一期一会
noteでの投稿は初めてとなります。
言いたいことは大抵140文字以内に収まるので、この先利用することはないだろうと思っていましたが、今の自分の気持ちを表現するには文字数が足らず。備忘録として残しておきたい、そう思った次第です。それくらいに衝撃的な出来事でした。
未だに頭がぼぅっとして。もうなんにも考えずにただ香りの中にふわふわと漂っていたい…そんな気持ちで書き連ねております。
ところで 皆さんは何のどんな香りがお好きですか?
洗いたてのコットンの香りや上質な革の香り、季節に咲くお花の香りや 雨に濡れた草の香り、それとも…?
前職の会社の社長は「印刷機のインクの香りが大好き」と仰っていました。
私は新車の香りや、メンディングテープの香り、新しい神社仏閣の香りも大好きです。もちろん愛猫の香りも。
香りはその人の趣味や嗜好、性質や生い立ち、過去の思い出までも映し出してくれるものであり、それほどパーソナリティなものだと思っています。
占い師と呼ばれる人達は、お仕事柄 感覚を研ぎ澄ませメッセージを受け取るということもあり、香りにもこだわりを持っている方が多いように感じます。
先程あげた新車やメンディングテープの香りのように、私にしかわからない大好きな香りのひとつとして"化粧品の香り"があります。一番思い入れが深い香りと言ってもいいかもしれません。
百貨店の化粧品売場は 今日もたくさんの人々が行き交い、雑踏に紛れつつも優雅な香りに包まれていて。まるで美しさ故に世間に翻弄されつつも自身をしっかり持った芯の強い女性そのものを象徴するような、そんな気さえしています。
私は20代の頃、百貨店でメイクアップの仕事をしていたことがあり(語り出せば長い話になるのでここは省略します) 化粧品や、百貨店のコスメフロアの香りを嗅ぐと、とても懐かしい気持ちに襲われます。
化粧品売場の香りを想像してみてください。人によってはむせ返るような匂いと表現する方もいるかもしれませんが、私にとっては当時のキラキラした日々や一生懸命だった自分を思い起こすための記憶のスイッチのようなものでもあるのです。と同時に目標に向かって奮起する熱い思いを呼び起こしてくれるような、そんな存在であります。
特に用事がなくても百貨店の化粧品売場を通り抜けてみたり。いわばライフワークの一部となっているようなところはあります。
先日もいつものように化粧品のフロアへ。各メーカーのブースやイベントスペースに目をやりながら通り過ぎようとしたところで フレグランスコーナーに目が止まりました。勿論普段からよくあることで、色とりどりの美しい香水瓶に引き寄せられるように近づき、備え付けのムエット(試香紙)に香りを吹きつける。
香りを確かめながら(しかし香水ほど商品説明の多い割に売上に繋がりにくいところはないよなあ…)などとぼんやり考えつつ。
有名な香水ブランドのブースをぐるりとまわりながら嗅ぎ覚えのある香りを試し終え、様々な香水ブランドが集められた売場の一角に辿り着く。最新の香りがディスプレイされたショーケースに目を凝らしていると 「こちらは×月×日に発売されたばかりの香りで… 」と優しい声が耳に入ってきた。
頷きながら今度は壁面の棚に視線を移す。ん~…と迷ったふりをしていると「どのような香りをお探しですか?お差し支えなければ是非」と先程の声の主
今まで、自分の欲している香りを細かく伝えても 伝わった試しがなく。といっても私にも過去お気に入りの香りはいくつかありました。が全て廃盤となり瞬く間に香水迷子に。好みとしては肌と一体化するような香りが好きなので、ラストは大抵柔らかな軽めのムスクになります。
わかってもらえないだろうなと思いつつ「なかなか理想の香りに辿り着けなくて…」と伝えると、女性は私の視線の先にあったミラーハリスの香水瓶を手に取り説明をし始めました。ツンとしたアルコールが真っ先にくるような香りは好きではないと伝え(因みに飲むお酒は好きです) その流れで、良質な香水ほど香りが直線的で、良い意味で変化に乏しいですよねという話にとても共感して下さいました。
女性は小柄で細く、歳の頃は50代に差し掛かったくらい、きちんと手入れされた長い黒髪をひとつに束ね、物静かで それでいて洗練された雰囲気を醸し出していました。
この女性なら、わかってくれるかも。
なんとなくそう感じ、理想の香調をそのまま伝えた。
トップがピオニーやハニーサックルなどのホワイトフローラル、ミドルはピーチやベルガモットの果実の温かみが合わさり、ラストでムスクやカシミアウッドがほんのり漂うような香りが私のタイプなのですが(これだけ聞くと普通にどこにでもありそうですが、トップからラストまで全て叶えたものがそう簡単にないのです^^;)それを伝えると女性はしばらく斜め上の方向を見つめ 「きっとお気に召されるのではないかなという香りがいくつかあります」とにっこり笑った。
その笑顔がちょっと悪戯っぽくて、あまり誰にも知られたくないとっておきの香りがあるんですよと言っているように思えた。
私は匂いに敏感なほうで、猫アレルギーにより年がら年中 鼻が詰まっているにもかかわらず、香りだけは鼻の奥の奥にあるセンサーで感知しているような感覚があります。
よく嗅ぐ香りには違う香りを重ねる、ペアリングやレイヤリングといったりしますが、二種類以上の香りを重ねたり、下着用、髪先用、膝の裏と足首用など、それぞれに違う香りをつけて香り立ちを楽しんだり。人と被らない香りという点では、並々ならぬ思いがあります。
