衣擦れの音と新しい家族
深夜に目が覚めると、隣で寝ている夫から、衣擦れの音が聞こえる。
夫と暮らし始めたばかりの頃、これがすごく違和感だった。
夫と一緒になるまで長らく独寝だったため、まず、隣で人が寝ていることに大きな違和感。
更にそれがぐぅぐぅと寝息を立てる。なんならいびきもかく。大変に違和感。
寝返りをうつ時の、布団の擦れる音。とんでもなく違和感。
夜に限らず、他人の生活音というのは、慣れるまで結構ストレスだ。
(私が神経質すぎるのかもしれない。)
いつの間にか違和感を感じなくなった時、夫の寝息に安心感を覚えた時、私は、やっと夫との生活に慣れたのだと気付いた。
この冬、家族が増えた。
私のお腹から出てきた彼女は、最初のうちは、じっとして動かなかった。
ちゃんと生きているのか、寝ているうちに息が止まっていないか、不安になるほど静かだった。
正直、「家族が増えた」という実感はなかった。何が何やら、まだ分からない。何一つ慣れない。違和感。
少し経つと唸り声をあげ始めた。
病院の先生によると、まだ体が小さいので、胃腸を動かすために一生懸命唸るのだそうだ。
雷のようなボリュームで唸る。唸りながら足をバタバタさせて回転する。北を向いて寝かせたのが、いつの間にか西や東を向いている。(もしかして私の知らないうちに一周して北を向いている可能性すらある。)
これが気になって仕方ない。安全面の心配もあるし、そもそも、夫以外の人間の音が聞こえることに、強烈な違和感。
ところが昨夜、ふと、静かな衣擦れの音に気付いた。
唸り声じゃない。泣き声でもない。すぅすぅという寝息。たまに足を動かすので、布団と肌着が擦れる音。穏やかな音。
この家には私と夫以外に、もう一人人間がいて、一緒に暮らしていて、これからも一緒に暮らしていくのだ、ということに、強い実感を覚えた瞬間だった。
しばらく眺めていると、唸り声をあげて足を大きくバタバタと動かし始めた。
今日は東を向こうとしている。
私はそっと彼女を抱き上げ、彼女の頭を定位置に戻した。