シュッピン(東証1部/3179) 2021/3 Q4本決算精査
シュッピンの2021年3月期Q4本決算が開示されました。当記事において決算の内容を精査したいと思います。あくまで個人的見解に基づき記載しておりますので、誤認等もあるかと思います。お気づきの点などございましたら、ぜひツイッターからお気軽にご指摘を頂ければ幸いです。
1.サマリ
数値は減収減益の決算となりました。何度か減益は経験がありますが、同社が減収になることは初めてのことではないでしょうか。とはいいつつ、コロナ禍の中でよく頑張りました。特に昨春の緊急事態宣言明け以降は、外部環境にも大いに助けられ、業績面でも増勢となり期初計画から大きく上方修正しての着地となりました。
また、足元の商品在庫も潤沢な状況が続いており、オペレーション面でもAI活用による高度化施策もローンチされ今後も期待が持てる状況となっています。
今期ガイダンスとしては増収増益を見込み、売上、利益ともに過去最高を目指すこととなります。また中計のローリングも行われました。基本的に毎年ローリングするのですが、昨年はコロナ禍の下で見通しが立てられないということもあり留保されており、2年ぶりの更新となっています。コロナ禍で大きく前提が変わったこともあり、前回の数値からみると下方修正となっていますが、営業利益ベースでCAGRは概ね20%の成長を目指す従来の成長基軸の面は保った形となっています。ただ、同社は最初の緊急事態宣言下では大いに影響を受けたわけですが、その後はむしろ業績面では追い風になっています。確かに中期的に見て免税の押し上げ分は見通せなくなったとか下押し要素もないわけではありませんが、同社の成長シナリオのメインシナリオではありませんので、コロナ禍の境に前提が変わったというだけでこの下方修正を安易に受け流してもよくないかなとも思います。むしろEC化が優位に働く点、メーカーからのミラーレス市場がいよいよ本格化してくる等の見えてきた環境面を踏まえて、どういった要因があるのか、それに対してどういうPDCAを回すのかは注視していきたい所です。
いずれにせよ、従業員の方へ決算賞与等できちんと処遇していますし、今後も期待が持てる内容だなという決算だと思います。ただ、株価水準をみるとPERは20倍を超えているわけですから、これくらいのグロースは前提となっているものとも思います。なにせ、元々強いグロースを期待されてた印象もあるでしょうから、株価がどういう反応になるのかわかりません。まぁ私が保有したまま気絶しているので、あとはおわかりですね…(笑)。
2.数値状況
まずはPLの数値情報からみていきます。改めて短信表紙ですが、減収減益です。期初時点では3割近い営業減益見込みだったわけですが、1桁減益の水準まで回復しています。
四半期別の推移をみてみると、下期では過去最高水準を更新しています。更に興味深いのは、同社は元々12月商戦が通年で一番の稼ぎ時ということもあり、Q3に偏重した決算となっています。しかしながら、今期については、なんとQ4の売上がQ3を超えています。17年3月期にもこの珍事があったのですが、その翌期の18年3月期は17年3月期の高い成長から更に一段成長を実現してくれています。今回が同じようになるかはわかりませんが、これだけ尻上がりという所をみると、今の諸々のが恵まれた環境下では期待してしまいますね。
通年の推移についても参考に載せておきます。
中身についてもう少しみておきますが、営業利益率は今期は4.8%で着地しており、ここ数期はずっと4-5%程度で推移しているため、そのレンジ内ということになります。とはいいながらここ数期は漸増傾向で5%に近い所になってきており、その主因としては粗利率がじわり回復している点があげられそうです。これは適正な買取価格と売値の設定がAI活用の施策などもあり徐々に成果が出てきているように思います。元々今期あたりはミラーレスの新品売上により粗利率は出にくい構造だと思いますがそれでもこれだけ堅調なのはよいと思います。
一方、販管費の推移をみてみると、一貫して漸増傾向にあります。20/3期、21/3期でコロナ禍の影響もあり売上の伸長が止まっているため、販管費率が高まっています。同社は店舗を持たず、販管費を極限まで減らす事による低コスト体質が強みのひとつですから、外形的に販管費率が上がっていることをネガティブ視するむきもあるかもしれませんね。販管費の内訳を決算説明資料よりみておきます。3期分の比較をみておきます。
人件費は一貫して体制の強化に加え、コロナ禍における従業員への安心のために拠出を絞ることをしていません。これはむしろいい事だと思います。また広告宣伝費は抑制させていて、この辺りは素晴らしいですね。販促費や委託費はモール出店のコストがどうしても比例的に上がりますから特に21/3期分のモール売上分はやむえないですね。この他にもこの3年ではキャッシュレス還元対策や店舗改築・移転のコスト等いずれも一過性コストと思われます。
むしろ人件費の増加やコロナ禍であっても継続したEC投資と長期的にみてきちんとなすべき投資をしている印象があります。販管費率はむしろ売上の軟調さが故だと思います。
今期ガイダンスの営業利益率は4.8%と21/3期実績とほぼ同じ見込みです。販管費率はここ数期で2%程上がっていますが、前述の一過性コスト等の低減と売上回復があると営利率として2%程度の改善期待があるのではないかと感じます。もちろん、ECへの投資などはまだまだ続くと思うので、すぐにはどうかわかりませんし、同社の中期目標としては8%を目指していますからね。数値を伸ばすことと、効果的な投資をすることの狭間で、悩ましい状況ではありますが、いずれにせよ今の販管費率の上昇、販管費の増加というコスト増はまるで悪いもののようには思えません。むしろもっと投資をして岩盤な事業環境を構築して欲しいと思います。
