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【自伝小説】第3話 中学校時代(3)最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島
実戦の定義
いきなり始まった代表戦。二人を取り囲んだ敵側の仲間が、少年にのみ次々と罵声を浴びせてきた。
これ以上の恐怖は他にない。しかし、何もしなければフルボッコは確実だ。
少年は仕方なくジークンドー(李小龍が考案した武術)のサイドキック(足刀横蹴り)を繰り出した。
だが、いつもよりスピード、タイミング、角度までもがイマイチだ。
足がすくんでいるのだから当然だ。
直後、その空手野郎が「フシュッ」と顔面に裏拳を打ち込んできた。
避けようと思えば避けらた攻撃ではあったが、相手を刺激することだけは極力避けたかった少年は、後方にすっ飛びながら威力を半減させ、そして背中から地面に落ちた。
ジャッキー映画でよく見られるスタントだ。
少年はキチンとやられる側の練習も積んでいたので、完璧なシーンを演出できた。
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「このまま死んだフリをすれば許してくれるかも?」
瞬時にそう思った少年は、呻き声を発しながらガクッと落ちてみせた。
次の瞬間、大気圏外から降り注ぐ大量の隕石の如く、周りにいた敵の仲間が一斉に少年を踏みつけてきた。
プロレスで言うところのストンピングである。
「甘かったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
許してもらえるどころか、逆に相手を刺激してしまったようだ。マジフルボッコであった。
少年は踏みつけられながらも、頭だけは被弾せぬようガッチリと両腕で防御態勢を取り、完全に亀になった。
否、ならざるを得なかったと言った方が正しい。
これが映画や漫画なら、ここから主人公がバッタバッタと敵をなぎ倒していくのが定番だが、実戦では中々そうは行かない。
順番に一人ずつ向かってくるようなお人好しは存在しないうえに、打撃に必要な間合いすら与えて貰えない。
更に両サイドはもちろん、背後からもガンガン同時攻撃を仕掛けてくる。
頭と言わず、腰や背中と言わずだ。
喧嘩にルールはない。卑怯という定義もない。よってこれが実戦のリアル…現実なのである。
そんな攻撃だけに避けようもなく、更に不意打ちなので筋肉を固める事さえ許されず、ダメージは2倍にも3倍にも膨れ上がった。
このように、必ずどちらか側が不利な状況となるのが実戦である。人数が釣り合わなかったり、武器を使用されたり、時には両方だったりするからだ。
今回のバトルは、間違いなく後者の方であった。
途中から角材のような鈍器も登場した。これぞまさしく集団リンチ。そのような光景が、現場の至る所で繰り広げられていた。
その時であった。突然、聞きなれた声が聞こえてきた。
次の瞬間、相手チームが全員その手を止めることを余儀なくされた。少年たちは何が起こったのか理解できず、正直戸惑っていた。
まさかの新展開である。
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男の中の漢
いきなり始まったチーム対抗戦。集団心理により興奮状態にあった敵チームの中に、いきなり一人の男が割って入ってきた。
そして、その男は大声でこう叫んだ。
「もう止めろっ」
「それぐらいにしとけっ」
「もう十分だろっ」
それでも手を止めたのは僅か半数程度。皆かなり興奮しており、残りの半数には声が届かなかったようだ。
すると、今度は相手のリーダーらしき男が大声を張り上げた。
「お前ら止めろっ」
「○○が止めろと言ってるだろっ」
割って入った男とリーダーは知り合いだったようで、その反応からその男をリスペクトしいているようにも見えた。
次の瞬間、流石に全員手を(足も)止めた。
助けに入った男は少年の一個先輩で、小学校から付き合いのある知った男であった。
きっと誰かが呼びに行ってくれたのだろう。
それにしても、あれだけの集団をたった一人で止めて見せたのには驚かされた。そして、躊躇せず間に割って入ったその胆力にも驚かされた。
あれだけ悲惨な光景を目の当たりにしても飛び込んでいける勇気。
男は初めて本物の「漢」を見た気がした。
もし、その先輩とタイマンを張っても後れを取ることはないかも知れない。しかし、少年にはこれだけの事態を収拾する力はない。
それを、先輩は一瞬で収めてみせたのだ。
