コラム「松尾さんと平尾さん」

*2011年12月11日のコラムです。

今までにこのコラムで著名人のふたりを対比したことが2回ほどあります。これは対照的な考え方や生き方をしている人を紹介することによって、若い人たちに「世の中にはいろいろな考え方や生き方がある」ということを知ってほしい、と思っているからです。もしかしたならそのような○○的な理由とは別に、単純に「似たような二つを対比したい」という僕の個人的嗜好も多少あるかもしれませんが、それはお許しください。まぁ、敢えていうなら、「対比シリーズ」といたしますか…。

 というわけで、今週紹介します「松尾さん」と「平尾さん」ですが、この苗字だけですぐに人物像がわかる人はどれくらいいるでしょう。中高年の方々でスポーツに興味がある方ならすぐに思い浮かぶかもしれません。ラグビーに関心がある方なら絶対に知っています。それほど、ラグビー界では有名な両氏でした。
 もちろん、この二人を対比するのは確たる理由があります。そうですねぇ、例えるなら、雑草対エリートです。松尾さんが雑草で平尾さんがエリートです。こう言っては松尾さんに怒られるかもしれませんが、見た目もこの例えそのままです。松尾さんは雑草そのものの風貌ですし、平尾さんは折り目正しく外観もエリートそのものです。そうですねぇ、違う例えにするなら、「北京原人 対 知的紳士」、といったら松尾さんに怒られるでしょうか。もちろん、僕が好きなのには北京原人です。
 二人には共通点があります。ラグビー界で頂点を極めた経験があることです。しかも、偶然にもどちらも7年連続という期間でした。平尾さんが神戸製鋼を率いて7連覇を成し遂げたとき、新日鉄釜石の記録を破るかも、と僕は思いました。ですが、結局7年で途切れてしまいました。7という数字にはなにか意味があるのかもしれません。
 実は、僕は社会人になるまでラグビーに興味を持っていませんでした。それまで僕はサッカーに興味を持っていました。しかし、残念なことに僕が中高生の頃に見ていた青春ドラマで主人公がやっていたスポーツといえば、それはラグビーでした。当時、僕的には「ラグビーのどこが面白いのかわかりませんでした」が、不思議とドラマではほとんどがラグビーでした。僕の記憶では、青春ドラマで主人公がサッカーをやっていたのは「飛び出せ青春」というドラマだけだったような気がします。それ以外は全てラグビーでした。子供心にサッカーでなくラグビーだったのが不満だった記憶があります。
 僕が、サッカーを好きになったのは小学校の頃のコムロ君に影響を受けたからです。コムロ君は中学生になってもそサッカーに対する思いいれが薄れることがなく、自分の希望通りに高校は帝京に進みました。理由はサッカーが強かったからです。僕はその友だちを見ていて、小さい頃からの自分の進路を一歩一歩進めているようで、羨ましく思ったのを覚えています。
 話は戻りますが、僕はコムロ君と放課後はいつもサッカーをして遊んでいました。そうしているうちに、いつの間にか一緒にサッカーをやる友だちが一チームを作れるほどの人数になっていました。
 ある日の放課後、いつものようにコムロ君の家に行くと、コムロ君が大人の男の人と話をしていました。コムロ君は僕に気づくと僕に向かって言いました。
「今度から、斉藤のおじさんにコーチをやってもらうから」
 おじさんの名前は斉藤でした。年のころは30代後半くらいでしょうか。コムロ君によりますと、コムロ君は2階建てアパートに住んでいたのですが、斉藤さんは同じアパートの2階の端に住んでいる「奥さんのいない」男の人でした。
 それから、斉藤さんは毎週日曜日は必ず学校の校庭で僕たちにサッカーを教えるようになっていました。今思えば、なんと優雅で悠長な地域社会だったでしょう。アパートの2階に住んでいる独身男性が同じアパートに住んでいる小学生とその友だちを集めてサッカーの練習をしていたのです。しかも、小学校の校庭を勝手に使って…。昭和レトロの香りが漂ってきますよね…。
 そんな日曜が幾度か過ぎた頃、練習が終わったあとに斉藤さんがみんなを集めて言いました。
「今度の日曜に知り合いの先生がいる小学校のチームと試合をするから」
 これもまたなんとレトロ感満載の出来事です。学校のクラブでもなくきちんとした運営母体がある組織でもない、単にしがない中年男性がサッカー経験の浅い小学生を集めただけの集団を率いて公立小学校の公式サッカー部と試合をするのです。ユニホームどころか靴さえそろっていない集団です。まだ「チーム」ともいえない「集団」と呼ぶに相応しい陣容でした。
 そんな集団と練習とはいえ公式のサッカー部が試合をするのですから、現在では考えられない出来事です。現在でしたら、そんな得たいの知れない集団などと試合どころか一緒に練習さえできないのではないでしょうか。間違っても、得たいの知れない集団が学校の校庭を使用することは不可能です。
 さて、試合結果ですが、相手の小学校のチームは1軍から6軍までありました。どれだけレベルが高い学校だったかがおわかりになるででしょう。それに対して僕たち「得たい知れないチーム」は11人ぎりぎりで中のひとりは試合のためだけに参加したサッカーを知らない同級生でした。今思い出しますと、「よくもまぁ、試合をしてくれたものだ」と不思議な気分にさせられます。
 結局、1軍から6軍まで全てのチームと試合をしたのですが、6軍から4軍までと相手にしたときは我がチームは、いえいえ「集団」でした。我が集団は勝利を納めることができました。しかし、3軍から1軍に対しては全く歯が立ちませんでした。これが、スポーツの世の中です。レベルによって実力差は明確に現れていました。僕はこのときに、世の中にはレベルという違いがあることに初めて気がついたのでした。

