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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第11話 捲土重来編(1)

【カオスな分娩室】

2016年某月某日、運転中のフリムンの携帯にけたたましい着信音が鳴り響く。すぐさま路駐し、画面に視線を送るフリムン。

電話の主は…カミさんであった。
「そろそろ産まれるって!」
「マジかっ!」
「先に行ってて!」
「ラジャッ!!」

慌てて八重山病院に進路を変え、急発進するフリムン。
ハンドルを握る手が小刻みに震えている。

病院までの道中、あの日の出来事を思い出し視界が曇る。

.・`

それは、少しだけ過ごし易くなった夏の終わりの出来事であった。

「お父さん…アンリが電話代わってって…」

長女からの電話を無言で聞いていたカミさんから、徐に携帯を手渡されるフリムン。

只ならぬ雰囲気を瞬時に察知し、ゴクリと唾を飲み込みながら体制を整え、緊張を悟られないよう落ち着いた素振りでこう切り返した。

「な、なんかあっふぁ?」

こんな時に限って声が裏返るフリムン。

死ぬほど後悔したが、とてもノリツッコめる雰囲気ではなかった。

それを裏付けるように、電話口からはすすり泣く声が聞こえてきた。

「お父さん…赤ちゃん出来た」

あの元気印の長女にしては、聞き取れないほど小さな声だ。

俯きながら傍らで聞いていたカミさんもそれを危惧していたようで、心臓の音が聞こえそうなほど緊張しまくっている。

きっと、二人とも怒鳴られると思っていたのだろう。しかし、そんな二人の期待を裏切るかのように、フリムンは大声でこう叫んでいた。

「マジか♡」
「やったなアンリ♡」
「でかしたぞ♡」

次の瞬間、堰を切ったように泣き崩れる長女。

よっぽど怖かったのか、父の真逆の対応に戸惑いさえ見せていた。

それはカミさんも同様であった。

「あ、あびばどう(号泣)」

鼻声で殆ど聞き取れなかったが、状況的に「ありがとう」と言っているのはシッカリと理解できた。

予想より少しばかり早くなったものの、念願のジィジになれる感動でニタジー(ニヤケ顔)が止まらなくなっていたフリムン。

その日から、寝ても覚めても孫のことで頭がいっぱいとなり、ネット検索もベビーグッズばかりとなった(いやキモッw)

それから暫くして、長女から言われたある言葉にフリムンは驚愕。

23年前、長女の命名を祖母に反対されたのは先述した通り。
なんと、その時反故にされた名前を、生まれ来る孫に付けても良いと言うのだ。

フリムンは雄叫びを上げながら歓喜した。

当時は反対した祖母に承諾を得てホッと一安心♡

もう命名など一生無いと諦めていたのに、本当に人生なにが起きるか分からない。

特にフリムン家では(笑)

