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ウンコにまつわるエトセトラ・・・Mもとかなこ
ある六月の雨の日のことだった。雨粒がトタン屋根に優しいリズムを刻んでいる昼下がり、少し湿り気のある空気を纏いながら、私は便器を作っていた。厚手のラワンの一枚板から電動工具を用いてなだらかなカーブを描くように卵型の円を切り出し、ドーナツ状に中をくり抜き、ヤスリで角を丸めていく。粉塵が舞い、吸い込みを防ぐために着けたマスクのせいで呼吸のたびにゴーグルが曇る。手を止めてゴーグルをずらし、一息つく。まだ少しいびつな便座の穴を覗き込み、近い未来にこの穴を通り抜けていくであろう物体に思いを馳せた。穴の向こうに、ぼんやりと過去の記憶が蘇ってくる。
私はモロッコの乾いた大地をロバと共に歩いて旅をしていた。ロバの背には水・食料・テントや寝袋などを載せ、自分は大きなバックパックを背負っている。気ままなロバの歩調に合わせて歩き、ロバがもう歩かなくなったらそのあたりでテントを張って眠りにつく。
ロバと歩いたのは半月ほどだった。山を越え、川を渡り、大西洋に出て最後は小さな村まで約200キロの旅路を共にした。その道中は、村や町が数日おきに点在するのみで、荒野や砂埃の立つ道、ときどき舗装された道を歩くことになり、途中に建物などは無い。もちろん公衆トイレも無い。ただそこには壮大なスケールの青空トイレが無限に広がっていた。
私の「お花摘み」デビュー戦はサボテンの群生地だった。なんと異国情緒溢れる光景だろう。非日常感しかない。胸の高さほどあるサボテンはしゃがむと隠れられるので助かる。蠍が出てこないか冷や冷やしながらそそくさと成し遂げ、新しい扉を開けたのだった。
その旅の道中、今でもまざまざと思い出せるほど鮮烈に印象に残った青空トイレがいくつかある。
海辺の漁村にたどり着いたときのこと。夜明けとともに漁師が船を出す喧噪の傍ら、路地裏に身を潜めて息を殺して誰も来ないことを祈りながら全うした。
あるときは地平線に大きな夕陽が落ちるのを見ながら。涙が出そうな景色に圧倒されながら、赤い大地に溶けていった。
渓谷を歩いていたときは、岩と岩の間に脚をかけ、深い深い大地の裂け目に産み落とした。風を切る音とともに暗い奈落の底へそれは落ちていった。下から吹き上げる風が爽快だった。
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