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「自分には何ができるんやろう。」
19才。
悶々としていた秋。
芸人は上手くいかず、誰かに会うのも嫌になって部屋にこもっていた。
カーテンを閉めて真っ暗にして。マンガは曽田正人さんのシャカリキ、音楽はUAのアメトラやpuffyのmotherのシングル、椎名林檎ばっかり聞いていた。
千原兄弟さんの金龍飛戦ライブビデオやガキの使いを擦り切れるほど見ていた。
学校にも行かなくなって3ヶ月ぐらいすぎ、このままじゃいけないと、バイトをはじめた。
大阪市にいるのに、茨木市まで交通警備のバイトに行き始めた。渋谷区にいるのに埼玉県、神奈川県、千葉県にいくぐらいの距離。交通警備の会社の社長が、
「お前変わってるな。こんな遠いのにわざわざうちに来るんやな。面白いから雇ってあげるわ。」
普通は落とされるはずが何故だか通った。
バイトをはじめて3日目。夜勤の予定のはずが何故か名前が外されていて、
「ごめん、今日は間違えてたみたい。」と交通費を渡され、すぐ帰ることになった。
「やった。何もしとらんのにお金もらえた。」と駅に着く。駅の入口でストリートミュージシャンが山崎まさよしを歌っている。腰をかけてしばらく聞いていた。
なんかウズウズしてきて勇気をもって尋ねてみた。
「一緒に歌わせてもらえませんか?」
「ええよ、ええよ。歌い。」
山崎まさよしのセロリをうたわせてもらった。
空の下で歌った気持ちよさと高揚感で、天に繋がるような感覚。ありがとうと伝えて電車に乗り込む。
「自分には何ができるんやろう。」
絵は昔っから得意やったな。じゃあ似顔絵でも描いてみるか。自宅の部屋に到着し、早々とカバンにスケッチブックとシャーペン、クレヨンといれて心斎橋商店街に向かう。夜の20時ぐらいでもかなりの人混み。シャッターの閉まったお店の前に座り、スケッチブックにシャーペンで、
絵を書きますタダで、と雑に書いておいて人混みを眺めていた。しばらくすると酔っ払いのおじさんがきた。はじめてのお客さん。緊張しながら書かせてもらった。なんとなくは仕上がったが思ったほど達成感がなかった。
しばらくすると女の子が横に座った。
彼女はあやみ、12才。彼女とグダグダと他愛もない話をしていると、スケボーに乗った外人が目の前で止まった。リチャードパーマ。オーストラリア人だ。外人やしぐちゃぐちゃに書いてみようとクレヨンで色んな色で描いてみた。
彼は「cool.」と言い、
絵を手にとってスケボーにのりゴーと音をたてながら、颯爽と去っていった。
これや。これ。これ。何か手応えをつかめた。
人を待っているのにも飽きたので、自分から声をかけることにした。あやみが一緒についてきてくれた。
「すいません。絵を描かせてもらえませんか。」
座っている人に声をかけては絵を描いた。
こんなに楽しくて気持ちいいもんがあるんやと興奮した。
時間も深夜を迎える頃、アメリカ村のBIGステップに移動して、描かせてもらっていると、
NHKの局員さんに声をかけられる。
「今度、取材をさせてください。」
名刺をもらい、そんな事になるんやとドキドキした。家に帰り、人様に見られるんやったら、もっと、もっと上手くならんといかん。次の日には交通警備のバイト先に電話をして辞めた。
絵を描くきっかけだった。