ハート/WEST.歌詞解釈 ver."W"

まえがき

WEST.デビュー10周年アニバーサリーシングル表題曲、『ハート』。
SUPER BEAVERの柳沢亮太さんに楽曲提供頂いた、10年目のWEST.を象徴するような真っ直ぐに熱いロックナンバーで、邦ロックファンの私がWEST.に惚れたきっかけでもあります。
https://www.elov-label.jp/s/je/discography/LCCN-0838

THE FIRST TAKE版、最高。この歌声で落ちました。
https://youtu.be/1UukZiM1t3w?si=QlLcKIsIL6KeBtDI

宣伝でした。大好きな曲なんです。
皆大好き私も大好きの『ハート』は、WOWOWさん全面協力のオリジナルライブ「WEST. 10th Anniversary Live "W"」でもセットリストに入っています。
"W"の特殊な点は、「ライブの映像化」ではなく「映像作品としてのライブ」
普段のライブとは違う、映像作品だからこそできるセットリストや演出で新鮮な魅力がありましたよね。上映期間延長を願うばかりです。
https://www.wowow.co.jp/film/west/

この"W"での『ハート』のパフォーマンスが素晴らしくって。
WOWOW放送版でも感動し、映画版で更に感動が深まったため、この名曲の歌詞と"W"での演出について考察してみるというのが本記事の趣旨です。

注1:柳沢さんがどこかで『ハート』の制作秘話や解釈など語られているかもしれないですが、筆者は大新参者のためそれらを全くキャッチできていないです。本記事の内容は全て私の想像力により書かれていることをご承知ください。
注2:記事の後半で"W"の『ハート』演出内容について多分にネタバレを含みます。

歌詞について

この考察に副題をつけるなら「俺達も、あなたも」
そんな解釈で読みました。

諦めたい夢なんてないよな

https://www.uta-net.com/song/353566/

初っ端ドストレート!
これこそ曲を通して伝えたいメッセージそのもので、伝えたい!という思いの強さを感じます。
歌い出しが7人全員なのも迫力を増していますね。WEST.全員からの、無添加ド真ん中ド直球のストレート。

敵わないかも 上を見て 横を見て 落ち込んだって
いずれ全身全霊が 必須なことには違いない
叶わないかも 焦るけど 足元見て 気がつくんだ
いずれ前進する以外 叶えられる術はないと 

間奏を挟んでAメロ。かなわないの同音異義語がまずオシャレです。
「敵わない」は他人と比較するニュアンスが強いので「上を見て 横を見て」落ち込む。
「叶わない」は自身の夢や理想を主語に取ることが多いので、比較対象は他人と自分ではなく、自分の現在地とを比べるでしょう。だから「足元見て」が続きます。解像度とワードセンスが高い!

皆それぞれ「かなわない」と思った時、上や横や下を見て、落ち込んだり焦ったりする。
でもその後のアクションはどちらも同じで、それでも努力するしかないに辿り着く。
見ている場所も勝ちたい相手も違うけど、結局は同じ「努力する」アクションに繋がる、という。
対比構造からの、一点への帰結!
1番Aメロにしてあまりに完成度の高い歌詞すぎます。一撃で胸打たれました。

楽しいってさ 涙を蹴散らすことじゃなくて
悔しい気持ちも 仲間と思えたときの心のこと

ここは少し悩みました。
「涙を蹴散らす」ってどういう動きなんだろう?
流し聞きしていた時は「逃げて楽ばかりするより、悔しくても戦う方が楽しい」みたいなイメージを持っていました。どこか別の所で読んだことのある言説なのかもしれません。

でもよく考えると「蹴散らす」必要があるということは、この人はもう戦って、涙を流している。
ならばこれは、単なる逃げるな! というメッセージじゃないと気付きました。

楽しいって「涙や、涙の元になった気持ちはすぐに捨てて、どこまでも明るく強気で進んでいく」ことじゃない。
「悔しい気持ちも、大事に持ったまま進む」ことこそ楽しいんだ。
もっと言うと、悔しくて流す涙は決して悪いものじゃない。

