【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第13話 最後の聖戦編(5)
【世界大会開幕】
生まれて初めて、日本代表として世界の舞台に立つ事となったフリムン。
あのデビュー戦の「第1回沖縄県大会」から実に30年、ずっと選手として自らを追い込んできたが、これほど全てを投げ打って臨んだ大会はなかった。
引退試合であり、世界大会でもあるのだから当然だ。
ただ、これほど緊張せずに試合当日を迎えたのは初めての事。
優勝した全日本の時もそうであったが、それとはまた少し違う精神状態であった。
それに加え、何と会場には道場の子どもたちや保護者が大勢駆け付けてくれた。
そう、あの空港でのサプライズは、この日のためのカムフラージュだったのだ♡
(か、完全にハメられたぁーーーw)
まんまと騙されたフリムンは心臓が止まるほど驚いたが、その光景を見つめながら心の底から感動していた。
(な、なんて素敵な道場なんだ…涙)
更に親戚や友人知人、SNS友達も多数会場に押し寄せ、過去に類を見ない大応援団となった。
そして、我が子の試合には観戦に訪れても、フリムンの試合には決して来ることのなかったカミさんも、今回が最後との事で会場入り。
次女や三女と現役最後の勇姿を見届ける事となった。
ちなみに長女は“身重”のため会場に来る事は出来なかったが、自宅で孫たちと一緒にYouTubeを見ながら応援するとの事。
同じく会場に来られなかった方々も、YouTubeの画面越しに応援してくれるという。
もうそれだけで、フリムンは十分に幸せであった♡
【規格外】
この日のために、どれだけの情熱と時間を費やしてきたのだろう?
あれもやった、
これもやった、
やり残したことなど何一つなかった。
敢えて挙げるとすれば、やり残せなかったことだけである
(いや意味っw)
ちなみに大会初日は開会式と1試合のみ。
(1回戦はシードのため2回戦のみ)
それをクリアすれば、二日目のベスト8に残れる。
否、そこは絶対に残らなければならない。
石垣島だけでなく、県内外からも多数の応援団が駆け付けているのに、初日で消えたら申し訳が立たない。
それを一番危惧していたのは、誰であろうカミさんであった。
「絶対に初戦は突破してよ」
「二日目に残れなかったら申し訳ないから」
「それに、明日来る人も居るんだからね…」
負ける前提で話すカミさんに、フリムンは返す刀でこう言い返した。
「そ、それ、シャレならんな(汗)」
こうして、ワールドチャンピオンシップのオープニングセレモニーは、静かに幕を開けたのであった。
それにしても…やはり…世界はデカかった( ̄▽ ̄;)
とにかくサイズが違った。
解りやすく言えば、大人の試合に少年部が出るような感じだ。
目の前の選手のゼッケンが目線と同じ高さにある。
帯の位置も胸の高さだ。
背中の広さも、足の太さも、手足の長さも規格外。
日本人の重量級選手が華奢に見えて仕方がなかった。
「こ、こんな奴らとマジで殴り合うのか?」
想像はしていたが、やはり目の前に現れるとヒヨってしまいそうになる。
そんな化け物たちに囲まれながら、開会式は粛々と進行したが、どこかしら上から目線の外国人選手団。
その雰囲気から、「こんなチビ達に負けるわけねぇし」と言っているように見えなくもなかった。
(完全なる被害妄想であるがw)
「こ、これは完全にナメられてるな…(-_-;)」
そう感じたフリムンであったが、それでも優勝しか頭になかった彼は、玉砕覚悟で返り討ちにしてやると心の中で息巻いた。
それにこれは、個人戦ではなく、空手母国ニッポンの威信を掛けた戦いでもある。
ライバル同士のため、全日本では意識し合い、談笑する事など殆ど無かった日本選手団だが、見渡す限りの海外勢に自然と団結。
チームJAPANとして海外勢を止めるべく、互いに必勝を誓い合った。
「これが噂に聞いていたナショナリズムか…」
フリムンはゴクリと唾を飲み込み、改めてフンドシの紐を締め直すことにした。(実際に穿いているのはボクサーパンツだがw)
開会式も無事終わり、冷えた体を温めるためウォーミングアップ室に移動したフリムン。
彼にとって、4月の横浜はまだまだ極寒の真冬であった。
(どんだけ寒さに弱いねんw)
ただ、疲労もスッカリ抜け、体も思ったより軽く、同じ室内でアップをしていた他の選手と比べても、フリムンの動きはキレッキレで調子の良さを匂わせていた。
こうして、かなり良い感触でアップを終えたフリムンは、汗を拭きながら試合会場に移動。
初戦の対戦相手を見つけたが、予想以上にデカく感じた。
身長差16㎝。当然、体重もフリムンより重い。
アゼルバイジャンの代表選手だ。
それに、ルックスもハリウッド映画に出てきそうな整った顔で、メチャクチャ強そうに見える( ̄▽ ̄;)
イスに座ったまま腕を組み、ムスッとした表情で試合場を睨み付けている。
異常に長い足を延ばしたまま背もたれに体を預け、特に緊張した様子もない。
見たところ汗も搔いておらず、アップもしてなさそうであった。
フリムンは少しだけムッとしながら、「俺の事ナメてんのかな?」と憤慨。
空手母国ニッポンの強さを、そして島人(シマンチュ)の底力を見せてやると、心の中で静かに闘志を燃やした。
毎週月曜更新!
次号も乞うご期待!!
▼「フリムン伝説」の記事をまとめてみました!
この記事を書いた人
田福雄市(空手家)
1966年、石垣市平久保生まれ、平得育ち。
八重山高校卒業後、本格的に空手人生を歩みはじめる。
長年に渡り、空手関連の活動を中心に地域社会に貢献。
パワーリフティングの分野でも沖縄県優勝をはじめ、
競技者として多数の入賞経験を持つ。
青少年健全育成のボランティア活動等を通して石垣市、社会福祉協議会、警察署、薬物乱用防止協会などからの受賞歴多数。
八重山郡優秀指導者賞、極真会館沖縄県支部優秀選手賞も受賞。
▼月刊まーる運営のため、「応援まーる」をいただけると嬉しいです!