ガキたちよ この本を読んでくれ!!・・・丸谷 良
世の中には腐るほど本がある訳ですが、二〇二〇年も半分を迎えようとしている今、世の中に夥しく存在しているこれらの本を全て読むことっていうのは、さすがに無理がありますよね。僕も昔はよく思ったものでした。
「この世界にある本を全て読んだとしたら、俺はさぞ女の子にモテるんだろうな」
ってね。
でも無理なんです。人間の寿命というのはだいたい八〇そこらでしょ。今でこそ、人生100年時代なんて言ってますが、もうね、人間なんて70越えた辺りからやる気なんて何にも起こらなくなりますよ。読書どころの騒ぎじゃないですよ、ええ、きっと。それどころか、それくらいの歳で早くも自分の子供に介護されていたりするかもね。羽田圭介さんの『スクラップアンドビルド』じゃないですけど、身を粉にして働いて育て上げた実の子供に、
「ジジイ!てめっ何度言ったらわかるんだよ!そりゃし尿瓶じゃなくて花を生ける花瓶だろー!このスッタコーー!!」
とか、とんでもない暴言吐かれたりしてね。あるいは、
「ったく、よく食うジイさんだな。てオイ!またワカメ残してんじゃねえか!ちゃんと残さず食え!どんだけ昔お前に注意されたと思ってんだヨオオ!」
とかですね。人間、長い目で見たら自分の人生どうなるかわからんのですよ。血を分けた我が子にこんなこと言われたりね。たまんないッスよね、正直なところ。
話が逸れましたが、とにかく人間の一生のうち、この世に存在する全ての本を読むことは不可能である、ということなんですね。そこで必然的に、この限りある時間の中、できることなら少しでも良い本に出会いたいと思う訳なんです。
ここで注意していただきたいのが、今、多くの新刊書店では、お店の一番目立つところに「年収1億の経営者がやっている7つの習慣」とか、「仕事が速い人のビジネス術」とか、「成功する大人の教科書」みたいな、いかにも役に立ちそうな本が並んでいます。皆さんもその光景を見たことがあると思います。そして、恐らく本屋さんが一番読んでほしいであろう、本当に面白い小説やエッセイ、時代の風雪に耐えた素晴らしい文学なんかはもう、店の奥の隅の方にギュウギュウに押しやられているんですよ。
そう言った本棚は、店の入り口からはもう霞みがかって見えなくなってる勢いなんです。どこからともなく「春霞 たてるやいづこ…」の和歌が哀愁たっぷりに聞こえてきそうな雰囲気が漂っています。でもね、僕は書店に行き、店頭に置いてあるビズネス書の山を眺めるたびに、
「あっ、今日もウンコがたくさん積んであるぞ」
と思っています。そうです。大好評、みんな大好きビジネス書は実はウンコなんです。だって、読んでもちっとも面白くないんですよ。だいたいどれも同じこと書いてあるし…やる気になるのはその時だけで、その一時間後にはまた絶望している自分に気づきますよね。どうして新刊書店がそんなクソ本を撒き散らしているかと言えば、やっぱり儲かるからなんですね。
僕の超勝手なイメージから言うと、ビジネス書はちょいワルオヤジたちが一生懸命読んでいる感じがします。真っ黒に日焼けして、胸元がガッツリ開いた香水くさいちょいワルオヤジが、ブルガリのネックレスをジャラジャラ言わせながらピチピチのジーパンを履いてビジネス書を買い漁り、女の子のお店なんかに行って、
「俺今コレ、読んでんだあ〜」
とワニ革のギラついたセカンドバックから、
「仕事ができる人の最高の時間術」とか言うタイトルのやつを取り出すんですね。そして隣に座ったオネエチャンからは、
「え〜すごい〜エリート〜」
とチヤホヤされると言う一連の流れですね。僕がもし隣に座ったオネンチャンだったら、
「そんなクズ本捨てて飢餓海峡でも読め〜!」
とか言ってテーブルに置いてある「いいちこ」のビンでぶん殴ってますね。
僕は声を大にして言いたいです。ビジネス書を読んでいる人間も、漏れなくウンコ野郎なのだ!
今回は、この世界からこれ以上ビジネス書、及びそれを愛読するウンコ人間たちを増やさないために、本当に面白い本について、全国から優れた有識者の方にお集まりいただき、「緊急座談会」を開催していただく運びとなりました。以下、その顛末を記録した議事録となります。
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