそ分断と呼ばれるものを外野で見てると「えー」ってなりませんか?
アメリカではトランプ政権からバイデン政権になりました。トランプ支持者は居なくなったのかと言えばそんなことはなく、今でも陰謀論者と言われる人達は健在も健在、元気いっぱいです。
彼等の言い分は荒唐無稽なことが多く、政府関係者が人身売買しているとか悪魔崇拝をしているとか、ちょっと客観的に考えてみれば「え?この人達何を言ってるの?」と思わざるを得ない信じられない言動がポロポロ出てきます。ですが、彼らが全員騙されやすい、十分な教育を受けられなかった人達なのかと言うと、実はハーバード大卒みたいな高学歴の人が混じっていたり様々です。
別にこれはアメリカに限った話では無く、日本においてもヤフーの掲示板やTwitterなんかを見ると一般の人から博士資格をもつ人までが口角泡を飛ばしてトンデモ議論をしていたり、ワイドショーでレギュラーコメンテイターが医師から間違いを指摘訂正されても意見曲げなかったり、実は案外普通にみられる光景です。
なんでこんなことが起きるのでしょう?
そんな疑問にいくつかの答えをくれるのが本書です。
著者は認知心理学の研究者です。理路整然と書かれており、ちょっとその書き方に慣れないと退屈かもしれませんが、列挙されている事実はなかなか趣深いものがあります。
「客観的データは人を説得できない」「感情は伝染し、脳が感情に支配されることがある」「前向きな評価を得ると人は行動を変えやすい」「自分で主体的に選んだと感じれば人は行動を変えやすい」などなど、実際の実験に基づいた事実が次々と提示されます。我が身に引き寄せて考えると「ああ、それであの人はあの時あんな態度だったのか」などと得心がいくことも有りました。
例として「客観的データは人を説得できない」について少し触れてみます。以下私による簡単な要約です。
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ある学生たちに死刑について犯罪に対して「効果がある」とう研究結果と、「効果が無い」という研究結果を提示すると、元々死刑支持派の学生は前者を、死刑反対派の学生は後者の研究結果を支持したそうです。さらに、これを提示した結果学生たちに議論をさせると以前よりも両極化が進んだそうです。尚、提示された研究結果は研究者がでっち上げた偽物だったのですが。
同様に地球の温暖化について実験参加者に温暖化予測のデータを見せた後、「ある調査でここまでひどくならないようだという結論が出た」というデータと「もっと深刻になりそうだという結論が出た」というデータを半分ずつの参加者に提示すると、皆さん「自分が支持する内容に沿ったものだけを採用した」のだそうです。
これらから、どうやら認知心理学的に見て、人は自分の先入観を支持する証拠なら即受け入れるが、否定する情報なら塩対応になり、かつ新しい反論を思いつく、という行動を取ることが分かった。
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これはなかなかパンチが効いた話ですよね。だって検索全盛の今の時代、例えば温暖化について深刻に考えている人は「温暖化 悪化」などと検索するだけなので、その先入観が強化される一方なのだから。
ここから私自身が感じたのは「非論理的に頑なになったり、一時の感情でおかしな判断をすることは誰にでもあり、自分自身も気をつけなければならない」ということでした。そういうことが自分にも起こりうるということを知っておけば、少しでも自分自身で気をつけることが出来るのではないかと思いたい。笑
決して人事系の啓蒙本ではなく、学術的な書かれ方をしてますが、部活のリーダーをしているとか、会社で管理職として働いているとか、他人に働きかけなければいけない人には特に面白い一冊だと思います。
最後にローマ帝国の最初の皇帝になったユリウス・カエサルが言ったとされる名言を塩野七生版でお届けします。
「人間ならば誰にでも、現実の全てが見えるわけではない。多くの人たちは、見たいと欲する現実しか見ていない」
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