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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(4)
【初審査】
入門から3ヶ月後、遂に審査の日がやってきた。
フリムンの白帯に、偽物ではなく本物の色が付く日がやってきたのである。
ちなみに極真の審査は、内容の厳しさもそうだが、黒帯を取るまでに最低でも10回は審査を受けなければならないという厳しさがある。
「白帯」→「橙帯」→「橙帯一本線」→「青帯」→「青帯一本線」→「黄色帯」→「黄色帯一本線」→「緑帯」→「緑帯一本線」→「茶帯」→「茶帯一本線」
こうして見るだけでも気が遠くなりそうな回数だ。
ただ、当時は「橙帯」や「一本線」という概念はなく、白の次は青帯からスタートであった。後は色のみの変化(青→黄色→緑→茶→黒)だったので、回数も半分の5回で済んだ。
しかし、その分「内容」は今よりも激ヤバで、連続組手も容赦のないものであった。
そして迎えた審査会前々日。少しでも経費を浮かせようと、船で那覇に向かう事となったフリムン。
その船上で、彼は“揺れる心”を“船の揺れ”に任せ、最初の難関である「筆記試験」の復習に取り組んだ。
(いや上手いこと言ったみたいな顔すなっ)
ちなみに白帯の筆記試験は、「道場訓」全七ヶ条を書き切る事であった。
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船上で「道場訓」を完璧に頭に叩き込んだフリムンは、遅い就寝を迎え深い眠りへと落ちた。
その時に見た夢は、劇画「空手バカ一代」でケンカ十段が四国に乗り込む際、船の上で正拳突きをするあの名シーンであった。
そんな夢から目覚めたフリムンは、誰も居ない甲板に出て、遠くに見える那覇の街に向かって仁王立ちをしていた。
これから始まる空手フリムン人生の新たなる1㌻に思いを馳せながら、気が付けばケンカ十段の如く、天に向かって正拳突きを繰り出していた。
【ミドレンジャー】
フリムンの他にも白帯の受審者は何名か居たが、組手の時間になると、何故か緑帯の連続組手の相手をさせられた。
当時の組手はガチンコで一切の手加減なし。フリムンは相手が緑帯の先輩であった事もあり、試合のようにガチで倒しに行った。
緑帯数名と数ラウンドの組手を行ったが、全て白星で終える事ができた。
それどころか、フリムンのカギ突きや中段回し蹴りで相手がダウンする場面も見られ、その度にどよめきが起こった。
既にこの頃から、緑帯クラスなら後れを取る事は無かった。
十分過ぎる程の手応えを感じたフリムンは、島に戻って後輩たちにその旨を報告。後輩たちは一様に驚きを隠せず、フリムンはプチ有頂天となっていた。
それから暫くして、郵送で帯と免状がフリムンの元に届いた。
これでやっと青帯になれる。
早く帯を締めたくて急いで箱を開けたが、中身を見た瞬間フリムンは愕然とした。
なんと青帯ではなく、間違って緑帯が入っていたからだ。
早く新しい帯を締めたかったのに、また送り返さなければならない。フリムンは直ぐに事務局へ電話を入れ、その旨を伝えた。
すると、意外な答えが返ってきた。
実は間違いではなく、会議で決まった事だという。
審査の内容もそうであったが、これから石垣島に極真を広めようと頑張っているフリムンに、早く黒帯を取って欲しいという師範の親心からであった。
それに対し、黒帯全員が承諾したとの事である。
これを聞いたフリムンは歓喜した。
単純に計算しても、緑帯を取得するのに早くても1~2年は掛かると思っていたからだ。
それが僅か3ヶ月での飛び級である。
フリムンは声を押し殺しながら飛び上がって歓喜した。
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こうして始まった極真八重山史のプロローグ。
これからまだまだ数えきれない程の試練が待ち受けているが、有頂天となっていたフリムンには想像すらできていなかった。
次回予告
次回より「暗雲編」スタート!
波乱万丈過ぎる極真八重山史の前半戦が遂に明らかに!
乞うご期待!
▼「フリムン伝説」の記事をまとめてみました!
この記事を書いた人
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田福雄市(空手家)
1966年、石垣市平久保生まれ、平得育ち。
八重山高校卒業後、本格的に空手人生を歩みはじめる。
長年に渡り、空手関連の活動を中心に地域社会に貢献。
パワーリフティングの分野でも沖縄県優勝をはじめ、
競技者として多数の入賞経験を持つ。
青少年健全育成のボランティア活動等を通して石垣市、社会福祉協議会、警察署、薬物乱用防止協会などからの受賞歴多数。
八重山郡優秀指導者賞、極真会館沖縄県支部優秀選手賞も受賞。
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