
【企業調査(概要)】トラスコ中山(東証PR/9830)
ライトに企業を知ろうと続けているこのマガジン記事。
今回はトラスコ中山さん。
ダイフクさんが好決算で、そういえばトラスコ中山さんってなかなか個性的な会社だったよなぁ、と思いながら株価を見てみると安値じゃないですか。きちんと調べた事がなかったと思い、とりあえず有名な統合報告書をチェックしながら同社の理解をしてみようと思い立ちました。
では、サマリです。

最低限、有報などは目を通すのですが、今回は統合報告書をメインにしました。というのも、同社の統合報告書は「解体新書」とも表現されている通り、同社の価値観が非常によく伝わってくるものですね。統合報告書って綺麗にお化粧されているケースも多々ありますが、そんな中で同社はらしさが出ている内容だなと感じます。

事業内容は経営理念である、「がんばれ!!日本のモノづくり」に沿って、あらゆるモノづくり現場に対して必要な物資や道具類などを仕入販売する卸売問屋です。
仕入先は国内外に多数あり、一方で顧客も多数あり、その仲介のような存在であり、ここではコンセントにさすことで連携が生まれるという、とても感覚的にもわかりやすい表現がなされています。

よくある、専門商社のようなものか、とみてしまうとそれまでなのですが、こういった商社の場合、即納体制や在庫の充実などの付加価値を訴求するモデルですね。ここに付加価値が生まれるわけです。過去に投資をしたことのある会社さんとしては、コンドーテックさんとかもそういった感じですね。
そしてこの後、色々な話が出てくるのですが、この付加価値を徹底的に高めた姿を同社は志向しています。
特徴として書いていますが、同社を知る上で、まず驚くのは、徹底的な逆説志向です。例えば、この手のビジネスモデルの場合、在庫管理においては、適正な量を在庫として持ち、事業上リスクバランスをとりましょう、というのが定説ですね。売れ行きの悪いものは効率が悪いので、売れ行きのよい商品をラインナップしましょうということです。コンビニのような感じですよね。しかし、同社はむしろ売れないものでも、在庫をもっていれば売れるんだ、という発想なのです。ですから、一般的なKPIとなりがちな在庫回転率ではなく、総出荷のうちどれくらいを在庫から出荷できたかという率を重視されているわけです。なんともユニークです。もちろん、こういう発想で運営していて、きちんと遜色ない収益をあげられているということですからね。

物流においても一般的な物流網とは異なる運営をされています。線ではなく円で構築されているわけです。ですから迅速かつ返品運用ひとつとっても顧客にとって利便性がある運営になります。また物流コストの構造も固定費型になっていて、これはリスクである一方で、ネットワーク化が構築された上でみると合理的ですね。こういう仕組みが成立できてしまっているというのは、大変高い参入障壁なのだと感じます。

そして、こういう定説に沿わないような逆説的な経営を志向されているのはなぜなのだろうと思って読み進めていくと、トラスコイズムという、これまでの社歴の中で文化になっているものが明文化されています。

ひとつひとつを読んでいくと興味深いなという内容が並んでいます。投資家にとっては、ROE/ROA/PERなどあるがお客様に無意味な経営指標に興味がないとも書かれていて、おおっ、ってなりますね(笑)。ただ、これも別に投資家に対して不誠実であるという趣旨ではないでしょう。ただ、ステークホルダーマネジメントにおいて、まず顧客主義だということなのでしょう。これはいいことだと思います。ROE/ROAみたいな所に目標を掲げて、投資家にも発信するというのは多くの会社がなされていますが、そういうことは敢えてしない、という価値観なのでしょう。そもそも数値目標より能力目標を重視しているとあります。有報でも経営上重要な目標数値みたいな項目には、数値目標は一切言及がなく、能力目標とありますね。
他にもいかにも昭和の価値観っぽいのに、修羅場なんてない方がいいとバッサリ切り捨てています。武勇伝とかも要らないってことなのでしょう。どうしても創業家社長で長く社長が君臨していると、そういう苦労あっての今、若者も苦労をせい、みたいな変な文化に傾きそうですが、むしろそういう雰囲気がないように感じます。
持つ経営ややめる経営戦略なんてあたりも、逆説的であったり、なかなか戦略論では多くの足し算を見る中で引き算をきちんと意識していることもよいですね。
ちなみに能力目標とは以下のようなものですね。「なりたい」で結ばれていますね。同社が成長のための目標というより、顧客のために尽くす、もっといえばモノづくりを支えるための自社のケーパビリティをどうより高めていくかにとてもフォーカスされて書かれていると思います。結果的に成長もするでしょ、ということですね。