悔しさの次に現れる感情が、次こそは勝ってやるという闘争心なのか、格上の存在に出会えた喜びや憧れなのか、挫折した時こそ成長できるはずという向上心なのか、それぞれだと思いますが。
物事に本気で取り組んでいる時、悔しさは何らかの前向きなエネルギーに転換されるものという感覚が自分にはあって、この歌詞はその感覚を指しているように感じました。そしてそれは涙を伴ったっていい。

きっと いつまでも どこまでも ずっと
戦っていくんだろう 張り合っていくんだろう 自分と

「戦っていくんだろう 張り合っていくんだろう 自分と」
この語尾「だろう」の解釈も2パターン取れると思っています。
自分に対して、自分はそうしていくだろうという予感。こんなに苦しいのに諦められない事への自嘲にも近い。
もう1パターンは、目の前の人に対して、君はきっとそうするんだろう?という呼びかけ。

歌っているのが他でもない、諦めず戦ってきたWEST.だからそう感じられるのかもしれません。
どちらとも取れる歌詞だからこそ俺達もまだまだ戦うから、君達も戦い続けようぜというWEST.らしい応援の詩に感じられます。

諦めたい夢なんてないよな
涙って僕らの 正直さなんだよ
誰にも止められやしない 勝ち越せたらいい
好機を演出するのは 「信じる」をやめないハート

ここで、サビの真ん中で、歌い出しのリフレインが来る。「涙」というキーワードも再登場。
涙って感情が溢れ出したものだから、まっすぐな思いの発露だから、やっぱり悪いものなんかじゃないんだよ。
この曲で伝えたいメッセージの核はこれだと繰り返し、はっきり示している箇所です。
続く歌詞も非常に明快。真っ直ぐに熱いメッセージ!

1点だけ気になったのは、好機を「演出する」という言い回しです。作り出す、呼び寄せる、等ではなく「演出する」。
これについては、好機はそれが好機だと最初から決まっているものではなく、自分の気概によってその機会を好機にするものだから「演出する」なんだ、という意図と私は解釈しています。
信じて戦い続ければ、掴んだ機会は好機へと彩られていくはずだ。

これは完全に後付けですが、どこか彼らの掛け声「俺ら次第や」を思わせますね。

本当の敵は内側に それもまた一つの真実
それでも負けたくない誰か 競り合うことも間違いじゃない
ただ見失いたくないな 打ち負かして ニヤけたい わけじゃないこと
横も 上も 下もない 僕自身を

ここから2番です。前半部分、内容としては分かりやすい。
「本当の敵は自分」ってよく言われるし正しいと思うけど、他人との競争だって悪くないよ、と。
どんなスタンスも基本的に肯定、これもまたWEST.らしさだなと思います。

後半はもう少し踏み込んでいる印象。
いつの間にか勝つことが目的になっていないか?
他人に勝ることが目的になっていないか? 夢を叶えることが夢になっていないか?
本当は何がしたかったのかを、「横も 上も 下もない 僕自身」を、見失いたくない。見失ってはいけない。
夢を追うことを熱く勧めるだけではなく、ふと頭を冷やして原点に立ち返らせてくれる一節です。

オシャレポイントとしては、1番の「敵わない/叶わない」人物像、そして「横・上 / 下」の単語を拾ってきている点ですね。
「本当の敵は内側に」は自分の理想と戦っている、「叶わない」で焦っていた人を
「それでも負けたくない誰か」は、「敵わない」で落ち込んでいた人を思わせます。
そんな人物像達をまとめて、間違いじゃないと肯定しちゃうわけです。

その上で2番では人物像達に、「本当の目的を見失わずにいるか?」という冷静な問いを提示しました。1番では「努力するしかない」というがむしゃらなまでの推進力を持たせたのに
(ここも対比的になっていて構造の妙を感じます。)
それはきっと人物像達が、曲の展開につれて少しずつ前進できているからだと思っています。
1番の時点では色々な方向に目を奪われながらも走り出したところ。色々考えて立ち止まっちゃうけど、ともかく努力しなければ「かなわない」と気付けた時点です。
ならば次にすべきことは「目指す先を間違えない」こと。2番の問いかけに繋がるのだと思います。周りに目を奪われるな、自分を見つめろ、本当の目的を見失うな。

