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【ライオンの棲むところ】EP7. 宮部さんとの出会い。これで良いんだよね…?


 島田屋食品の機械トラブルの話から、事業所内では咲華が契約解除するのではないと言う話で持ちきりになっていた。
 大事な決定はいつも現場の人間には最後まで明かされない。前に月の半ばになって、いきなり今月いっぱいで通うのを辞めるという決定が下ったこともあったそうだ。先輩からそんな話しを聞き、毎日気が気ではなかった。


 確かに機械トラブルはあるが、動き出せば繁忙期。むしろ動き出したら止まっていた時間をカバーしなければならない。いずれにしても、人は必要なはずだ。
 
 

「辻元と話さないで」
と言われてから、なるべく辻元係長と距離を取るよう心がけていた。聞きたいことがある場合には、雑談に発展させずあっさりと離れるようにしてみたのだ。完全に話さないのは無理だが、最低限の接触を心がけた。
 と同時に、積極的に氷川課長に話しかけるようにもなっていた。辻元係長に話しかけるな、ということは、もっと氷川課長に確認しに行って良いってことだよね、と、何だか開き直ってしまったのである。


 話しかけるなと言った手前、氷川課長も以前よりも丁寧に受け答えしてくれている感があって、私にとってよりやりやすい雰囲気になって来ていた。それだけに、咲華内で囁かれている撤退の噂が現実になるのが、ますます怖くなっていた。



 そんな中、1月の正月明けからうちの事業所に新人さんが入ってきた。
 年末の彼女の面接の際、上司たちがやけにバタバタと事業所内を掃除して大騒ぎしていた。私がそれまでは1番の新人だったので、面接の時にこんないつも大掃除するのか…?と思っていたところ、
「今回は特別」と先輩が教えてくれた。
「今回面接に来る人って、取ることはもう決まってるみたいよ」
「え?何でですか? 所長かエリアマネージャーの知り合いとか…?」
「そうじゃなくてね、先月まで県庁の職員だったんだって。行政として障害者支援に関わっていた人らしいのよ」


 …なるほど。
 何が成程なのかは自分でもよくわからないが、要は上司たちよりも経歴の厳つい人が入ってくるからピリついている… ということなのだろう。だがその後に先輩の言った一言が、衝撃だった。

「その人に島田屋食品を引き継がせるつもりらしいんだよね。良かったね、毎日毎日県外まで通って大変だったでしょう。一年近く遠くで難しい仕事頑張ったんだから、今度は市内の契約先担当にしてもらえるといいね」


 先輩の言葉に、衝撃と同時に、自分自身契約時に聞いた大事な話しを、日々の忙しさの中ですっかり忘れてしまっていたことを思い出した。
 咲華は元々、担当制ではあるが、半年から一年一定期間受け持つと次の担当を決め、引き継いでいくシステムなのだった。スタッフの育成と経験値向上のためである。
 固定のチームや会社と関わっていると、そのメンバーとその仕事しか分からないスタッフになってしまう。色んな利用者の方と関わり色んな種類の仕事を覚えるためのシステムだ。
 承知して咲華に入ったはずなのに、いつの間にか忘れて島田屋食品の仕事に没頭していた…


 新入社員の宮部さんと関わるようになり、すごく気さくで話しやすいい人だと分かりとても安心した。利用者さんと打ち解けるのも早く、聞き上手だが言わなければいけないことはしっかり言える。私の3歳歳上で40手前という若さではあるが、みんなのお母さん的な雰囲気である。
 島田屋食品とチームから離れる寂しさと複雑さはあるが、妙な安心感があった。この安心感がどこからくるのか、この時は分からなかったが、やはり毎日の長時間の運転、欠員を出せないというプレッシャー、難しい仕事のカバーを一手に引き受けねければならないプレッシャー…
 自分が思っている以上に、島田屋食品の仕事は私にとって重荷になっていたのかも知れない。


(そして課長への気持ちも)




離れれば、他の担当の会社を持てば、いつかはこの複雑な感情も消えていく。


…よね?

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