そしてこの目標に向かっていくためにどのように価値創造をしていくのかという、統合報告書としてよくある説明スライドです。
こういう常識に捉われない自律的な会社が故に、「極める」、「究める」といわれるとなんか本当にそういう事を志向しようとしているんだろうなという納得感も変わってきますね。
そしてこの中で目を引くのは、この中央のカッコいい図ではなくて右上の常識一変、原則不変という部分です。常識は普遍的なものではなく世の中の変化によって一変しうるけど、商売の原理原則は変わらないということで、これを見出そうとしているのは素敵ですね。
実際、過去にリーマンや震災、コロナなど過去に大きく生産現場にも影響が出たことがありましたが、減益こそあれど赤字はありませんね。

資産の外部依存についても根幹をなすところは自社資産に拘っています。だから持つ経営なのですね。昨今BSを軽くするために、あるいは自社のコアコンピタンスをよりとがらせるために、うまくアウトソースしましょうというのは定説だと思います。同社はそうではないということです。

とまぁ特徴があり過ぎて中々面白い会社だなと感じました。そしてそれは大きな参入障壁にもなっていると感じます。強い会社だなと。
投資戦略ですが、残念ながら、大きなカタリストもないですし、急成長という感じもありません。株価への配慮というものもむしろあまりないように思います。配当面は善択配当方針を掲げていて、きちんと配慮はされています。むしろ減配が予見される際に償却費を一部原資に組み入れるとか、一方特別損益で増減した分は控除するというようなことで、安定配当志向においては単に流行りのDOEとかではないわけですね。
とはいえ、じゃ高配当になりえるかというとそういうわけでもないですし、EPSが大きく伸長する余地があるかというとそういうわけでもないわけです。
ですから、超長期で応援投資的な意味合いになるのかなと感じました。普段、パフォーマンス極大化を志向しようという環境下で2倍株、3倍株、10倍株みたいな発想でみると、実に退屈な投資先候補ということになります。ただ、私のような企業に寄り添いながら、良くも悪くもパフォーマンスが安定することを大切にしたいという発想する場合にはおいては心地よいのではないかなと思います。
とはいえ、以下のように同社の株価推移は10年期間でみるとヨコヨコ展開です。当時のEPSは100円程度だったはずですが、今では200円を超えています。少なくてもそれなりに成長はしているはずなんですが、株価は残念ながら同水準で推移しています。この辺りをみると、じゃ超長期で見たときにどうなんだろうか、って思案してしまいますね。(ちなみに20年チャートでみるとそれなりのリターンになっています)

また自己株買いについても正論だと思います。ただ、一方自己株買いには株主還元的な評価を受けることも実態としてある中で、同社はその志向を否定しています。

とはいえ、じゃ、株主を大切にしていないのかというとそういうわけでもありません。むしろIRポリシーも含めてとても共感できるものですね。株主総会は全編きちんと動画公開されています。ただ株主総会で質問を制限しているのはいただけないですね。1人1問までではなく、せめて1人1回につき1問までとするべきでしょう。何よりもっと質素な会場でもいいので時間をかけて対話した方がいいとも感じますね。

そしてM&Aについても株主総会の議事の中で説明されていましたが、M&Aで膨張ではない筋肉質な体質を大切にされ、何より物流投資こそがそれにあたるという説明ですね。素晴らしいと思いました。

他社比較として同業の山善と日伝さん、そして競合とみなされるMonotaROさん。MonotaROさんはそもそも小売りですし、何よりMonotaROさんが同社から仕入れてますからね。むしろパートナーでしょう。
で、MonotaROさんが成長企業として脚光を浴びる会社でして、高い評価ですね。業績もずっとずっと好調です。その主要仕入先になっているのが同社なわけです。
で、卸業としての同業としてみるといずれもPERはそれなりに高い評価がついています。元々卸売業はPERが低くなりがちですが、専門商社の場合多少高くなることもあります。にしても、トラスコ中山さんはそもそもPERも低いですね。PBRも0.7倍ですよ・・・。
そういう目線でみると、過去の推移からみても、同社にPER10、PBR1.0くらいはついてもいいのではないかなと思っています。そしてまぁシクリカル要素も多かったりするので、凹凸はありそうですが、EPS270位まではある程度の時間があれば手が届くとすると2,700円。赤字がない前提でみるとBPSも3,000円程度には手が届くとするとやはり株価は3,000円。こうなるとまぁ今の2,000円からみると一定の改善余地があるのかなとは思います。
ただ、色々と特徴があるばかりにリスク要因にも書いた通り、色々あるだろうなとは思います。この辺りはまだ同社の理解が浅いため、決算説明会や株主総会などIRを通してより理解を深めて、この特徴ある会社に寄り添えるものかをゆっくり判断していければいいなと思いました。
頑張れ、トラスコ中山!