未修者の未修者による未修者のための答案の書き方① 〜IRAC Method〜
「法的三段論法」は答案の書き方ではない
いわゆる三段論法とは、大前提、小前提、といった命題を用い、それらの真偽と組み合わせから、結論の真偽を推論する思考法のことです。演繹的思考法とも言います(※1)。
では、法的三段論法とは何でしょうか。実は、法的三段論法には、明確な定義が存在していません。
アガルートでは、①法の解釈である規範、②規範に事実を適用する当てはめ、③定義に具体的事実を適用した結果である結論、を「記述する3step」のことであると述べられています。(※2)
伊藤塾では、①条文から結論を導く規範の定立、②具体的事実を条文に適用、③具体的事実から結論の導出という、「法律文書作成の枠」と説明されています。(※2)
辰巳法律研究所では、①要件の文言解釈をし、②事実を要件に当てはめ、③事実から効果が生じることを述べる「発想」と説明されているようです。
もうすでに「記述法」と「思考法」の二つの概念が登場しています。さらに、①②③の内容も、異なっているように思います。本来の「論法」としての定義に立ち返るならば、法的三段論法は「思考法」であり、答案の書き方、すなわち思考の表現手法である「記述法」として用いることは誤りにも思えます。
それにも関わらず、ローでも予備校でも、日常的に、表面的に、「法的三段論法で書け」というアドバイスが日常的に行われる。これいかに。「法的三段論法で答案を書け」という指導では、思考法と表現法とを混同する学習者は少なくないでしょう。だから学生が、問題提起もなければ事実の評価と要件の繋がりもぐちゃぐちゃの答案を錬成することになるのです。
さて、経済法を選択した受験生ならお世話になりまくりの白石先生は、法的三段論法は思考法であるとし、以下のように説明されていらっしゃいます。
この考えは大変シンプルです。しかしここまで単純化してしまうと、初学者に対してあえて「『法的』三段論法」と表現する意味が失われているようにも思います。
私が考える「法的三段論法」とは、事実から生じる法的効果について推論する思考方法です。具体的には、「(国会が真として決めた)法文」を、「(それが真だと法学者の中で合意した)規範」として具体的に解釈し、具体的事実を適用し、「(社会通念的に真と言えそうな)結論」を得る、となりましょうか。
法文(要件→効果)
法の解釈(要件=要件' または 要件⊃要件')
当てはめ(事実→要件')
結論(事実→効果)
というのはさておき(※3)、大枠はこれで説明できるのではないでしょうか。
さて、ここまで散々「法的三段論法は思考法であって答案の書き方ではない」という話をしてきました。実はこの根本的な勘違いが、未修者全員が一度は抱える問題につながってくるのです。
ロースクール(人によっては予備校も)は、答案の書き方を教えてはくれない
ロースクールのカリキュラムは、法的三段論法を鍛えるために作られています。これは本当です。でも答案の書き方そのものではない。しかもそのことが先生の言葉から伝わってこない。だから困る。下手すると先生もわかってない。本当に困る。答案の書き方を調べても、いつの間にか法的三段論法の話に戻っている。途方に暮れる。
最悪なのが、知識も論理的思考も習得しているのに、答案の『書き方』が理解できてないから、答案の点が入ってこないケースです。
ありえないと思うでしょ。あるんだよ。
なんかってなんだよ・・・・
おそらく、答案の書き方について「法的三段論法」以外の整理が普及していないから、皆さん方は、私の答案がどうはみ出しているのか言語化できず、too vagueか、too spesificなアドバイスをするしかなかったのだと思います。
確かに表現法は人それぞれで、個人の好みがあって、状況に応じて選択するものではあるよ。でもさ、これ国家試験の答案だよ。芸大の卒論じゃないんだ。ノウハウを言語化するのは業務効率化の基本だろ。マニュアルをおくれよ、マニュアルを。
このマニュアルを「法的三段論法」という言葉を用いて整理しようとしたのが、得津晶先生の試みです。この論文には、答案の書き方としての「法的三段論法」は、「規範→事実→あてはめ(結論)」と「問題提起→規範・理由付け→あてはめ」という2つの型が存在するとして、実際に問題を解きながら双方を使い分る手法が記されています。現在の学生の手引きとして大変有用だと思います。
しかし、ここまで考えてきた私は思うのです。
・・・なんか、それ、面倒くさくない?
