自由加群の次元について
今日のテーマは以下の定理です。
定理
$${A}$$を環とする。
$${A^n \cong A^m}$$ ならば$${n=m}$$が成り立つ。
この問題は、M.F.Atiya,I.G.Macdonaldの「Introduction to Commutative Algebra」、演習2.12から引用しています。
今回の証明でのポイントは、環$${A}$$の極大イデアルの存在を仮定しないということです。
環$${A}$$の極大イデアル$${m}$$の存在を仮定した上での証明に次のようなものがあります。
二つの自由加群それぞれに対して、その剰余体とのテンソル積をとることで、ベクトル空間の同型$${(A/m)^n\cong (A/m)^m}$$を導き、そして$${n=m}$$を結論するというものです。
極大イデアルの存在を仮定しないということは、選択公理を使わないということですので、極大イデアルを使わない証明には魅力があります。
証明
$${A^n\cong A^m}$$と仮定する。$${\phi}$$をその同型写像とします。
さらに$${\{e_i\}}$$、$${\{e'_i\}}$$をそれぞれ$$A^n、A^m$$の標準的な基底とします。
$${\{e_i\}}$$と$${\{\phi^{-1}(e'_i)\}}$$がともに$${A^n}$$の基底になることはすぐに分かります。
以上のことから$${n=m}$$を示すためには、以下の主張を証明できれば、十分であることが分かります。
定理
$${A}$$を環とする。
$${\{e_1\cdots e_{n}\}}$$と$${\{e'_1\cdots e'_{m}\}}$$がともに$${A^n}$$の基底ならば、$${n=m}$$である。
$${n>m}$$としても一般性を失いません。
$${\{e'_1\cdots e'_{m}\}}$$が基底であることより、$${\{c_{ij}\}\subset A}$$が存在して、次のようになります。
$${e_j=\sum {c_{ij}e'_{i}}}$$
最後に$${\{e_i\}}$$の行列式の値を評価し、矛盾を導きます。
$${n>m}$$より行列式の値は0となりますが、これが矛盾を生じます。
証明は以上となります。
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