この他、決算説明資料に様々な軸で数値の説明がなされています。中古比率はミラーレスの大型商品が出た影響で一時的に中古比率が下がっています。これは粗利率低下要因ですが、いずれミラーレスへの移行が進む過程で中古流通もより出てきます。実際そういう動きを示しています。但し、フィルムからデジタルへのシフトの時と同じように一眼からミラーレスの流れが進む中で長期的には環境が大きく変わるため、どういう市場トレンドになるのかは注意が必要です。この点は、IR照会でも理解を深めており、会社側も十分認識した上で戦略構想されていたので安心していました。
また商材毎の動きですが、長年赤字だった自転車がこのコロナ禍での追い風もあり、21/3期では通年で黒字化を果たしています。売上が大きく伸びているので、自転車のあさひも部品を扱うシマノも好調ですからね。一方で、筆記用具は需要が落ち込み通年で赤字です。売上が大きく落ち込んでいますね。それで肝心の写真と時計についてみないとなりませんね。写真は大きく伸びていますが、これは高額帯のミラーレス一眼がいよいよ市場へ本格投入されている事が主因ですね。この流れはまだまだ続くと思います。何せ私もまだ乗り換えられてないですからね(株で損しまくってるせいですw)。最近では写真系のSNS関連をみていると、マップカメラ利用しているシーンが多くて、大人買いしている人も多くてインフルエンサーの影響は結構大きいのではないかと思います。今後私も含めたアマチュアが本格的に市場に入ってきます。この辺りの好機であることは会社のガイダンス前提の文章内からも伝わってきますね。一方、時計については、前期でロレックスを戦略的に仕入れたものが奏功して、ボリュームも大きいため一気にQ4で伸長を強めました。これは3月の免税売上の伸長にもみられるように、一気に増勢となっていることがわかります。ただ、このコロナ禍で免税の売上が伸びている?ってなりますよね。私はアホなんで免税で時計が売れている!?ってなって、色々調べたりIR照会を通してようやく理解しました。簡単にいえば、円安効果もあり、ビジネス客として訪日している人が買われれているということです。これはありがたいのですが、継続性があるものであるかは不透明のため、この分は割り引いてみておかないとならないかもしれません。
続いて、BSですね。注目すべきは棚卸資産ですね。同社のBS上では商品にあたります。こちらも高位に推移していますね。ただ、ロレックスも増えていることから、カメラ商材でどこまで増えているかも気になる所です。
ECチャネルでの買取推移をみると、こちらはカメラ事業のみですが、こちらをみるときちんと伸長しています。もちろん、コロナ禍の下、更に市場変化の追い風もありますが、同社の施策がうまく効いている様子も窺えます。
3.中期展望について
このタイミングで中計の数値もローリングされています。前回は19年5月に開示され、20年5月はコロナ禍の影響の見通しがつかず、留保されていました。
ツイートもしたのですが、今回は数値面では前回から下方修正となっています。ただ、コロナ禍ではむしろ追い風になっている部分もありますから、どういうロジックでこういう判断になっているのかはもう少し理解を深めておきたいところです。元々意欲的な目標を設定する傾向のある会社でもありますが、この辺りのトーンを抑えめにしているということなのか、あるいは、精いっぱいストレッチしてもこの程度が限界という事で辛うじて最終年度も入れてCAGR2割を堅守するように見せているのか。
また、以下のツイートの通り、会社のWebページでの案内における目標と平仄があっていません。素直に読めば売上の伸長より効率を高める事を優先するフェーズにも読めますが、利益率を高めるためには原価率を下げることになります。これはエンドユーザーの安心と離反するものでもあります。形骸化しているのであれば、適正に見直すべきですし、そうでないならもう少しわかりやすい一貫性が求められる気がします。
4.さいごに
同社はこれまで決算等でも細かく推移を見守り、時にIR照会などを通して理解を深めるようにしています。しかし、決算精査記事等はUPしておらず、ツイッターでたまに言及していました。流石に本決算ということで、久々に記事にして整理しました。昨年は総会も出席できなかったので、今年はなんとかいけたらいいんですけどね。
事業については、カメラと時計がメインですが、特にカメラが好調なのはいいですね。フルサイズ一眼への還流が続くことで、同社もよい風を受けるものと思います。時計も表面的にはとても良い状況にみえますが、今のロレックスの戦略がうまくいっている中ではいいのですが、免税に依存もある不安定な状況でもあるので、こちらはコロナ禍収束を前提に、継続性のありそうな所へうまく回帰してくれるといいですね。
AIの投資の成果は今後本格的に出てくると思います。ただ、今出来ている事はまだまだ先進的なものではありません。ようやく時代について言っている程度のことです。AIと名がつけばなんだかすごいもののような印象もありますが、本人認証にしてもダイナミックプライシングに近いAIMDも従来のオペレーションの効率化という面では効果があると思いますが、エンドユーザーへの安心との天秤の中で、大胆な事が出来るわけでもありません。IR照会でも、なんでも合理的、効率化みたいな話ではなく、マーケティング部のメンバーがきちんと精査を重ね、また情報発信など一見無駄にも思える活動を通してファンを根付かせ、魅了していって欲しいです。今後も頑張って頂きたいですね。
頑張れ、シュッピン!
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