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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第13話 最後の聖戦編(6)

【経て】

落ち着いていた。

ビックリするほど落ち着いていた。

試合までの待ち時間は胃がキリキリと痛み、膝から下に力が入らなくなるのが定番であったが、今回のフリムンは違った。

何なら、全身の細胞が「早く戦わせてくれ」と訴えているようであった。

もうこの時点で、フリムンは勝利を確信していた。

幼少時代の泣き虫フリムンを経て
学芸会での悪いおじいさんを経て
少年野球チーム武蔵のキャプテンを経て
学習発表会での獅子棒や一番棒を経て
中学でのカンフーマスター時代を経て
伝説のコントグループ、Pサイズのリーダーを経て
八重高第37期応援団長を経て
遂に石垣島の空手フリムンにまで辿り着いた

「そんな色々と経てきた男をナメたら許さん🔥」

という経たった事を考えながら、反対側に座る対戦相手にガンを飛ばしていた時、それを遮るように、場内にフリムンの名前がコールされた。


「ゼッケン170番」「フリムン」「ニッポン」

世界大会ならではの「ニッポン」という響きに心地良さを感じながら、堂々と胸を張って十字を切ったフリムン。

待ちに待った瞬間が遂にやってきたと、武者震いにより全身を震わせていた。

直前に教え子たちに背中を叩かれ、気合いを注入される著者

ただ、十字を切りながら壇上に上がるのもこれが最後かと思うと、少しだけ寂しくもあった。

「しかし、それも含めて今日は楽しもう♡」
「最初で最後の世界大会…楽しまなきゃ損でしょ♡」

そんな事を考えながら、30年に及ぶ空手人生、そして世界大会に向けたあの地獄のような日々が蘇り、体の奥から闘志が湧き出てくるのを感じていた。

当然、始まってしまえば「楽しむ」などという感情は一瞬で消え去り、心の中でこう叫んでいた。

「死んでも勝つ!!!」

それ以外の感情は、もうそこには無かった。

それに、開始線で対戦相手と対峙した際、思ったよりも体格差を感じなかったフリムン。

完全に相手を飲んでいた証である。

果たして、開始の太鼓は打ち鳴らされた。

遂に始まった初の世界大戦(大会初日2回戦)

フットワークを駆使しながらサイドに回り込み、相手の懐に入るタイミングを計りながら蹴りに繋げるフリムン。

相手のリーチを警戒し、カウンターの突きを貰わないよう足先を走らせながら、慎重に事を運んだ。

それにしても…対戦相手の顔コワッ!( ̄▽ ̄;)

そうしながらも、急に相手の打撃を体感したくなったフリムン(笑)
戦略を練るためにも、敢えて攻撃を受けてみる事にした。

そんなフリムンに、容赦ない突きと蹴りを打ち込む対戦相手。
打撃音が会場内に響き渡った。

「ドスンッ」
「バッチーーーン」

強烈な打撃を敢えて体で受ける著者

重い突きと、木製バットで殴られたようなローキックを受け、直ぐに考えが甘かった事に気付いた。

「こ、これを受け続けるのはマズイ( ̄▽ ̄;)」

そう感じたフリムンは、瞬時に作戦を切り替えた。

そして懐に飛び込み、得意の突きを相手のボディに集中砲火。

蹴りの間合いを潰し接近戦に持ち込む著者

「効いている…確実に効いている」
「突きの打ち合いなら絶対に勝てる」

そう感じたフリムンは、相手のボディにフルパワーで拳をめり込ませた。

あのバカげた猛特訓は、決して無駄ではなかった。

自らの拳に伝わる衝撃が、それを物語っていた。

「俺の突きは、世界に通用する…」

すると、それを嫌った相手がフリムンの道着を掴み、思いっきり引き付けながら膝蹴りを腹に食い込ませてきた。

「ウグッ」

一瞬、息が詰まり、思わず声を出してしまった。

突きを封じるため道着を掴む対戦相手

もちろん、掴みは反則なので直ぐに試合は止められた。
しかし、引く力が余りにも強過ぎて首がくの字に曲がり、頸椎に激痛が走った。

追突事故などでよく見られる頸椎捻挫(むち打ち)である。

いきなりの反則技に一瞬息が詰まったが、ボディは徹底的に鍛え込んできたので直ぐに回復。

対外国人選手に備え、あの何千回も繰り返してきたクランチ(腹筋)のお陰で難を逃れる事ができた。

(諦めずにやってきて良かったぁぁぁぁぁぁん)

