2019年5月③ 右も左もオッサン
「フー、フー。」
階段を上ると、目の前に「応接室」がある。
私が面接をした部屋でもある。
私が階段を上り終えたと同時ぐらいに、その部屋からゾロゾロと人が出てきた。
谷「あ、松谷アドバイザー、今度北港に来るマルオ君です。」
マ「フー。あ、マルオと申します。よろしくお願いします。フー。」
松「おー、君がマルオ君か~、松谷です。よろしく~。」
松谷アドバイザー。おじいちゃんのようだが、身なりはピシッとしていて、幾分若く見える。60代半ばといったところか。
当面、私の面倒を見ることになっている。
松「初日当日のことは聞いてる?」
マ「あ、はい。フー、朝、8時半に倉庫の前でアドバイザーと待ち合わせ、と。フー。」
松「おい、大丈夫か?息切れしてるみたいやけど。」
前の面接で来たときに感じたのだが、この会社の階段、段差が高い。角度が急だ。
なので、運動不足の私にとっては一段、一段が大変な作業だ。
10段ほどしかないが、2階に上がっただけでそれなりの運動になる。
マ「あ、大丈夫です。すいません。」
なんとか息を整える。
松「うん、聞いてるんやったら当日よろしく。まず最初に、D(私が働く請け負い先の会社ね)の人達に挨拶するので。」
マ「わかりました。よろしくお願いします。」
松「よろしく。」
そういって、松谷さんは、事務所の方へ行った。
続けてヒョロッとした細身の男性が出てきた。
年は私と同じくらいの40代ぐらいの人だ。
マ「あ、どうも、マルオと申します。これからよろしくお願いします。」
井「井川です。よろしくお願いします。」
お互いペコリとあいさつをする。
井「会議が終わった後、Dでの仕事の内容の話しようと思うんやけど・・・。」
チラッと谷さんを見た。
谷「うん、それで頼むわ~。」
井「そしたら、その時よろしく~。」
井川課長は、階段を下りようとしたが、私が邪魔だった。
仕方なく、私は応接室に入りスペースを空け、井川課長は階段を下りて行った。
応接室には残り二人の男性がいた。
一人は『あの顔』。
マ「あ、社長、おはようございます。これからよろしくお願いします。」
社長「あ、おはよう。こちらこそ、よろしく~。」
社長は笑顔でこたえた。
(うん?社長の笑顔はいつもひきつってるなー、口角がヒクヒクしてる。)
この笑顔は愛想満開だ。
そして、その横にもう一人。
こちらも、ニコニコしている。満面の笑顔だ。
社長と違って営業スマイルだ。
マ「あ、初めまして、マルオと申します。これからよろしくお願いします。」
富「富永です、よろしく。噂は予予(かねがね)きいてます~。」
マ「?何の噂ですか~?」
富「いやいや、良くできる人だという噂ですよ。」
ニコニコと答える。その顔がまた、私には意味深に思える。
マ「いやいや、全然僕はできないッスよ~。」
笑いながら答えた。
谷「マルオ君、もしかしたら知ってるんちゃう?一緒に働いてた時。」
マ「あ、あ~・・・。」
私と谷さんが同じ会社で働いていた時の倉庫の、横の棟の倉庫で、この会社が入っていた。
当時の私達の事務所は、その横の棟のこの会社の事務所の横にあったので、何度かはすれ違っていて挨拶はしたかもしれないが・・・。
マ「な~んとなく、拝見していた覚えがありますわ~。」
富「私は覚えてましたよ。」
ニヤリとこちらを見る。
(このオッサン、怪しい・・・。)
(このオッサン、谷さんとなんか同じにおいがする・・・。)
私の『警戒センサー』が反応する。
聞けば富永さんは部長だそうで、この会社のNo.2らしい。
その次が谷さん。
(おいおい、この会社の上位三人大丈夫か~?)
そんな不安な事を考えているうちに、社長と富永部長は、応接室を出て事務所の方へ行った。
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