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【編集後記】令和5年9月号:台風が好きな人たち|月刊まーる10月号のテーマは?


編集後記:令和5年9月号

今月から月刊まーるの新コーナーが二つ始まった。

一つはフォトグラファーのオオヤマチカシさんによる写真連載美しい島の人」。「美しい石垣島」なのか「石垣島の美しい人」なのか。きっとその両方だろう。今月号では台風の中で撮影された写真が多数公開されている。

更に、石垣島に移住して来られた方々がエッセイを綴るバトン連載、「私の移住ストーリー」も開始。移住者たちがどんな縁でこの八重山にやってきたのか、そして彼らは今後どんな縁を紡いでいくのかを追いかける企画である。

個人的には、今月号の「石垣のおじぃおばぁと共に|縁をつなぐエッセイ vol.6」を執筆いただいた山本修也さんのライフスタイルに感銘を受けた。山本さんは近所の「おじぃおばぁ」と助け合いながら島の暮らしを楽しんでおられるという。現在時刻9月2日16時。ちょうど台風11号が接近してきて風雨が強まっている。今頃きっと山本さんは、近所のおばぁの家の暴風対策を手伝ったりしているのだろう。

そして何と言っても、今月号の月刊まーるで、連載最終回となった佐藤仁さんの「みちくさ文語」が心に沁みた。まさに縁をテーマにするマガジンの記事連載ラストに相応しい名文に仕上がっていると思う。

思い返せば、佐藤さんの連載記事には毎回小さな仕掛けや小ネタがあった。それはタイトルの付け方であったり、記事の書き方であったりしたのだが、今回は記事の外側に巨大なネタを仕込んでくれている。本当に驚かされました。

記事を読んで驚かされるということ。編集者としてこれほどの喜びはありません。最終回の記事は、暖かくて、ウィットに富んでいて、それでいて押し付けがましさがなくて。まるであなた自身をエッセイとして凝縮させたかのようでした。佐藤さん、半年間、本当にありがとうございました。

台風が好きな人たち

私は昔から強風が好きだ。だから、不謹慎だよと言われても、台風が来ると少しわくわくしてしまう。子供の頃は台風の時には傘を持って外に出て、メリーポピンズのように本当に空を飛ぼうとしていた。大人になっても強風が吹くと空き地の真ん中でひとり暴れたりしている。知らない人が見ると変人にしか見えないだろう。知っている人でもそうか。やばい。が、好きなのだから仕方がない。

という話を以前、飲みの席でしたら「台風を楽しみにしている人って、離島民には結構いると思いますよ」と言う話をされた。台風が来ると、店は閉まるし、仕事も休みになるところが多い。雨戸も閉めちゃって家に籠るしかない。だから昼間っから飲み会をしている人って結構いるんですよ、と。

なるほど。僕とは全く別の理由で台風が楽しみなのだな。別の女性がまた、「実は私も、台風が来ると無性に外で叫びたくなるんですよね」と言った。おおお。ここにも同類がいたかと、酒が進んでしまった。酔っ払うと、どうでもいい話になる。島民は台風の時に特別な酒を飲むのだろうか。いや飲まないな、などというどうでもいい質問を投げかけたりしていると、その女性が「台風」という名前の泡盛が八重泉から出ていますよ、と教えてくれた。検索してみると、八重泉酒造の『ZAKIMI 台風』という泡盛の古酒(クース)が見つかった。台風が来たら飲んでみよう。うまそうだ。

ZAKIMI 台風 - 石垣島の酒

風にもたれかって休む

強風といえば、私にはもう一度体験してみたいことがある。それは「風にもたれかって休む」こと。意味が分からないのも当然なのだが、私は文字通り、風にもたれかかって休んだことがある。小泉今日子さんの「Summer Calling」という曲に「焼けた肌をさらし 風にもたれかかる」と言う歌詞があるのだが、もちろんこれは比喩であり、背中から来る風を受けている様子を表しているにすぎない。

私が体験したのは、風を背にして30度ほど後ろに体を倒し、自重を風に預けても、あまりの強風のために転倒しなかったというものだ。その日は特に風が強かったようで、風というよりも空気の壁のようだった。数十秒の間、見えない壁に身体を預けて、文字通りもたれかかっても全く倒れない。フライトで疲れていたせいか、少し休めたような記憶すらある。場所は「ノアの谷」という名前の観光スポットだ。

これが背中から来る感じだった

当時、私は卒業を間近に控えた大学生だった。スカイダイビングに憧れて、友人と二人、卒業記念にハワイへ行った。オワフ島に着くと空港からホテルまでの間に、1時間ほどの軽いバスツアーが組まれており、そこで立ち寄ったのが「ノアの谷」だった。「ノアの谷」は、強風で有名な崖で、現地のガイドさんによると、崖から自殺しようと飛び降りた人がいたが、あまりの強風のために、無傷で地面に着陸してしまったという伝説が残っているほどだという。

存在しない観光名所

ちょっと懐かしくなったので、「ノアの谷」を検索してみた。

ん?見つからない。全く検索に引っかからない。「ノアの谷」という観光名所はハワイには、ない?。本当にないぞ。そんなはずは・・・。ハワイ、ノアの谷、などのワードで入れてみれ探してみたが、やっぱり見つからない。と言うよりも、そんな観光名所は世界中探してもどこにもない。

地名として唯一見つかったのは、グリーンランドの永久凍土地域に付近ある「Noa Valley」という名の峡谷のみであった。それは米国陸軍が提供している地図の中にある。つまり現存する「ノアの谷」はアメリカの陸軍情報部が調査中に発見した、全人未到の極寒の谷であった。

グリーンランドのノアの谷(Noa Valley)は↑ここ

そんなバカな。私はガイドからノアの谷という名前を何度も聞いたはずだ。今度は、ノアの谷という名前を外して検索をかけてみる。ハワイ、強風、スポット、しばらく探してみると、「ヌアヌパリ」という強風のスポットが出てきた。写真を見てみると、私の記憶の場所に近い・・・。ん?「ぬあぬぱり」ん?「のあのぱり」?

まさか、私はこのヌアヌパリを「ノアの谷」と聞き間違えたのか?そんなバカな。その後も画像を色々見てみると・・・。

ヌアヌパリ展望台

やはり。四半世紀を越えて、判明した。ノアの谷ではなく、「ヌアヌパリ」であった。ガイドさんが日本語だったことと、強風で聞こえにくかったせいで聞き間違えたようだ・・・。おそらく「崖から吹き付ける強風」という説明で、なぜか谷だと思い込んだのだろう。単なる勘違いであった。

余談ではあるが、前述の古酒『ZAKIMI』 台風が今年の「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション」焼酎部門で金賞を受賞したらしい。近々購入してみようと思う。飲みたいから早く台風が来てくれないかなぁ、などという不謹慎なことは、私は考えない。

来月号のテーマは?

今年4月から開始された【月刊まーる】は来月から後半戦に突入する。後半ではさらに繋がりを重視した企画や、まーるを関連させた企画や記事を増やそうと思っている。

ただ一点気掛かりなのは、記事の執筆者や読者の層についてだ。【月刊まーる】はご存知の通り、人と人との繋がり(縁)をテーマにしたマガジンであるが、創刊から半年の動向を見てみると、その縁が多少限定的になってしまっているきらいがある。山本さんの記事にあるように、もっと島の「おじぃおばぁ」をはじめとする、老若男女様々な方々に関わっていただきたいし、読んでもらいたいと思う。

ということで来月、10月号のテーマは「石垣島のおじぃおばぁ」にしよう。ライターの皆様、今月も誠にありがとうございました。

(了)



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