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父と陰【家族エッセイ】

私には物凄く陰口を言っていた時期がある。中学生の頃だ。
今現在も言う時は言うがあの頃は比ではなかった。
私は小学5年生の頃から毎日日記をつけているのだが、中学校に入った途端に愚痴っぽさが顕著に現れている。
その原因は部活動にあった。私の進学した中学校のバスケ部には3年生は一人もおらず、2年生だけだった。その中に経験者は3人しかいなかったので小学生の頃からバスケを習っていた私と幼馴染は入学して早々、スタートメンバーになった。その日から未経験の2年生から陰湿な嫌がらせを受けるようになった。
真夏でも真冬でも雨の日でも、部室の中で着替えることは許されず、屋外で着替えていた。そこで制服のスカートをラップタオルのように使って着替える技を習得した。部室に鞄を置くことは許されていたが、それも幼馴染のものが土足で蹴られていたり、本当に最悪だった。私は下の代に絶対にこんなことしたくない。そう思った。

そして家に帰り食卓で愚痴れるだけ愚痴った。ほぼ毎日先輩の悪口を言っていた。悪口を言いながらも、楽しい話をした方が家族もみんな明るくなることがわかっているのに、どうしても話して発散しなければ気が済まなかった。
そんな私に父が
「陰口を言ってしまう気持ちはわかる。それを否定はしないけど、陰口を言うより陰褒めをする方が良いよ。その方が幸せでいられるよ。」
と言った。当時は、何も良い所がない先輩をどう褒めれば良いんだと、父は何もわかっていないと思っていたが、大人になってからは父の言う通りだと実感するようになった。
父は別に先輩のことを褒めろと言っていたわけではない。中学生に私にはそんなこともわからなかった。

大人になってからは嫌なことを陰で言わなければいけない間柄であれば自然と関係性が希薄になって会わなくなっていくものだから、陰口を言う機会もなくなる。その代わり、本人に直接は言えないけど、その人の好きなところを他人に伝えるということが増えたなと感じる。誰かの好きなところを伝えてくれる人も、周りには多いような気がする。

陰口ばかり言っていたあの頃よりも、好きな人のことを好きと言っている今の方がずっと楽しい。

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