やまねがもらいうける
20年ぶりくらいに実家で眠ったんだ。正確に言えば、実家の母屋でね。昔、母屋にはジイとおばあちゃんが暮らしていて、私たちは渡り廊下でつながった先の新しいお家に住んでいた。母屋は古くて大きい日本家屋で、家の隅の方はなんだか、ぼっかりと穴が空いているのかと思うほど暗い。日が暮れればもう重たい闇が家中に湧いて、満ちて、だから大人になってもこのじっとりした感覚は消えない。
先日はありがとうございました。まるやまさんがこんな田舎まで遊びにきてくれて、しかも10日間もいてくれて、オモロい合宿になりました。
母屋の住み心地はどうでしたか。よく一人で眠れるな〜と感心。まるやまって怖いの平気だったんだね。まるやまが帰ってからオカンは「まるちゃんいない...」と寂しがってますが、オトンは「まるちゃんって天然...?」などと呟いています。かぼちゃの天ぷら見て、うわぁピーナッツだ〜っとか言うくらいには宇宙人ですもんねあなた。
で、あれから脚本の進捗はどうですか。
二稿あがりましたか。来春は決定稿を持って合宿しましょう。私も明日、都会へ戻りますわ。
そういえば、まるやまさんの歯にはキノコが生えるんだってね。すごいね。キノコ食べ放題じゃん。私はエノキがいいかな。
昔よくジイのシイタケ栽培を手伝った。丸太にいくつも穴を開けて、そこにシイタケの種みたいなのを打ち込んでいくんだよ。しばらくすると、チビシイタケがにょきにょき生えてくる。シイタケの独特の匂いと、陽に温められた車庫の土埃が好きだった。
そう、ジイはいつも畑で泥だらけになっていて、おばあちゃんは私たちの面倒を見てくれていた。 両親の仕事がある日は、母屋でジイとおばあちゃんと一緒に寝るんだ。これがもう怖くてさ。昼間だって一人でトイレに行けないのに、真夜中のトイレなんか行けるわけないじゃん。だから合宿初日は震えたよ。まるやまと母屋で寝ることになって、8畳間に布団敷いてさ。
家中シンと静まり返って、廊下の空気はピンと張り詰めてて。電気を消した途端、家全体が巨大な一つの生き物になる感じ。たぶんこの空気は、私が生まれる前からずっとあるんだろうな。
だけどね、その晩思い出したんだ。どれだけ家が怖くても、おばあちゃんの布団の中だけはあったかかった。優しくてやわらかくて、ニベアの匂いがして。そして気がつくと朝になっていて、襖を明けると廊下いっぱいにキラキラの朝日が満ちてる。奥の台所からお味噌汁の匂いと朝の音、玄関にジイの長靴がないから、もう畑に出てるんだろうな。そんな、ふかいところの記憶を思い出せた。そうだ、母屋って、あったかい場所なんだよ。
これが私の最近の発見、いや再発見かな。
まあ、3日目から新しいお家で寝たんだけど。カメムシちゃんもいたし。
そんな母屋も来春から大規模リノベーションが始まります。私もあと何回実家に帰れるかわからないから、さっきとりあえず仏間で大熱唱してきました。拍手喝采(の気配)。額縁におさまったジイもおばあちゃんも、いつもより3倍笑顔でした。
なので来夏はそちらの実家の山へお邪魔させてください。やまね、大きな声で歌います。