この時、少年はこう悟った。腕力には、自分が思っている以上に「限界」があるのだと。
少年が、武道家や格闘家だけでなく、歴史に名を遺すような偉大なる賢人に心奪われる理由がそこにあった。
肉体的な強さだけでは真に強いとは言えない。腕力に加え、頭脳や胆力はもちろん、人を惹きつける何かを身に付けていなければ、それはホンモノと言えないのではないか。
そう、肉体的強さは単なる付属品だと悟ったのである。
齢14にして…である。
こうしてジャッキー映画、「ドラゴン・ロード(日本公開版)」の冒頭シーンの如き肉弾戦も終わりを告げ、少年たちは腫れ上がった互いの顔を見ながら笑い合い、そして肩を組みながら安堵した。
それは、まるで青春映画の一コマのようであった。
少年が、この集団バトルから得たものは計り知れないほど大きかった。まだまだ経験すべき事が数えきれないほどある事を、少年はこの日、学んだ。
イージュー・ライダー
この見出しは田福雄市氏が敬愛するミュージシャン「奥田民生」が30歳の時に発表した作品『イージ㋴ー☆ライダー』から。「イージュー☆ライダー」は、1996年6月21日に発売された奥田民生の6枚目のシングル。「イージュー」とは、ドレミファソラシを表すアルファベットのCDEFGAB… を用いて、数字の1234567… を読み替える音楽業界用語である。つまり、「イージュー」は“E10”という意味であり、「30」を表している。
思春期を迎えた全ての少年たちが、例外なく憧れる乗り物。
それが、「単車」である。
当時カンフーオタクだった少年も、程なくその魅力に憑りつかれ、そして翻弄される事となる。
義務教育からの卒業と、お受験を控えた肌寒い2月上旬。深夜になると、前もって用意した原チャリで暴走を繰り返す少年たち。
卒業シーズンになると、何故かワサワサし出すのがこの時期の男の子たちの習性である。
そんな集団の中に、少年も居た。
とにかく好奇心の塊だった。友人たちの会話に自分が存在しない事が許せず、この深夜の暴走も、皆の楽しそうな会話が聞き捨てならず勝手に強制参加した次第であった。
ただ、深夜徘徊も暴走も少年には*ちょっぴんだけハードルが高く、心の臓は破裂寸前であった。
*ちょっぴん
(4)ちょっぴんなー:少しだけ、ちょっとだけ【―】 出自:既存のヤイマヤマトゥムニの語彙からの派生 考察:八重山諸方言の接辞の添加 全国共通語からの移入語「ちょっぴん」に八重山諸方言の接辞ナーが後接して派生した 語であると考える。 程度副詞であり、「ちょっぴんなー貸してごらん。
プライドの高かった少年は、それを悟られないよう、パサパサに乾いた唇で当時流行っていたヒット曲をホイッスルし続けた。
その頃ティーンエイジャーの間で大流行していた「横浜銀蝿」のヒットパレードである。
そうして余裕をかましているフリをしながら暫く後部座席に跨っていたが、痺れを切らし、「そろそろ交代しようや」と運転していた友人と座席をチェンジ。
それから僅か5分後の事であった。
少年にとって初めてとなるミッドナイトエクスプレスを短時間で終わらせたのは、息を殺しながら待ち構えていた“検問中のおまわりさん”であった。
暗闇からいきなりハイビームで顔面を照らされ、慌てふためく暴走集団。
蜘蛛の子を散らすように次々と迂回する他の仲間たちを尻目に、何故か真っ直ぐと警察官の待つパトカーの前に直進する少年。
実はハイビームでビビッてしまい、蛇に睨まれたカエルの如く硬直してしまったのだ。
こうしてハンドルを切る事もUターンする事もできず、まだ存在すら知らなかったポンピングブレーキを使用して見事にパトカーの前で停車。
あえなく御用となった。
どんなに背伸びしようとも、こういうところはまだまだ小心者の少年であった。
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この記事を書いた人
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田福雄市(空手家)
1966年、石垣市平久保生まれ、平得育ち。
八重山高校卒業後、本格的に空手人生を歩みはじめる。
長年に渡り、空手関連の活動を中心に地域社会に貢献。
パワーリフティングの分野でも沖縄県優勝をはじめ、
競技者として多数の入賞経験を持つ。
青少年健全育成のボランティア活動等を通して石垣市、社会福祉協議会、警察署、薬物乱用防止協会などからの受賞歴多数。
八重山郡優秀指導者賞、極真会館沖縄県支部優秀選手賞も受賞。
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