楽しいってさ 涙を蹴散らすことじゃなくて
悔しい気持ちも 仲間と思えたときの心のこと

きっと いつまでも どこまでも ずっと
戦っていくんだろう 張り合っていくんだろう

1番と全く同じフレーズ。
目指すべき方向へ走り出せた人物像達の背中に、改めて大事な言葉を投げかけているように見えます。

そう いつまでも どこまでも ずっと
戦っていくんだよ 張り合っていくんだよ 自分と
諦めたい夢なんてないよな
涙って僕らの 正直さなんだよ
誰にも止められやしない 勝ち越せたらいい

ラスサビ、これももうほとんど繰り返し。
とにかく伝えたいことを何度も何度も伝えてくれる、本当にまっすぐでWEST.らしい応援歌!

違いと言ったら「戦っていくんだよ」と断定形になったところ。
「だろう」が対自分でも対他人でも有り得る、という解釈を先に書きましたが、こちらも同様だと思います。
対自分なら強い意志表示、自分への鼓舞でしょう。必ずそうしていくのだと。
対他人なら、断定形で強く背中を押す意味が大きいと思います。加えて「そうするんだぞ」という言い聞かせ、より強い後押しの意味も取れるかもしれません。
文頭の「そう」があることで、より勢いが増しているようにも感じます。走れ! 走ろう!

言い換えるのなら 最後の最後に
仲間と肩組み 笑えたならいい

ずっとリフレインで来ていたのに、ここで突然新しいフレーズです。
ここは完全に柳沢さんからWEST.への大きい愛情だと思っています。

仲間と肩組んで笑えてるならそれが勝ちじゃん! なんて新しい観点を、これまで語ってきた「努力する人物像達」に追加する必要は全く無い。
「最後に笑えればいい」ならまだしも、仲間の存在なんて今まで一瞬も言及されていません。蛇足では? と思うほど浮いたフレーズに私には見えました。

でも対象を「人物像達」からWEST.に絞れば。彼らの目的って、上も横も下も取っ払って本当に目指す姿って、皆で肩組んで笑ってる姿だと、私はそう思うので。ここは愛のフレーズとしてすごく好きです。

WEST.へ宛てて書いたのか、もしかするとそのつもりは無くて、彼らを見ていたら無意識に「努力が報われて笑えてる瞬間は、きっと仲間と肩を組んでいるだろう」というイメージを刷り込まれたのかもしれません。
どちらにしても、もし私が自分一人で詩を書くなら、ここでこのフレーズは浮かばないし入れない。
にもかかわらずこの歌詞があることこそ、『ハート』がWEST.の曲だと示している気がします。

好機を演出するのは 「信じる」をやめないハート

「信じる」をやめないハート

そして最後。やっぱりリフレイン。
曲名も『ハート』、歌詞には表れないけれども、この空白行でも繰り返し歌われる「ハート」という言葉。
大事な言葉ほど繰り返されているこの曲で、間違いなく一番繰り返されている。ハート。ハート。

”W”での演出

本当に良い曲です。『ハート』。

さて、上記解釈を踏まえた上で、"W"の演出について書きます。
本項に副題をつけるなら、「あなたへ」

念のため概要のみご説明すると、関西ジュニア所属の伯井太陽くんが、WEST.7人が横並びになっている前でコンテンポラリーダンスを踊るという演出でした。
*伯井太陽くんのプロフィール
https://jr-official.starto.jp/s/jr/persons/386

コンテンポラリーダンス自体が好みの分かれやすい芸術だと思いますし、WEST.以外のアイドルが目立つ演出への違和感もあるかもしれませんが、ぜひ先入観なしに観てほしい。あれは、WEST.から私達への眼差しを引き出した最高の演出だった。

「1人分」の密度

先の解釈で述べた通り、『ハート』には「自分で自分を鼓舞する」意味と、「他人に対してエールを送る」意味を同時に持つ曲だと解釈しています。
WEST.が歌う時、それはWEST.自身の物語でもあり、聞いているファンの物語でもある、そういう歌詞になっています。