相手に「注意1」が与えられたが、試合は直ぐに再開。残り時間も1分を過ぎていた。

「ここで…終わらせてやる」

フリムンは体力を消耗させないよう、本戦で決着をつけるためラッシュを仕掛けた。

怒涛のラッシュに溜まらず後退する対戦相手

終わってみれば、「5-0」の完勝で何とか二日目に残る事ができた。

「流した汗は嘘をつかない」

自分よりも遥かに大きな相手をほぼノーダメージで退けたフリムンは、心の中でそう呟きながら壇上を後にした。

圧倒的勝利に拍手で迎えられる著者


【もう一息】


もう一息という処でくたばっていては
何事もものにならない
もう一息 それにうちかってもう一息
それにも打ち克って もう一息 
もう一息 もうだめだ それをもう一息
勝利は大変だ だがもう一息

武者小路実篤

フリムンはこの言葉が好きで、辛いとき、苦しいとき、諦めそうになったときにはこの詩を思い出し、歯を食いしばってきた。

当然、この言葉に救われたことは一度や二度ではない。

更に、武者小路先生はこんな言葉も残している。

“才能で負けるのはまだ言い訳が立つ、しかし誠実さや、勉強、熱心、精神力で負けるのは人間として恥のように思う。他では負けても、せめて誠実さと、精神力では負けたくないと思う”

フリムンが血の滲むような努力を積み重ねるのは、彼なりの羞恥心からだ。

先生としても選手としても、生徒に日々の稽古量で後れを取るなど恥以外の何ものでもない。

現役選手である以上、それは最低限の務めである。

それに昨今、根性論など時代遅れだと宣う若者が増え、「効率」ばかりを声高に叫ぶようになってきた。

量より質を重視し、小手先の技ばかりを習得したがる傾向にある。

しかし、それは半ば苦痛からの逃走であり、言い訳であることが殆だ。

「そんな事しても無駄だよ」
「非効率的過ぎる」
「そんな事して一体なんになる?」

そのような言葉をどれほど聞いたことか。

しかし、例え誰に何を言われようが「今に見てろ」と一切聞く耳を持たなかったフリムン。

お陰でここまで来る事ができた。

例え非効率な方法でも、突き抜ければ効率的な方法を遥かに凌ぐ結果を生むこともある。

人生もそれと一緒だ。

それが、フリムン流の勝負論であった。

逆に効率だけを求め、忍耐力を鍛えることに重きを置かなかった結果、危機を脱せなかった選手を数えきれないほど見てきた。

そんなフリムンが言うのだから間違いない。

コツコツが一番
一歩一歩が一番

確実に、誠実に
一段一段階段を踏みしめ、
休むことなく昇りきる

下手に先回りしたり、近道ばかりしていると、本末転倒を通り越して目的地に辿り着けなくなる事もある。

「急いては事を仕損じる」
「急がば回れ」

継続こそが最も難しく、誠実さこそが最も崇高な行いなのである。

いや階段デカッw(イオンモール沖縄ライカムにて)

毎週月曜更新!
次号も乞うご期待!!


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この記事を書いた人

田福雄市(空手家)
1966年、石垣市平久保生まれ、平得育ち。
八重山高校卒業後、本格的に空手人生を歩みはじめる。
長年に渡り、空手関連の活動を中心に地域社会に貢献。
パワーリフティングの分野でも沖縄県優勝をはじめ、
競技者として多数の入賞経験を持つ。
青少年健全育成のボランティア活動等を通して石垣市、社会福祉協議会、警察署、薬物乱用防止協会などからの受賞歴多数。
八重山郡優秀指導者賞、極真会館沖縄県支部優秀選手賞も受賞。


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