あなたはこうやって結婚生活に失敗する(4)の2

仕方なくあなたは今まで通り子育てと仕事をやりくりしながら日々を過ごしていました。しかし、実際は「今まで通り」ではありませんでした。ご主人が子育てに全く協力的ではなくなったからです。仕事が終わったあと保育園に迎えに行き、食事の準備をしながら子供の面倒をみて、そして家事をこなす…。あなたは精神的にも肉体的にも限界に近づいていました。

仕事中、集中力が低下しつまらないミスをするようになってしまいました。子供が「絵本を読んで」とせがんできてもつい声を荒げてしまいます。

ある日、会社であなたは上司に会議室に呼ばれます。

「これは人生の先輩として忠告するんだが、仕事を続けるのは無理じゃないか? 最近の君の仕事ぶりは…、なんて言うかいろいろなところに支障をきたすというか…。周りからもいろいろな声が出始めてね…」

あなたはショックを受けます。特に「周りからいろいろな声…」という部分があなたを落ち込ませました。親切そうにしている同僚たちが、本音ではあなたのことを迷惑がっていたのでした。

その日の会社から駅までの帰り道、あなたがうつむき加減に歩いていると派遣で働いている若い男性社員が声をかけてきます。

「今日、課長になんか言われたんじゃないですか?」

その男性社員は派遣でしたが、仕事の能力は高いと評価されていました。本当は教員を目指していたのですが、運悪く希望する地区で空きがなく来年受験するまでのつなぎとして派遣社員をしているのでした。

「ええ、まぁ…」

あなたは言葉を濁すしかありませんでした。正社員であるあなたが派遣社員に愚痴をこぼすことはプライドが許さないのでした。男性は続けます。

「僕、たまたま女性社員の立ち話を聞いたんですけど、独身女性の人たちは結婚して子供がいる主婦の社員を快く思ってないみたいです。結局、仕事のシワ寄せがくるのが不満みたいですよ」

あなたは曖昧な笑顔を返すのが精一杯でした。

電車の中であなたは独り言のようにつぶやきます。

「女の敵は女…」

子供と二人で食事を済ませたあと、あなたは夜遅く帰ってきたご主人に会社での出来事を聞いてもらいます。特に、あなたは「あなたを非難しているのが同性である」ことに少なからずショックを受けたことを強調して話しました。しかし、ご主人の反応はあなたを癒すものではありませんでした。

「そんなの当然だろ。みんな遊びで仕事してるんじゃないんだから余計な仕事を押しつけられたら我慢も限界にくるよ」

あなたはご主人の言葉を聞いてそれ以上話を続ける気持ちにはなりませんでした。

結局、あなたは会社を退職することにしました。ご主人の協力を得られない中、今のような生活を続けることは物理的にも精神的にも不可能だからです。正直な気持ちとしては、専業主婦になることで社会から置き去りにされる悲しさはありました。しかし、ご主人との諍いがなくなることが救いでした。

あなたが専業主婦になったことで、ご主人は以前のように子供と一緒に遊んだりお風呂に入ったりするようになりました。しかし、あなたは以前と感じ方が違っていました。

以前のあなたは、ご主人の子煩悩さはご主人の優しさからくると思っていました。けれど、実際は単なる気まぐれでしかなかったのでした。以前は、あなたも子育てに慣れていず無我夢中でしたのでご主人の本質を見抜くことができないでいたのでした。その当時、あなたはご主人がたまにでも子供をあやしてくれるだけで満足していたのです。

その意味で言いますと、あなたは仕事を辞めて正解だったのかもしれません。あのままの生活を続けていたなら子供に負担をかけることになっていたでしょう。あなたはご主人の気まぐれを補うべく子育てと家事に全精力を傾けました。

そんな生活を続けていたある日。

あなたは風邪をひいてしまいます。しかも悪いことにこじらせてしまいました。あなたは寝込んでしまいます。あなたが寝込むと困るのはお子さんです。「あなたが寝込む」ということは、ご飯の用意をする人がいなくなることですし洗濯をする人がいなくなることです。

あなたはご主人に「できるだけ早く帰宅するように」お願いをします。当初、あなたは寝込んだとしても1日も寝ていたなら治るだろう、と思っていました。しかし、医者の診断では、肺炎の一歩手前まで悪化しているとのことでした。それはつまり、寝込む期間が長引くことを示唆しています。

あなたの症状を聞き、ご主人は二日目も早めに帰宅してはくれました。しかし、機嫌が悪いのは明らかでした。あなたが日々行っていた家事をご主人がやらなければならなかったからです。

とうとう、三日目。

ご主人の帰宅は深夜になりました。仕方なくあなたは覚束ない足取りで立ち上がりやっとの思いでご飯の用意をしました。そして、子供にご飯を食べさせるとすぐに寝床に入りました。ご主人はなかなか帰ってきませんでした。あなたが待ちくたびれ疲れきって、ウトウトしていた深夜遅く玄関を開ける音がしました。あなたは漸く安心して眠りにつくことができると安堵しました。

あなたには台所から物音がするのが聞こえました。あなたは想像します。ご主人が台所を片付けてくれているのではないか…、と。台所には、あなたと子供が食べ終わった食器が残されたままだったからです。

あなたはご主人が寝室に来るのを待ちます。

少ししてご主人の寝室に近づいてくる足音が聞こえました。寝室の前で止まったのがわかります。そしてドアが少し開き、ご主人が顔だけを覗かせて言いました。

「おまえ、ご飯の用意したのか? 本当は病気じゃないんじゃないか」

翌朝早く、あなたは実家の母に電話をしました。

「助けて…」

あなたはこうやって結婚生活に失敗します。

男女平等が叫ばれる今の時代でも女性だけに負担を押し付ける男性はいるものです。それは時代に関係なく、個人の資質によるものです。結婚は二人で支えあって初めて成り立つ共同生活です。それができない相手と結婚をしてもうまくいくはずはありません。

また、一見、優しそうに見えた相手もある期間一緒に暮らしてみなければ本質まではわかりません。仮に、結婚前に「相手の本質を見抜いている」と確信を持っていたとしてもなにかのきっかけで本質が変わってしまうこともあります。人間はときの流れとともに「変わるものだ」と覚悟していることが必要です。


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