だからこそ歌詞解釈の項では、曲中に描かれている対象を「人物像達」と表現しました。具体的な誰かではなく、一人でもなく複数人でもなく、WEST.自身でもあり、私でもあり貴方でもある。
戦っているあらゆる人間へ向けた応援歌だから。

そんな『ハート』がライブで歌われる時。
WEST.の皆はステージ全体に、もしかすると会場全体にまで散らばって、それぞれにファンを指さして歌ってくれるでしょう。ライブカメラにも目線をくれるから、現地に行っていない私にだってもちろん届いています。
そして彼ら自身、夢を追った過去や現在を想って歌っているかもしれない。そうだったら、彼らを愛する私達の心にも刺さる。
直接、できるだけ多くの人へ届けてくれるメッセージがあります。

でももし、幻想でしかないけれど、WEST.のメンバー7人が「自分だけ」の後ろに立ってくれたら。みんなではなく、頑張って苦しんで藻掻いている私だけを見て、歌で背中を押してくれたら?
そんな幻想を具現化してくれるのが、あの"W"の『ハート』だったんです。

コンテンポラリーダンスの何も知らない私ですが、伝わってきました。頑張るゆえの苦しみ、生きる辛さ、でもどうしても諦められない。地べたを這って涙を流すことになっても、希望を持つことを止められない。

そんな伯井くんを見つめるWEST.メンバー7人の眼差しが、間違いなくこの演出の本質です。
「みんな」ではない、WEST.自身でもない、目の前の人間1人へ向けて歌う『ハート』の威力はものすごかった。
7人分の目線が、まっすぐに1人分の空間を向いている。
その時の、カメラに抜かれた彼らの表情!
目を離さず真っ直ぐに見つめ続ける人、重圧を与えまいというようにか時折目線を外す人、笑顔の人、真顔の人、一緒に苦しげだったり、柔らかに見守っていたり。
この人はこうやって見守ってくれるのか。7人が後ろにいると、こんなに大きく見えるのか。7人分の眼差しはこんなに強くて、声はこんなに強いのか。その全てがたった1人に向いている!
視線の先にいるのは、伯井くんだけど伯井くんじゃない。伯井くんが全身で表現する、1人の頑張る人に。私1人に。あるいは、あなた1人に。
抽象的で間接的だけれど、あの『ハート』はたった1人に向けた応援歌だったんです。頑張るあなた、たった1人へ。

うまく伝わっているか不安ですが、とにかく圧倒的な演出でした。
今日も私は私の人生のド真ん中で、もがき苦しんで生きていける。彼らは1人の人間を応援する時、あんな顔をするんだと知ったから。あの目線の先に私は私を置いて、WEST.に背中を押されながら走ることができる。

あとがき

ここからは気の抜けた感想ばかりになります。
伯井太陽くん、すごいですね〜。彼のパフォーマンスのお陰で、1か所曲の解釈すら深まりました。

誰にも止められやしない 勝ち越せたらいい

「他人に止められなんかしない」という強い意志だと思っていたんですが、それだけじゃなかったんですね。
自分にも止められないんだ。諦められるなら諦めてる、でもどうしても諦められない。手放せない。
そういう苦しみさえ拾って救ってくれる歌だったのだと、伯井くんの表情や振り付けに気付かされました。
恐縮ながら彼のことを存じ上げなかったのですが、とんでもない表現者ですね。

"W"鑑賞後に調べたところ、普段から可愛らしいファッションやメイクをされる方で、「ギャルマインド」が好きとの事。
大人と子供の狭間にある13歳で、性別にも囚われない彼は「すべての人」の投影先としても適役な気がします。成人男性ないし女性のダンサーさんではまた見え方が違ったかもしれない。素敵な曖昧さです。

それも意図されたものかは分からないというか、自分の深読み癖かもしれませんが、とにかく感銘を受けました。
最高の演出を、ありがとう丹監督。ありがとうWOWOWさん。ありがとう伯井くん、スタッフのみなさん、すべての関わってくださった方々!!!!!!!
上映期間延長してくれ!!!映像化してくれ!!!!

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