腐敗と発酵
冬は野菜も魚も寒さに耐えるために甘く脂がのるので美味しくなりますね。暑いのも嫌いなので断然冬派です。ちなみに毎回写真は適当にフリー素材から選んでいます。
腐敗と発酵の違いとは何ぞやという話
当社は醤油屋なので、当然「発酵」とは切っても切れない仲なのですが、食品製造業を営んでおりますと、否応なく「腐敗」との戦いになります。製品が腐敗していればもうそれは事故品ですので信用にかかわります。当然ですね。
ところで発酵も腐敗も微生物が増えることによってなされるわけですが、違いはどこにあると思いますか?
微生物は栄養分を取り込んで「代謝」(エネルギーとして使う)し、使わないものを吐き出します。その吐き出したものが私達人類に有用なら「発酵」、有害なら「腐敗」と呼んでいます。どちらも微生物は種としての本能に従って「増える」ために活動しているだけなのですが、人とは勝手なものであります。有用なら繁殖に最適な環境(栄養素・温度・湿度など)を整えられ、有害なら猛烈に加熱されたり塩素やアルコールをかけられて死滅させられるのですから、種が違うだけで天と地ほども違う扱いを受けます。
選択的に活動させるのは難しい
人は役に立つ微生物だけを「えこひいき」したがるのですが、微生物にとって理想的な環境というのは割と共通してしまうので、役に立つ微生物が元気な環境は大体有害な微生物も元気だったりします。
その為、人は昔から何とか役に立つ微生物だけを元気にしようと四苦八苦してきました。時には灰を使って微生物を選択してみたり、仕込みを冬にして狙った微生物が一番有利になる温度帯に調整したり、科学が乏しかった時代から先人たちは、「えこひいき」したいがために経験則だけでありとあらゆる努力をしてきました。その結果今の醤油や味噌や日本酒といった発酵食品が楽しめるのです。ありがたいことです。
発酵業界の試練は続く
そんな発酵業界ですが、日本酒も醤油も味噌も、昨年は外食や給食で緊急事態宣言の影響を受けて大きく消費が下がりました。元々米なども含めて消費量は年々落ちていたのですが、昨年の落ち込み方は輪をかけて大きくなりました。
一部では健康食ブームで甘酒や塩麹の利用は増えていますし、この感染症流行の前から「食育で和食文化を身近に」とかやって来ていますが、それだけでは解決できていません。厳しい時代がここ何十年か続いています。
個人的な意見ですが、伝統的な産業とはいえ、時代に合わせて変わって行かなければならないのだと思います。醤油が日本の味と言っても最近は「塩分が」って言われてしまうように、日本のエンジン技術が優れていても「電気自動車が」って言われてしまうように、人の嗜好は変わります。某業界最大手企業が北米で一番売っているのはテリヤキソースだそうです。醤油としてではなく、その加工品であるテリヤキソースとして皆さん楽しんでいるんですね。
それでいいのではないでしょうか。その結果醤油の醸造技術が残り、次に伝え、生かせればいいのだと思います。その時新しく出てきたニーズでも、流行でもなんでもしたたかに乗る方が良いのではないでしょうか。
最近の流行りは「エコひいき」なようで、食品産業としてはフードロスみたいなサプライチェーンの下流の話だけではなく、もっと上流から積極的に参加していくにはどうしたものかなぁと最近考えています。
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