L字定規で大きな円柱の直径を測れ!(解説)

問題はこちら:

答え:直径401cm

問題のL字定規で測定した円柱の直径は401cmになります。なぜそうなるか解説します。

解説:相似&三平方の定理で求まる!

 L字定規の短い方の長さを1、長い方でL字の角から円柱の接点までの測定距離をLとしましょう。求めたい円柱の直径をRとします。円柱を真上から見た模式図を描くと以下のような図になります:

この図に幾つか補助線を引きます:

 こうすると「接弦定理」が見えてきます。接弦定理というのは、円の接線と弦が作る角度が、その弦の円周角と等しくなるという定理です。上の図で言うと∠BACの黒丸が接線と弦が作る角度、そして∠ADCがその弦の円周角です。

 次に△ABCは直角三角形ですから、黒丸と青丸の和は90度になります。一方でL字定規の長い方は円柱に接しているので∠BADは直角です。そこから∠CADも青丸になる事が分かります。よって△ABCと△DCAは相似です。

 2つの三角形の相似比から、

円柱の直径Rが直角三角形ABCの斜辺ACのべき乗になる事がわかります。ACのべき乗は三平方の定理がそのまま適用できますから、

円柱の直径Rは、短い方が1であればL字定規の縦横が作る長さのべき乗和で直接算出できるんです!面白いですよね~。

 今回の問題は短い方が1cmで長い方の測定値Lが20cmでしたので、上式に代入すると、

となるわけです。

 ちなみに、短い方の長さが1ではなくてaの場合、

比の計算が上のようになり、

と短い方の長さで割り算する事になります。

2点を取って直径Rを得る

 ここからは深堀です。円柱の直径を測る方法は他にも考えられます。例えば円柱の水平面に点を2つ取ります:

 直径Rは半径rの2倍。なので半径が分かれば直径もわかります。上図の円周Lの長さと内角θそして半径rの関係から、

半径rは内角θが分かれば算出できるのがわかります。それを知るには2点A、Bの法線を測定すればいいんです。法線NA、NB(正規化していると仮定)の向きが分かったとして、その内積を取ります。すると、

で内角θが求まります。以上から、円柱の直径Rは、

と計算出来る事になります。もちろん法線ベクトルを云々ではなくて、2つの法線間の角度θを分度器などで直接求めてもOKです。

 これと近しい方法を使って求められたもの。それは「地球の直径」です:

 紀元前にエラストテネスは夏至になるとシエラという町の緯度の底まで日の光が届く事を知りました。これは法線に相当します。同じ夏至の日に少し離れたアレクサンドリアで日光の角度を測定し(2つの法線の角度を測定したのと同じ)、シエラとアレクサンドリア間の距離Lから地球の直径を概算しました。

 円柱や球の一部しか取れないとしても、法線があればその直径を測る事が原理的に出来るわけです。

 もし法線を出すのが難しいという事であれば、別の方策も取れます:

 同様に円柱の水平面に2点A、Bを取り、今度はその点での接線を引きます。すると2つの接線が作る角度が内角θと等しくなります。理由は上図から自明ですよね。この内角θと点AB間の円周距離Lがあれば、半径rがすぐに求まります。

 接線であれば、例えば木の板などを円柱の面にあてがえば引く事が出来ますし、そういう器具も割と簡単に作れると思います。接線は法線よりは取りやすい測定値かなと思います。

 このように対象となる物を測定するというのはあらゆる科学や工業の基本です。そしてこの測定データが世の中を支えています。同じ対象でも測定方法は色々と検討できます。今回の問題からもそれはわかりますよね。その時に「精度をいかに高くできるか。いかに測定を簡潔に早くできるか。」という事がとても大切になります。

 測定誤差が大きいと作る製品や科学的根拠が粗くなってしまいます。精度良く測定できる事に越した事はありません。しかし、かと言って精度を高める為に測定に非常に手間がかかるとなると、今度は測定コストが高くなってしまいます。科学データというのは1回の測定で済む事は普通ありません。統計学的に信頼のおける結果を出すには、それこそ同じ条件で何千、何万とデータを取り、その平均値や誤差の分散を考慮する必要があります。この時1回の測定に時間がかかるとデータ数が犠牲になってしまいます。データ数が少ないと当然統計的な誤差が大きくなるため、信頼のおける結果を出せなくなります。またその時間差自体がデータ誤差に繋がる事も大いにあり得ます。その為短時間で測定できる事も物凄く大切なんです。

 高い精度かつ短時間で効率良く測定するにはどうしたら良いか?それを考える時にも数学的な知識が大いに役立ちます。難しい数学も多用されますが、中学高校で習う基礎的な数学だってそういう所にバンバン応用されています。このマガジン「ビビパズ」を通してそういうのを少しでも多く知ってもらえると嬉しいです。

ではまた(^-^)/

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