ジレット&ヒックス。かつて”悪夢”を見ていた話。
ブレントフォードが昨季の我々同様、ホーム4得点で赤い悪魔を蹴散らし、”悪魔”を追い出したいファンがスタジアムでバナーを掲げた第2節。
”悪魔”はユナイテッドのオーナー、グレイザーファミリーのことだが、リバプールにもかつては、グレイザー同様、クラブを商品としてしか見ていないオーナーが実権を握っていた過去がある。
2007年2月6日にクラブを買収したアメリカ人実業家、ジョージ・ジレットとトム・ヒックスの話である。(以下、G&H)
さっそく見ていこう。
The living nightmare
『The Athletic』の記者でリバプールファンにはおなじみのJames PearceがまだLiverpool Echo在籍していた2015年の記事のタイトルになった言葉だ。
この記事で初めて知ったが、現シティオーナーのシェイクマンスールもリバプール買収を狙って交渉までしていたらしい。調べると、全部OBのグレアム・スーネス発で、彼が10年以上前に親族とホテルで会って・・・という話。
このオーナーがリバプールの所有者だった約3年半。
いったい何があったのか、ざっとまとめると・・・
買収
2007年2月に総額2.2億£の買収をおこなった両名は当時、すでにスポーツチームを所有していた。
・ヒックス→MLBテキサス・レンジャーズ(〜2010.1)とNHLダラス・スターズ(〜2011.11)
・ジレット→NHLモントリオール・カナディアンズ(〜2009.12)
そして2003年アブラモビッチ✗チェルシー、2005年グレーザー✗ユナイテッドという外国大型資本がプレミアリーグ参入の黎明期で、アストン・ビラ&ユナイテッドにつぎ、アメリカ人が買収した3番目のプレミアリーグクラブとなった。
以下は、2人の共同声明。
ちなみに、新スタジアム構想と命名権売却もぶちあげていた。
命名権売却は補強資金のためと明言している。
少なくとも、「カネを使う」ことは期待が持てていたと言えよう。
実際、前述のレンジャーズでは2001年に10年総額2億5200万ドルの当時史上最高額となる大型契約でマリナーズからアレックス・ロドリゲスを獲得していた。※しかし年俸削減のために2004年にトレードで放出。
この章の最後に、残念ながら2ヶ月前に亡くなった元会長兼オーナーのデイビット・ムーア(1991〜2007在任)も紹介したい。
CL優勝や、カップ制覇など10タイトル獲得を在任中に達成。しかし急速な成長を見せるプレミアリーグの変化についていくため、外部からの投資が必要だと判断して会長職を退いた。退任後は名誉会長を務めた。
しかし、冒頭で紹介したエコーの記事では「ヒックスたちの下調べが事実上まったく行われていないかった」と指摘されている。
以下は、退任時の声明。
ずさんな移籍金収支
G&H政権下(約6年)での移籍金収支はこちら。(transfermarkt参考)
収入
2.75億€
支出
4.26億€
収支
-1.51億€
FSG政権と比較してみる。
収入
5.35億€
支出
7.71億€
収支
-2.36億€
ん?
なんとFSGの方がマイナスを大きく叩き出している。
FSGは選手INOUTでのマイナスをチケット・グッズ・スポンサー等でプラスにすることができていたということだろう。そしてもちろんCL&プレミア優勝ボーナス等でも。
H&Gは勝つチームをつくれなかった。
H&G政権時成績(シーズン/リーグ順位/タイトル)
07-08/4位/CLベスト4
08-09/2位/CLベスト8
09-10/7位/CLGL敗退、ELベスト4
10-11/6位/ELベスト16
11-12/8位/FAカップ準優勝、リーグカップ優勝
12-13/7位/ELベスト32
太字が合格点のみ。
FSG政権時成績
13-14/2位/
14-15/6位/
15-16/8位/リーグカップ準優勝、EL準優勝
16-17/4位/
17-18/4位/CL準優勝
18-19/2位/CL優勝
14-15を除き、毎年レベルの高い合格点を超える成績をオールウェイズ出してくれる。
主力が次々と退団。
H&G政権下で退団した主力選手。
Xabi Alonso(09夏)
Álvaro Arbeloa(09夏)
Javier Mascherano(10夏)
Fernando Torres(10冬)
トーレス退団時にはFSG(当時New England Sports Ventures(NESV))への売却が決まっていたため厳密にいうと対象外だが、H&G時代と彼の在籍期間がほぼ重なるため入れた。
アロンソ&マスチェラーノの退団で屋台骨が崩れ、トーレス退団でトドメ。
GKとDFは主力が残っていたため、悪くない布陣だったが、MFとFWが壊滅的で、スアレスが来たもののまだこれからという感じだったため、本当にジェラードしかいなかった。
他にも・・・
共同オーナーになって数ヶ月で2人で仲違い。もともと運営方針に違いがあった。ジレットは2008年に辞任を申し出たが、クラブ株式の50%以上を持つヒックスによる拒否権で実現せず。
是非はさておき、2007年にチーム買収後に掲げた新スタジアム建設も翌年資金調達が難航し、中止。
補強方針をめぐり、ベニテスと対立。在任中にも関わらず、新監督候補のクリンスマンと接触していたことを公表。「ベニテスがレアルに引き抜かれたときの保険」とコメント。
サポーター団体「スピリット・オブ・シャンクリー」との会合で、ジレットがベニテスを批判。もちろん在任中。また新スタジアム構想をファンに約束したことを否定。
ヒックスの息子、トム・ヒックス・ジュニアがクラブの債務問題に触れたファンのメールに対し、そのファンを罵倒する内容のメールを返信。結果ディレクターを辞任。
ヒックスがCEOのリック・バリーを公に批判。「傲慢で組織運営能力がない」翌年にバリーは辞任。
売却
2010年10月6日、リバプールはNESV社へのクラブ売却合意を発表。
しかし、成立までになん悶着もあった。
「国からの支援でホジソンが望む選手をだれでも獲得できる」と言った中国人実業家が撤退したり、シリア人オーナーと予備契約を締結する見込み→破断があったり。
負債の返済期限が迫る中、NESV社の話がやっと出るが、G&Hがクラブの会長と理事を解任。
それに対し、お金をクラブに貸していたロイヤルバンク・オブ・スコットランドが登場し解任を禁じる命令をだして、裁判沙汰に。
一旦解任はキャンセルとなり、H&Gは売却プロセスからも除外されたが、裁判が不当だったとことが明らかに。
最終的にはH&GとNESVで売却合意となったのだが、「ヒックスがリバプールの取締役会を10億ポンドで訴えると誓った」なんて話も。
こんな感じでピッチ外ではまるでいいところがなかったし、
ピッチ内でもCLベスト4とリーグ2位、偉大なトーレス&マスチェラーノ、長く活躍して退団後も愛してくれているジョンソン・ルーカスの加入くらい。
現オーナーもたまにやらかすけど、全然大したことない。
100点満点のオーナーなんかこの世にいないからさ!
チェルシーさん、頑張って!
おしまい
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