香りの楽しみ方はさておき
女性がテスターを取りに売場を去ってから かなり時間が経過したような…そう感じていた矢先、女性はクラシカルな香水瓶を2~3持ってきてガラスのショーケースの上に並べ始めました。見るとアンティークのような美しい小瓶、よく目を凝らすとイタリアの老舗ブランドの名前が。え?…香水も出してたの?全くのノーマークでした。お値段としては決して安くはない。女性曰く同ブランドの香水はいくつか種類があり、どれも天然香料で作られた繊細で奥行きのある香りだそうで。女性は「玄人ごのみというか、どれも単調な香りではないので わかりにくく なかなか良さが伝わらないんですよね…」と呟き、更にキャップを外しながら「このボトルがアンティークぽくて本当に可愛いんです」と目を細めて微笑んだ。
香りのタイプとしては複雑で一筋縄ではいかないような印象のものが自分の好みらしく、嗅いだ瞬間の第一印象としては、ん?よくわからない香り…が私の中の正解なのです。
いくつかあるうち最も手の込んだ香水瓶をみると"WHITE MAGNORIA"と書いてある。木蓮かぁ…お香なら持ってるけど、木蓮がベースとなる香水は初めてかも…などと考えつつ、渡されたムエットの香りを確かめる。
イタリアンマダムが愛する老舗ブランド というイメージがあったので、まだ半信半疑です。
嗅いだ瞬間。 …あれ?よくわからない香り…
久々の感覚でした。天然香料は香り自体が飛びやすく持続性に弱い部分があります。その代わり香り立ちが柔らかくて変に悪目立ちしないというのが特筆すべきところ。また たくさんの香りをひとつに閉じ込めるほど香りが複雑化し、第一印象は"よくわからない香り"となるのです。
これはもしかすると私が長い間探し求めていた香りでは…と否が応でも期待が膨らみ。
ムエットで確かめた香りを今度は腕の内側に。少し時間を置いて香りを確かめると、爽やかなベルガモットにシダーウッドの沈着さが直線ではなく優しく弧を描きながら漂うように香る。マグノリアとホワイトウッドが追って重なり、繊細で上品な印象。ローズも僅かに入っていますが、所謂ローズ特有の凛とした上品さではなく、小さな白い薔薇の蕾を摘んで閉じ込めたような可憐さが微かに香る程度、出過ぎず程よいバランスでまとまっている印象でした。
ローズは主張しすぎるからあまり好きではないと伝えると女性は「私もです」と。ここまでくればラストのムスク&ウッディが決して重すぎたりベタっとした感じではないこともわかります。
改めて嗅いでみる。ああ…求めていたものだ
ここに辿り着くまでの様々な出来事が映画を倍速で見るかのように脳内を走り抜け、しばらく黙ってしまいました。
女性は私の表情を見ると「同ブランドでお好きな感じのものをいくつかお持ちしますね」と。
追加で持ってきた香りは、それぞれ種類は違えど、どれもまた非常に繊細で、嗅ぎ覚えのある香りや苦手と感じる香りはひとつとしてありませんでした。シャンタンという香りもローズが入っているのに主張しすぎず上品にまとまっています。こんなにまあるい印象のローズはなかなかないような。どの香りも 表現するなら育ちのよいきちんとした、バッグからイニシャルの入った白いハンカチが出てくるようなイメージ。なんとなくおとめ座っぽいなと感じました。
以前、海外から取り寄せたヴィーガンフレグランスは著名なファッショニスタ達がこぞって愛用していたけれど、全種類試してもピンとくる香りはなかった。
レイヤリング可能なブランドも、ふたつ以上でやっと好みの香りになるため、お財布に響きます。
オーガニックブランドは香りが直球すぎるものが多く、なんとなく面白みに欠ける。※個人的所感です。
途方に暮れていた矢先の運命の出逢い
もしこの女性と出逢わなければ、倉庫に隠されたこの香りと出逢うことがなかったかもしれません。
またお店を訪れるタイミングが少しでもずれていたら 女性は休憩などでフロアを離れていた可能性もあります。
そんなことを考えているうちに、ふと これは鑑定にもいえることなのではないのかなと。
占い師にとってクライアントは複数人のひとりに過ぎないかもしれませんが、クライアントにとっての占い師は他には替えられない唯一無二の存在であるかもしれないこと。
また、香りの選択にこれほどまでに感銘を受けたのですから、人の人生に関わる選択であるならば、もっと感銘を受けるのではないでしょうか。
人の人生に携わり またその人生を大きく左右し得るということ、この仕事に就けることへの喜びと同時に畏れというものを改めて強く感じました。
そして、相手の求めるものを求める量だけ 相手にわかる言葉で伝えること。私は鑑定の折に常にこの言葉を念頭に置いています。(敬愛する先生の言葉をお借りしました)
クライアントにどのような背景があり、何をどのように悩んでいるのかをよく理解し、何を求めているのかをちゃんと察することが必要。決して自分の知識をひけらかしたり、価値観を押し付けるようなことはあってはならないのです。
香水売場の女性は、私が求めているものを察し、的確に且つ手際よく提案してくれました。決して押しつけがましくなく、優しくスマートで且つソツのない対応にとても感動しました。
まだまだ修行の身ではありますが
いつか、この人と出逢えたことで私の人生が大きく好転したと感じてもらえるような占い師になりたいです。
追記
香水売場の女性はKAWABEのマネージャーでした。お勧め頂いた香水は今もお気に入りのひとつとして愛用しております。 2024.1.12