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【自伝小説】第3話 中学校時代(2) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島
ドラゴンロード
あの時代は、全国的に校内暴力が蔓延り、日常的に不良少年が我が物顔で跋扈していた時代であった。
例外に漏れず、この島でもビーバップワールドが広がっていた。
少しばかり郊外に行けば、必ず金銭を巻き上げられるのが常であった。
そんな中でも、群を抜いて暴君が蔓延る地区があった。
通称「七町内」である。
そこは泣く子も更に泣き出す悪夢のような地区だった。
ちなみにそこを通過する際、気を抜いていると直ぐに身ぐるみ剥がされ、程なく石垣港に浮かぶ羽目になる。
そんな都市伝説が誠しなやかに広まっていた。
少年はその通りをドラゴンロードと呼び、忌み嫌っていた。
少年は言わずと知れた映画マニアであった。
特にジャッキーチェンを筆頭とした香港映画が大好きで、その為だけに毎朝「新聞配達」に勤しみ、映画代を自力で稼いでいた。
そんな大切なお金を暴君如きに奪われる訳にはいかない。
お小遣い制の友人とは金銭の価値観が雲泥であり、「これだけは死んでも渡さん」というその決意は、凄まじいほどに固かった。
そんなある日、友人たちと久々に映画を見に行く事となった。
今は亡き万世館である。(いや生きとるわっ)
ちなみにその日観る映画は、ジャッキーチェンの最新作「ヤングマスター(師弟出馬)」であった。
この映画はコミックカンフーの集大成として制作され、既に香港で大ヒットを記録していた。
そんな映画を暴君たちの手で台無しにされてたまるはずがない。
少年たちは周囲に気を配りながら、その危険地帯、ドラゴンロードを通り過ぎようとしたまさにその瞬間だった。
「まぁーーーてぇーーーごるぁーーーーーーー!」
突然、どこからともなく信じられない数の暴君たちが襲ってきた。
その光景は、まるでゾンビ映画のそれであった。
しかも初期の笑えるほど動きの遅いゾンビではなく、いつの間にか進化した呆れるほどスピーディーなゾンビだった。
少年たちは慌てふためき、蜘蛛の子を散らした。
しかし、少年だけはシッカリと前だけを見据え、一直線にバイシコーをトップスピードに切り替えた。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおりゃぁぁぁぁぁぁああああ!」
少年の気合いは不退転の決意を全身に行き届かせ、アドレナリンを放出させるに十分な効果を果たしていた。
お陰で彼の自転車のみホイルスピンをブチかまし、煙をまき散らしながらマッドマックスの「V8インターセプター」の如く加速を見せた。
次の瞬間、後方から次々と悲鳴にも似た諦めの声がこだました。
ひとり、またひとりと取っ捕まっていく光景が手に取るように伝わってきた。
しかし、少年は振り返らなかった。
友を犠牲にしてでも死ぬほど観たかった映画。それが、ヤングマスターがマスター足る所以だったからだ。
(いや意味くじっ)
果たして少年はその意思を貫き通し、独りだけ目的を達成させた。
息を切らしながら堪能した映画の帰り道、少年の心に罪悪感は微塵もなかった。そんなもの一発で吹き飛ばすほどの最高傑作だった。
その後、少年は都合4回も同じ映画を観に行った。もちろん4回とも独りでだ。
友情よりも、自らの意思を優先した当然の結果だった。その時に得た教訓が一つある。
「例え一人になっても心が折れない限り走り続けろ」
後にトライアスロン(バイク)で完走できたのも、パワー競技で頂点を獲れたのも、全てあのドラゴンロードで鍛えられたお陰である。
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そう信じなければやってられない程、多くのものを失った少年であった。
少年がたった独りでこの島に極真を広める遥か以前。これが始まりの始まりであった。
カンフーシューズ
カンフーシューズには大きく分けて2種類ある。
「丸首」タイプと「Vネック」タイプだ(※写真参照)
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これは、そんな「カンフーシューズ」にまつわるお話しである。
いつものように自宅でカンフーの特訓に没頭していた少年。そこへ、いきなり同級生と下級生数人が息を切らせながら走ってきた。