(※1)たまに数学の帰納的な三段論法と法学の演繹的の三段論法が対になる、というトンデモ理解が流れていることがありますが、当然、三段論法は数学でも演繹的思考法です。おそらく数学的帰納法のことを言ってるのだと思いますが、あれは帰納的な命題を演繹的に証明するもので、つまりは演繹的思考法です。ここからもわかる通り、「法的」という言葉をつけている以上、その推論過程が帰納か演繹かという所にこだわりだすのは無意味です。本来の意味での帰納的思考も、事実認定や事実評価に必須の能力となりますから、「法的三段論法」の中には帰納も演繹も含んでいると捉えるべきでしょう。将来的には、「法的三段論法」パックの中身を個別に明らかにする研究が必要になると思われます。
(※2)引用元の表現ですが、「法令に事実を適用する」は不正確です。「事実に法令を適用する」が正解です。
(※3)wikipediaによれば、これは日本語訳からくる語弊であるとのこと。5段論法も10段論法も三段論法である(漢数字と算用数字の使い分けがミソ)。
「答案の書き方」としてのIRAC Method
今、私は、海外の法曹と交流するローのプログラムに参加しています。「日本人の言う『法的三段論法』は、IRACと同じか?」と聞かれ、IRACを知らなかった私は調べて衝撃を受けました。(※4)
未修者が本当に欲しかったもの!!!!
その方がIRACを学んだのは、タイの法学部だそうです。他にも、アメリカのロースクールでこの書き方が指導されるそうです。ところが残念なことに、IRAC Methodについてオンラインで紹介する日本語の記事はありません。(なお、書籍では金井先生の著作があるようです。)
単純な疑問なのですが、なぜ日本ではこの言葉がmajorになっていないのでしょう?
重要なことなのでもう一度繰り返しますが、私は別に「IRACが素晴らしいから(思考法としての)法的三段論法を教えるな」とは一言もいっていません。IRACだけを習得しても、スカスカの論文にしかならないでしょう。IRACが示すのは、何をどこに書くかのお作法だけです。法や事案を分析するのはお作法だけじゃ無理。
しかし、理工学部生が研究の進め方と論文の書き方の両方を習得するように、英語の講義で英文法(に基づく思考法)とAcademic Writhingの両方を習得するように、法学部生にも(思考法としての)法的三段論法とIRAC Methodの両方を習得する機会が用意されるべきだと思うのは、果たしておかしな話でしょうか?
そこを、大丈夫です、「法的三段論法」で全部カバーできてますって言われてもですね、法的三段論法の定義すらも明らかにならないのに、みんなできてるってどうやって言えるんですか。マニュアルがないノウハウの承継なんて限界が来るってのが相場でね、あのね、現に困ってるのよ、私は。
しかも、書き方はロースクールじゃ教えられないんでしょ。だったらこっちがやるしかねえじゃないか。
とここまで書いた私、あることに気がつきました。WikipediaにあるIRACの答案例からは、法的三段論法の視点がごっそり抜けている。だから、IRACを日本語に翻訳するだけじゃ、だめだ。法的三段論法を、IRACとしてどう表現すればいいのか、試行錯誤して頑張るしかないな・・・時間、かかるよ・・・。
以下、基本的に下記に依拠して説明していきたいと思います。
(※4)私の理解では、この質問に対する回答はNoでありYesということになります。思考法としての法的三段論法と表現法であるIRACは明確に異なります。しかし、表現法として複雑化した法的三段論法については、IRACの指すところと違いがあると言われても、もはや私には理解できません。
IRACで書く答案
そもそも、司法試験で問われることとは、なんでしょうか。
「BのAはBに損害賠償を請求できるか」
「Aに⚪︎⚪︎罪が成立するか」
「裁判官は〇〇という判決を下すことができるか」
ざっくりと述べるならば、「あなたは、この状況で、どの法文を用いることで(用いないことで)、どのように紛争を解決しますか。その理由とともに説明しなさい。」ということです。この答えを、問題の特定、ルール、当てはめ、結論という4つの段落で説明する。それがIRAC Methodです。
Issue: この状況で、この法文を使って問題を解決できるか?
Rule: ルールを適用できる基準とはは何か?
Application/Analysis : 今回の事例は基準を満たしているか?
Conclution: この条文が使える/使えないので、問題を解決できる/できない
Issue: 問題提起
Rules
Application/Analysis
(執筆予定)
Conclution
(執筆予定)