こうして初孫に付けられた名前は、中学時代に我が子につけると豪語していたフリムンの中の最高傑作…アンナに決定した♡

.・`

閑話休題…話を戻そう

車を急停車させ、駐車場から産婦人科までの階段を五段飛びで駆け上るフリムン。

到着すると、既に分娩室にて初産に備えていた長女。

ドアの前では婿殿が慌てる様子もなく、余裕綽々でフリムンを出迎えた。

「お義父さん、そろそろ産まれますよ♡」

まるで他人事のように落ち着き払うその姿に、少しだけイラっとしたが、それには理由があった。

実は婿殿は医療関係の仕事に従事しており、こういう場面には慣れっこだったのだ。

そんな婿殿だけに、全面的に頼りにしていた頼りないフリムン。
もう婿殿の言いなりであった。

「お義父さん、中に入ってください」
「え?父親でも入れるの?」
「大丈夫ですよ、アンリも喜びますよ♡」
「そ、そう?」
「はい、どうぞどうぞ♡」

医療従事者が言うのだから間違いないだろう。

そう思ったフリムンは、「それではお言葉に甘えて」と即入室。産まれて初めて入る分娩室に内心ビビりまくっていたが、それを悟られないよう平常心を装った。

分娩室の中に入ると、苦しそうな娘だけがベッドに横たわり、看護師さんの姿はそこに無かった。

すると、ベッドの横に置いてあった冷蔵庫から徐にアイスを取り出し、フリムンに差し出す婿殿。

目の前で起こっている諸々を直ぐには理解できず、オロオロするフリムン。その横で、初産に備えて呼吸を整える娘。

その光景は、もはやカオス…混沌であった。

こんな場所でアイスを進められても当然食べる気になれず、差し出されたアイスを丁寧に断ると、婿殿は「外で食べてきまーす♡」と退室。

いきなり娘と二人っきりにさせられてしまった。

「こ、これは、もしかしてドッキリか?」
「お、俺は試されているのか?」

次の瞬間、「ここで自分がシッカリしなきゃ」と覚悟を決めた新米グランパは、娘の背中を摩りながら、事もあろうか うろ覚えのラマーズ法を始めたのであった。

「フッ・フッ・ヒー」「アンリ頑張れ」
「フッ・フッ・ヒー」「大丈夫だから」

後日、この時の心境を娘から聞かされたフリムン。その時は苦し過ぎてツッコめなかったが、心の中ではこう思っていたという。

『証言①』
「イヤイヤイヤ、何でオトンがここに居るば?」
「全然だいじょばんし」
「フッ・フッ・ヒーって逆だし」
「ヒッ・ヒッ・フーじゃボケッ」

そんな事とは露知らない新米グランパ。必死に背中を摩りながら、苦しそうな娘を励まし続けた。

そこへ、突然看護師さんが入室。フリムンの姿を見るや否や、怪訝そうな表情でこう告げた。

「え?オタクどちらさんですか?」
「父ですっ(キッパリ)
「誰が入室許可したんですか?」
「婿殿っす(キッパリ)」
「何言ってんすかっ」
「旦那さんと母親以外は入っちゃダメですよ」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーー?」

後日、この時の心境を娘から聞かされたフリムン。その時は苦し過ぎてツッコめなかったが、心の中ではこう思っていたという。

『証言②』
「そりゃ当たり前怒られるだろw」
「外でアイスでも食べて頭冷やせ」

例え医療従事者といえども、婿殿のことを信じた自分がバカだった。

そう反省しながら分娩室を追い出される新米グランパ。
そんな義父を見ながら美味しそうにアイスを頬張る婿殿。

その光景は、もはやカオス…混沌だ。

ちなみに婿殿がアイスを冷やしていた冷蔵庫。
実は胎盤の保管用だと後日知ったフリムン。

心の底から「食べなくて良かった」と安堵したのは言うまでもない。

【天使降臨】

遂に、この素晴らしき世界に天使が降臨した。

当然、おじいちゃんはガラス越しでのご対面だ。

この時の心境を、後にフリムンはこう語る。

今から半世紀前、石垣島最北端の小学校前に建てられたボロい小民家で、産婆さんの手によりこの世に生を受けたが、きっと祖父母もこんな気持ちだったのだろう。そう考えるだけで涙が溢れる。

それに、天使なんてのは絵本の世界にしか存在しないと思っていたが、孫の姿を目にした瞬間、天使って本当に居るんだと確信した。
うん、この子は間違いなく天使だ♡

そんな天使との邂逅の瞬間♡
初めて玄孫と対面した瞬間、感動で涙を流す祖母

何をせずとも、ただそこに居るだけで皆を温かい気持ちにさせてくれる本物の天使。今は亡き親父からすれば曾孫に当たり、祖父母からすれば玄孫(やしゃご)に当たる。

これはとんでもない快挙だ。
生きている内に玄孫に会えるのは稀だからだ。
祖母はそれを成し遂げたのだ。

それもこれも、長女が天使を産んでくれたお陰である♡

ちなみにこの日、フリムンに届いたLINE件数は過去最多の203件。
島の人々の愛が伝わる数字である♡

返信するのに丸一日費やしたお祝いメッセージ

そしてこの日から、フリムンの周りでは信じられないような奇跡が次々と起きる。本当に神様が送り込んだ天使なのではと勘ぐるほどの奇跡が。

フリムン…50歳の時である。

次回予告

齢50歳にして舞い降りる、奇跡の軌跡!
乞うご期待!

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この記事を書いた人

田福雄市(空手家)
1966年、石垣市平久保生まれ、平得育ち。
八重山高校卒業後、本格的に空手人生を歩みはじめる。
長年に渡り、空手関連の活動を中心に地域社会に貢献。
パワーリフティングの分野でも沖縄県優勝をはじめ、
競技者として多数の入賞経験を持つ。
青少年健全育成のボランティア活動等を通して石垣市、社会福祉協議会、警察署、薬物乱用防止協会などからの受賞歴多数。
八重山郡優秀指導者賞、極真会館沖縄県支部優秀選手賞も受賞。


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