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内部通報の重要性

どっかの知事の件ですっかり兵庫県が有名になってしまいました。ただ、その有名になる過程が県民としては頭を抱えるばかりと言わざるを得ません。

後から後から出てくるエピソードが非常にテレビ映えするためにワイドショーがずっと扱っているわけですが、本件の最大の問題はそこではなく、内部通報者が保護されなかったことです。

公益通報者保護法

内部通報は公益通報者保護法という法律によって保護されています。これは有り体に言えば「通報した人に報復的な人事や処罰をしてはいけません」という法律です。今回の件で知事側は「あんなものは公益通報ではないから対象外」という主張をしていますが、それが誹謗中傷なのかちゃんとした公益通報なのかを第三者が調査する必要があったのに、それをすっ飛ばしていることが問題なのです。あれでは指摘された方が逆上して処罰しているように見えても仕方ありません。

内部通報を保護する理由

なぜ内部通報者を保護するかと言えば、組織は痛い腹を探られるわけですから内部通報者を排除しようというモチベーションが働きますし、そうなると内部通報が出なくなるからです。
内部通報にももちろん色々あって、法律違反を指摘するようなものから想像でしかないものまで幅広いですが、過去に内部通報から大きな事案になったものも多く、そういった不正が明らかになるには内部通報が非常に有効なのです。組織の中に隠されていると外部からはわかりませんからね。現に消費者庁の調査では次の通りです。

政府広報オンラインから抜粋

このように不正発見に内部通報は大変良いわけです。ですから内部通報を保護した方が、社会全体ではプラスであるという判断なんですね。上場企業ではそういった不正が秘匿されると株主に損失を与えることから、きちんと通報制度が整備されていることは前提の様になっています。(機能しているかは別)
ちなみに日本では2006年から公益通報者保護法が施行されています。

実は不正告発が案外多い食品界隈

実は私が籍を置く食品界隈(製造業や外食、生産者など)は不正告発が結構あった業界です。口に入るもので視聴者のリアクションが良いことからマスコミが好むということもあるかもしれませんが、報じられる件数は明らかに多いのではないかな。
政府の買い取り制度で詐欺を働いた牛肉偽装事件(2002年・2013年)やホテルでのエビ(2013年)のような「産地偽装系」。料亭の船場吉兆の客への食べ残し再提供やココ壱番屋の廃棄冷凍食材を業者が転売していたような「廃棄問題」。赤福が行ったような「賞味期限の改ざん系」。よりどりみどりです。
原因は様々だとは思いますが、根底には「デフレで食品界隈がまったく儲からない世界で、不正をしてでも利益をだそうとしがち」ということと、「情報の非対称性が強い」ということがあろうかと想像します。

「情報の非対称性」とは「買い手と売り手の持つ情報に差がある」ことを指します。例えば「売っている食料が今日仕入れたものか、先週仕入れたものか買い手には分らない」ということです。だから倫理にもとる行動を取る業者が出るわけです。「どーせわからん」ということですね。
これは経済学でレモンの法則(レモン市場の論文)とも呼ばれていて、そこでは「ピーチ(高品質な中古車)」と「レモン(低品質な中古車)」の区別が買い手にはつかないとされていますが、結論としては「ピーチを持つ業者はバカバカしくなって売らなくなり、買い手は買うモチベーションを失い、結局市場が崩壊する可能性がある」(いわゆる「悪貨が良貨を駆逐する」状態))としています。ちなみにこの研究はノーベル経済学賞になりました。

こうならないようにするには「価格はいろいろだけど、ここで買うものに外れは無いわ」と思ってもらえるように、普段から誠意をもって商売をするしかありません。これを「信用」と言います。ああいう偽装をする業者は、我々真っ当な商売をしている者からすると邪魔者でしかないのです。

奇貨居くべし

繰り返しになりますが、上に立つものとして内部通報とは大変に気分が悪いものです。何かやましいことがあればもちろんですし、真っ当にやっているつもりでも内部通報は出ますので、気分が良いわけがありません。
実態は様々で、悪事を露見させるものである場合もあれば、上から目が届いていないケースが白日の下にさらされることもあります。しかし、いずれにしても内部通報は「奇貨」(ほりだしもの)とすべきです。
内部通報があれば、中身をキチンと精査して、それが真っ当な指摘であれば正さねばならないし、それが言いがかりのようなものであったとしても、その様な主張が出てくるような原因が何かあるわけですから、襟を正すべきです。「雉も鳴かずば撃たれまい」とばかりに雉を特定して処罰するなど論外です。圧政を強いた国は大体滅ぶのです。どこかの知事は歴史を学んだことが無いのでしょうか?

ところで、恥ずかしながら当社も内部通報をされたことがあります。コロナの真っ最中だったころ、窓をすべて開け放して朝礼をやっていた部門があったのですが、「屋内に集団でいることを強いている」と保健所に通報があったそうです。保健所の方も「法で強制できる話ではないのですが、何とかご配慮いただけると…」という感じだったそうですが、仕方なくその部門は以後外で朝礼をやることになりました。恐怖が強かったのでしょう。仕方ないですね。誰が通報したのか等調べもしません。さっさと改めて終わりです。

会社として配慮が足りなかったのかもしれません。「外は寒いだろ!」と思った人も居たかもしれませんが、全体の満足度が上がるならその方がよいでしょう。内部通報は「奇貨」とすべし、むしろ何かをよくするキッカケになり得るものです。これも考え方ひとつですが、上に立つのならそれくらいの懐の深さと覚悟くらいは持っておきたいものです。


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