何か問題が発生したようだ。
話しを聞くと、他校生と揉めているとの事であった。まだ携帯電話のない時代である。足の速い奴が代表として呼びに来たのだ。
理由は…喧嘩の助っ人であった。
体も温まってきた頃で、カンフーシューズにも慣れてきた頃であった。
そう、知人からのお下がりで頂いたカンフーシューズの試し履きをしていた時に、彼らは少年の家に辿り着いたのだ。
「今ウォーミングアップを終えたところだ」
「服を着るから少し待ってろ」
(いやチケんなっ)
汗だくとなったその上半身は、トレーニングにより程よくビルドアップされており、カンフー映画の登場人物にも引けを取らない張りがあった。
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それを見た友人たちの顔に、少しばかり安堵の表情が戻った。
「コイツが居れば何とかなるだろう」
汗で濡れたその肉体には、そう思わせるだけの説得力があった。
その後、少年の自宅からそう遠くない場所で、他の仲間と合流した。
そこには他校のワルたちも同じ数だけ揃い踏みしていた。
数的には対等だが、問題は個々の戦力である。
少なくとも、少年の戦闘力はこの中ではずば抜けていた。しかもカンフーシューズまで履いているのだ。
若干、コチラ側に分がありそうな空気が漂ってきた。
と、そこまでは良かったが、睨み合いから数分後、遠方から物凄い爆音が聞こえてきた。音的にかなりの台数である。
その音が近付くに連れ、顔を見合わせながら大量の汗を噴き出す少年たち。
そう、相手も助っ人を呼びに行っていたのである。しかもかなりの大人数を。
爆音を轟かせながら、ニケツした20台ほどのバイクが到着。少年たちを一斉に取り囲んだ。
その時の恐怖は、これまでに経験したどの恐怖とも比べ物にならない程ダンチであった。
「おい、おい、おい、誰が俺らに喧嘩売ってんだ?」
相手のリーダーらしき男が手慣れた感じでタンカを切ってきた。
その恐ろしいほどの目つきの悪さと額の剃り込みが、少年たちの恐怖をより高めるための演出として十分過ぎる程の効果を発揮していた。
リーダーらしき男は一個上の先輩のようだ。少年たちは気が付かない内に、全員、直立不動になっていた。
「こ、これはアカンっ(涙)」
「来なければ良かった(涙)」
「はい、全員死んだっ(涙)」
等々、各々の頭の中は後悔のループで満ち満ちていた。
少年グループ10名程に対し、相手グループは50名近くは居たであろうか。
単純に計算しても、1人で5人を相手する事となる。これほど絶望的な状況があろうか。
少年たちは皆、デッド・オア・アライヴを覚悟した。
その中に、1人だけ空手を使う奴がいた。その空手使いは直ぐに少年に気付き、ニヤニヤしながら近付いてきた。
同じ立ち技系格闘技をしている者同士、肉体から溢れ出る「気」のようなもので勘付いたのだろうか?
少年は、ならば仕方ないなと内心そう思ったが、次の言葉で死ぬほど後悔する事となる。
「お前、なんでカンフーシューズ履いてんだ?」
「お前、もしかしてカンフーの使い手か?(笑)」
「しまったぁーーーーーーーーー」
「足元で気付かれたのかーーーー」
「は、履いて来なきゃよかったー」
完全に空手野郎に目を付けられてしまった少年。
この日以来、少年がカンフーシューズを履くことは二度となかった。
こうして、集団バトルの前哨戦として急遽タイマンが決定した。
ただ、敵の後ろには50名近い仲間が居る。少年の足は完全にすくみまくっていた。
果たして、「ゴング」は打ち鳴らされた。
(次回、決死の戦いが勃発か?どうなるフリムン!?)
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この記事を書いた人
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田福雄市(空手家)
1966年、石垣市平久保生まれ、平得育ち。
八重山高校卒業後、本格的に空手人生を歩みはじめる。
長年に渡り、空手関連の活動を中心に地域社会に貢献。
パワーリフティングの分野でも沖縄県優勝をはじめ、
競技者として多数の入賞経験を持つ。
青少年健全育成のボランティア活動等を通して石垣市、社会福祉協議会、警察署、薬物乱用防止協会などからの受賞歴多数。
八重山郡優秀指導者賞、極真会館沖縄県支部優秀選手賞も受賞。
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