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バカにつける薬 その2
1991年8月
新しい朝がきた。希望の朝だ。
ラジオから流れるラジオ体操の歌。
小学生の夏休みの朝は早い。
金沢での夏は今ほどの暑さはなく、
とても涼しくて過ごしやすかった。
毎朝7時にラジオ体操へでかけ
ハンコを集める日々。
体操終わりにハンコを押してもらう。
最終日に貰えるノートや鉛筆などの
文房具欲しさのために行っていた。
朝ごはんをすませて、
浅野川で泳ぐ。
お昼ごはんを挟んで、
再び川で泳ぐ。
川の深さは2〜3mあった。
ひと通り泳ぐと川から崖によじ登る。
みんなで崖の上から飛び込むのだ。
毎度、飛び込むときは緊張する。
楽しさとは裏腹に、
とても勇気がいる。
恐怖心を克服し、
ガクガクする膝の震えを抑え、
5mぐらいの高さからダイブする。
青暗く深い川の底まで身体が沈む。
色んな考えが吹き飛ぶ瞬間。
ファミコンに没頭するか、川で泳ぐか、
健民プールで泳ぐか、マンガを読むか、
プラモデルを作るか、絵を描くか。
毎日好きなことだけが続く最高な日々。
夜は村のみんなで集まり、
各々が持ってきた花火を楽しむ。
花火といいながら雑談をするのが目的。
将来ここにコンビニを作ろう、
妖怪をどれぐらいの数を言えるか、
ドラえもんの秘密道具を言い合う。
古今東西のようなやり取り。
毎夜、くだらない話をみんなで語らうことが、
楽しかったし。
村のみんなは年齢が様々で
ひとつ上、ふたつ上、10才上と
年が離れていても仲がいい。
村というコミュニティの特権だろう。
1番年上の双子の兄弟。
イチローとジロー。
マンガの脇役ような名前の双子。
3番目にヒロシがいたが、
サブローじゃないのかと思っていた。
この2人のやることが
村のみんなの憧れだった。
マウンテンバイク競技の
ダウンヒルでは県内では敵無しで、
2人て1位、2位を毎回独占。
日本全体でも10位以内に入る2人が格好良くて、
こぞってマウンテンバイクを買ってもらい、
2人の練習についていった。
2人が所有する50万円を超える
マウンテンバイクは羨望の眼差しだった。
そんな2人だがたまに
とんでもない事件をしでかす。
花火の爆竹はみなさんご存知でしょう。
導火線に点火すると小さいのに
爆発音がうるさい
近所迷惑なやつ。
ふたりが爆竹を改造して、
小さい爆竹をカッターで
真ん中に切れ目を入れて
中から火薬を取り出す。
この作業をひと箱分繰り返し、
火薬を紙にまとめて
マスキングテープでぐるぐると巻き上げ
導火線をつけてひとつにまとめあげた。
(絶対にマネしちゃダメだぞ。)
広い駐車場にみんなを集めて
爆竹の実験が行なわれるらしい。
なにやらこれから
すごいことが起こるとザワつく。
駐車場の真ん中に
魔改造の爆竹をスタンバイ。
みんなに遠くに離れろと声をかけて、
イチローが点火する。
20mぐらい離れた場所で
僕たちは固唾を呑んで見守る。
凄まじい爆発音と共に爆風が顔に触れ
耳鳴りがする。
みんな大爆笑。
(頭がおかしい。笑いごとではない。)
点火位置のアスファルトが
5cmぐらいえぐれている。
もはやこれは花火ではなく小型の爆弾だ。
このあとしばらくして
ふた箱分の爆竹で再度実験していた。
子供の遊びは時に狂気だ。
バカにつける薬はない。