見出し画像

ギャンブル小説「僕のお兄ちゃんがギャンブル依存症になっちゃった」

僕のお兄ちゃん、翔太は、昔から僕にとってヒーローみたいな存在だった。
5つ年上で、背が高くて、いつもニコニコしてる。子供の頃、近所の公園で一緒に野球したり、僕が転んで膝をすりむいたら「お前、泣くなよ。男だろ」って笑いながら絆創膏を貼ってくれた。

お兄ちゃんは頭も良くて、地元の公立高校を出て大学まで進んだ。
卒業後は地元の建設会社に就職して、「これで母さんを楽させてやれるよ」なんて言ってた。

そんなお兄ちゃんが、今じゃ見る影もない。

最初は些細なことからだった。
お兄ちゃんが就職して1年くらい経った頃、会社の先輩に誘われてパチンコに行ったらしい。
「たまには息抜きも大事だろ」って軽いノリで始めたんだ。お兄ちゃんは帰ってくるたびに、「今日は3000円勝ったぜ」とか「ちょっと負けたけど、まあ楽しかったからいいか」なんて笑って話してた。僕も母さんも、「お兄ちゃんが楽しそうならいいか」くらいにしか思ってなかった。
だって、お兄ちゃんは昔から真面目で、ちゃんと自分でコントロールできる人だったから。

でも、それが大きな勘違いだったんだ。

半年くらい経った頃から、お兄ちゃんの様子がおかしくなってきた。
仕事から帰ってくると、疲れた顔でソファに座って、ずっとスマホをいじってる。
話しかけても「うん」とか「ああ」とか、上の空の返事ばかり。
母さんが「最近元気ないね、大丈夫?」って聞くと、「仕事が忙しいだけだよ」と笑うけど、その笑顔がなんだかぎこちなかった。

ある日、僕がリビングで宿題してた時、お兄ちゃんがスマホをテーブルに置いたままトイレに行った。
チラッと見えた画面に、「借入残高:150,000円」って数字が映ってた。

「お兄ちゃん、これ何?」って聞いたら、急に顔が真っ青になって、「見るなよ!」ってスマホを奪い取った。
その反応が逆に怪しくて、後で母さんにこっそり話した。母さんは「まさかね…翔太がそんなことするはずないよ」って笑ってたけど、声が少し震えてた。
それから、お兄ちゃんの行動はどんどん変になっていった。
給料日になると、家に帰ってくる前にどこかへ消えて、夜遅くにフラフラで帰ってくる。
財布はいつも空っぽで、「会社で急な飲み会があってさ」とか言い訳してた。
でも、ある日、母さんの貯金通帳から30万円がなくなってるのがわかった。
母さんがお兄ちゃんに問い詰めると、お兄ちゃんは目を真っ赤にして、「ごめん、パチンコで負けて…返すつもりだったんだ」って土下座した。

母さんは呆然としてたけど、「もうやめなさい。お願いだから」って優しく言った。
お兄ちゃんも「うん、もうやめる。絶対やめる」って約束した。
でも、その約束はすぐに破られた。数日後、僕の机の引き出しに貯めてたバイト代、5万円が入った封筒がなくなってた。
お兄ちゃんに「これ、お前が取っただろ!」って怒鳴ったら、「ごめん、悠太…次で取り返すから…」って呟いた。その「次で取り返す」って言葉に、ゾッとした。お兄ちゃんの目が、なんかおかしくて。
昔の優しいお兄ちゃんの目じゃなかった。

お兄ちゃんは借金を始めた。最初は消費者金融で、10万円くらい。母さんがなんとか返して、「これで終わりね」って念を押した。
でも、お兄ちゃんはやめなかった。

友達から借りたり、しまいには怪しい業者みたいなところからもお金を借りてた。
家の電話には督促の連絡が鳴り止まなくて、母さんは毎日泣いてた。僕もコンビニでバイト増やして、少しでも家計を助けようとしたけど、お兄ちゃんの借金は膨らむ一方だった。
ある夜、お兄ちゃんが突然帰ってきて、「やった!悠太、母さん、大勝ちだよ!」って叫んだ。手に持った紙袋から、札束が溢れてた。50万円くらいあったと思う。
「これで借金返して、全部リセットできる!」って興奮してたけど、母さんは静かに言った。
「翔太、それ、どうしたの?」お兄ちゃんは一瞬黙って、「スロットで…当てたんだよ」って笑った。
母さんはその場で崩れ落ちて、「もうやめて…お願いだから、もうやめて」って泣いた。
その大勝ちの後も、お兄ちゃんはやめなかった。またパチンコ店に通い始めて、数ヶ月後には借金が100万円を超えた。

会社にもバレて、クビになった。
お兄ちゃんは家に引きこもって、昼夜逆転の生活。
僕が学校から帰ると、リビングでタバコ吸いながらスマホで競馬の結果見てたりする。
母さんはパートを増やしてなんとか家計を支えてたけど、過労で倒れて入院してしまった。
僕はその頃、もう我慢の限界だった。
お兄ちゃんに「母さんがこんな状態なのに、何でやめられないんだよ!」って怒鳴った。
お兄ちゃんはボーッとした顔で、「俺だってやめたいよ…でも、頭が…体が…勝手に動くんだ」って呟いた。
その言葉に、初めてお兄ちゃんが病気なんだって気づいた。
でも、どうしていいかわからなくて、ただ泣いた。

ある日、お兄ちゃんが家からいなくなった。
机に「ごめん、もう迷惑かけられない。探さないで」ってメモが残ってた。
母さんは泣き崩れて、僕も頭が真っ白になった。
それから何日か経って、警察から連絡が来た。
お兄ちゃんが、駅のホームで倒れてたって。

過労とストレスで意識を失ってたらしい。病院に駆けつけた時、お兄ちゃんはベッドで目を閉じてた。
痩せこけて、まるで別人だった。
母さんがお兄ちゃんの手を握って、「帰ってきてくれてよかった」って泣いた。
お兄ちゃんは目を覚ました後、ぼそっと「ごめん…俺、助けてほしい」って言った。

その日から、お兄ちゃんは依存症の治療を始めた。
専門の病院に入院して、カウンセリングを受けながら、少しずつ立ち直ろうとしてる。
まだ借金は残ってるし、母さんの体調も万全じゃない。
でも、僕とお兄ちゃんと母さんで、もう一度家族をやり直そうって決めた。

お兄ちゃんは今でも時々、「勝ちたい」って衝動に襲われるらしい。でも、そのたびに僕に電話してきて、「悠太、俺やばいかも」って弱音を吐く。
昔みたいにかっこいいお兄ちゃんじゃないけど、こうやって頼ってくれるお兄ちゃんを、僕は見捨てない。

お兄ちゃんがギャンブル依存症になっちゃったのは、僕たち家族にとっても試練だった。
でも、いつかまた、昔みたいに笑い合える日が来るって信じてる。


ギャンブル依存症の兄と、段々崩壊していく家庭の様子を描いた小説となっています。
いかがだったでしょうか。
読んでみての感想を是非お寄せいただければと思います。

以上、まる太でした。

いいなと思ったら応援しよう!