 …とここまで書いてきて、僕は気がつきました。確か、今週のテーマは「松尾さんと平尾さん」でした。しかし、テーマとは全く違う話を展開してしまいました。読者の皆さん、誠に申し訳ありません。今週のテーマについては来週また書きますのでどうかご容赦ください。では、来週をお楽しみに…。

 ところで…。
 妻の携帯電話の調子が悪くなり、携帯ショップに機種変更をするために行きました。平日の午後6時頃です。店内に入りますと、60才くらいの女性のお客さんがひとり、店員の方とお話をしていました。僕が店内を見渡しますと、展示品を整理していた30才くらいの男性と目が合いました。僕が軽く会釈をしますと、近づいてきて声をかけてきました。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件で…」
 僕が「機種変更で…」と告げますと、男性はスマートフォンが展示されている棚を指差しながら
「そうですか。スマートフォンなどのご希望はございませんか?」。
 僕が「それはちょっと…」と言ますと、携帯電話の棚のほうに移動しながら、「こちらが携帯でして、2万から3万円くらいですね。今は、以前みたいに無料で、ということはなくなったんですよ」と早口でまくしたてました。実は、僕はこの時点で、その話しぶりに困惑していました。お客様の話を聞く、という姿勢が全く感じられず、単に自分のセールストークだけを矢継ぎ早に口にしていたからです。
 それから、電話に関する話を幾度かやりとりをしましたが、最初の話しぶりは変わりませんでした。正直に言うなら、僕は半分怒りさえ感じていました。しかし、僕の性格上、それを相手に直接ぶつけることはできません。僕は迷った末に次のように言いました。
「すみません。なんか相性が合わないようなので、今日は帰ります」
 読者の皆さん、僕の対応どうですか?  僕の精一杯の我慢の言葉だったのですが…。
 その二日後、僕たちは大手電気店の携帯電話売り場で機種変更の手続きをしようと行きました。そこでは、本当にいい店員の方に出会え満足の行く対応をしてもらいました。いくら通信会社がいろいろな販売策を講じようが、大切なのは現場での販売員の姿勢です。どんな業界で働いていようとも、現場で働いている皆さん、どうか頑張ってください。
 じゃ、また。

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