三味線ブラザーズの思い出
「三味線ブラザーズ」というアーケードゲームをご存じだろうか。
Wikipediaによると、2003年7月に稼働を開始した音楽ゲームで、当時人気を集めていた「太鼓の達人」の影響を受けた三味線シュミレーションゲームとのことだ。
三味線ブラザーズの稼働開始当時、私は高校生で、「ポップンミュージック」にハマり「アルカディア」というアーケードゲーム専門誌を愛読していた。
三味線ブラザーズにはマスコットキャラクターの二匹の猫がいた。東海道中膝栗毛(「アンパンマン」のおむすびまんとこむすびまんをイメージしてもいいかもしれない)のような旅装束の兄弟猫だ。
アルカディアの読者投稿コーナーには「ウンジャマラミー」(「パラッパラッパー」の関連ゲーム。プレイステーション版をもとにアーケード版も展開されたが、パラッパラッパーほどの人気はなく、ほどなく稼働終了した。)の主人公ラミーが猫兄弟に「あんたたち・・・あたしと同じ匂いがするねえ」と言うイラストが投稿されていたのを覚えている。
その投稿通り、本家ともいえる太鼓の達人ほどの人気は得られず、ほどなくして三味線ブラザーズはゲームセンターから姿を消した。
三味線ブラザーズが稼働していた頃、私は何度かプレイしてみたことがあった。
なかなか面白かったが、ギターほど華やかでなく、太鼓ほどとっつきやすくもない三味線をモチーフにしたゲームであるせいか、私以外のプレイヤーを見かけることはほとんどなかった。
ある日私がプレイしていると、車いすの老婦人が少し離れたところでヘルパーらしき人に車いすを止めるよう頼んでいるのが見えた。
私がプレイしている様子を、老婦人は音楽に合わせて頭を揺らしながらにこにこと見ていた。
誰も並んでいないので飽きるまで何度でもプレイするのが常だったが、プレイ人口を増やして猫兄弟の寿命を延ばすことを目論む私はなれなれしくも老婦人に「やってみませんか」と声をかけた。
「ええ、いいのよ私は。見ているだけでいいの。私はもう弾けないから。
若い人が三味線に興味を持ってくれるなんてねえ。嬉しいわあ。
ねえ、よかったらもう一度弾いて見せてくれない?」
老婦人に請われるがまま、私は100円玉を筐体に入れた。
老婦人は本当にうれしそうに聴いてくれた。終わった後、私の手を取って
「ありがとう、ほんとうにありがとう、楽しかったわ」
と100円玉を握らせてきた。
「いえ、いいんですそんな、私が遊びたくて遊んでたんですから」
「いいの、いいのよ、私が弾いてほしくてやってもらったんですもの。もらってちょうだい」
断りきれずに100円玉を受け取り、お互いに何度も頭を下げながら帰った。
それからも何度か三味線ブラザーズを楽しんだが、いつの間にか三味線ブラザーズを見かけることはなくなっていた。
しばらくして、デイケアセンターでリハビリに「太鼓の達人」などのゲームを活用するというニュースを目にした。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0409/30/news084.html
もしあの老婦人のもとに三味線ブラザーズがあったなら、と思ったが、やはり三味線型の大きなコントローラを膝の上に抱えるのは難しそうであるし、取り入れられたというニュースは無かった。
そもそも彼女が同系列のデイケアセンターを利用してはいなかったろうが、様々な所に広まって、いつか彼女にも楽しんでほしいと思った。
ちなみに、今もゲームをリハビリに取り入れる試みは続けられているらしい。
http://www.s-ai.co.jp/