筑前煮フォビア~おとなりの夕飯の香りを添えて~

私は筑前煮というものを妙に嫌悪している。

嫌いになるほど食べた覚えはないし筑前煮がどんなものかをはっきりとも思い浮かべられないのだが、「筑前煮」という料理名を聞くと嫌な顔をしてしまう。
私がこんなにも筑前煮を嫌う元となったのは、漫画「あたしンち」のとあるエピソードである。

中学生のユズヒコは、給食まであと少しという4時間目をじれったく過ごしていた。
席の近い友人らと「いま何が食べたいか」という話になり、各々食べたいものを列挙していく。
「俺ハンバーグが食べたい。チーズがのっててジュウジュウ言ってるやつ」
「ああーそれ食べたい!」
給食への期待が最高潮に高まったとき、4時間目の終わりを知らせるチャイムが鳴る。

そこで出てきた給食のメインが筑前煮である。

私はユズヒコらの食べたいもの夢想にどっぷりと浸っていた。どんどん期待をふくらませ、「あーそれ最高!もうそれしかない!」と思った瞬間に、筑前煮。
筑前煮が悪いわけではない。わかっている。ただチーズののったハンバーグと比べたがために、暴力的なまでの肩すかしになってしまったのだ。

こんなわけで、私は筑前煮に敵意を燃やすようになったわけである。

話は変わるが、隣家の台所の換気扇は、どうやら我が家の浴室の窓に向かって空気を吐いている。
浴室から玄関へはまっすぐに廊下が通っており、浴室の窓から入った空気は家じゅうに抜ける。

夕飯時、二階の自室から階段を降りていくとぷうんといい匂いがたちこめてくる。
いい匂い!今日の夕飯が楽しみ!
幸せな気持ちでキッチンに顔を出す。
無臭。
米すら炊けていない。

「お母さん、今日、から揚げじゃ・・・」
「ああ、それはね。お隣。うちはね、焼き魚。」
「あああああああ!!!!!」

お隣の夕飯の香りによって、今日も私は「筑前煮効果」を受け落胆している。

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マルコメ乙女
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