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【気まぐれ連載】映画でまーるvol.2 | 2023年5月号 | 自然が結び直した母と家族の人生『ペンギンが教えてくれたこと』文:アーヤ藍@石垣島


このコーナーは石垣在住のライター「アーヤ藍」さんによる、「気まぐれ連載:映画でまーる」。人と人との“まーる”い繋がりが見えるような映画や、観終えた時に心が“まーる”くなるような映画をご紹介していきます。映画PRの仕事もされており、映画に関して深い造詣をお持ちのアーヤさんが、コミュニティや、人との繋がり、縁をテーマとした(まーる的な)映画を紹介していきます/不定期配信。(月刊まーる編集部)
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映画『ペンギンが教えてくれたこと』

5月第2日曜日は母の日。今年は今週末5月14日ですね。そこで今回は、ある「お母さん」をめぐる家族の映画を紹介したいと思います。
…が、親子の関係性も「母」という存在に対するイメージも十人十色だと思うので(私自身、母と疎遠なので…)、「お母さんありがとう!」というメッセージとは異なる切り口の作品を選びました。
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お互い大好きな海で出会い夫婦となったサムとキャメロン。子どもたち3人と幸せな日々を送っていましたが、旅行先のタイのホテルで、老朽化した柵が壊れ、キャメロンが屋上から6メートル落下。一命は取り留めますが下半身不随となり、一生車椅子で暮らさなければならないことに。
その事実を受け止められないキャメロンは、子どもたちの前では平静を装うものの、家から出ることはおろか、カーテンを開けて日に当たることさえ嫌がるほどに、物理的にも心理的にも閉じこもってしまいます。
そして家族の間にも「触れてはいけない距離」が生まれます。夫サムは敢えて明るく振る舞い元気付けようとする一方で、自分が感じている寂しさや不安は表に出せずにおり、また、長男のノアは自分がホテルの屋上へ母親を誘ったから、すべては自分のせいだと責める気持ちを抱え、母とのコミュニケーションを避けるようになります。
どことなくぎこちない家族の日々に小さな変化が生まれ始めたのは、怪我をしているカササギフエガラスを世話するようになってからのこと。ノアはその子を体の色が黒と白だったことから「ペンギン」と名付けます。
うるさく鳴いたり、物を壊したり、急に姿が見えなくなったりするペンギンにキャメロンも手を焼きますが、ペンギンの世話をするなかで、“世話をされるばかり”だった自分の「できること」を感じられるようになり、ペンギンに誘われるように家の外へ出ていくようになります。
さらに、怪我から回復し、再び空を飛ぶペンギンの姿を見たキャメロンは、自らも新たな冒険に繰り出すことに。それはカヤック。大好きだった海と再び「繋がった」時、彼女の心はまた一歩開いていきます。
鳥と海、2つの自然の力に促され、家族はそれぞれが避けていた本音に真正面から向き合うことに……。
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実話に基づいている本作は、決して安易な「ハッピーエンド」では描かれていません。戻らないもの、失われたもの、傷ついたもの、後悔していること。そうした変えることのできない事実に、何度も泣いたりぶつかったりして、一歩進んでは二歩下がり、二歩下がっては三歩進むような行ったり来たりの足取りに、人生のリアリティを感じる作品です。
そして、自然や生き物たちの力は、時に人間だけではどうにもならないことでも、ふわっと軽やかに扉を開いてくれるということを、実話に基づいているからこそ強く感じます。
昨年日本では『母親になって後悔している』という翻訳本が話題を呼びましたが、「母はこういうことをする人」「母とはこういう振る舞いをするべき」といった”理想的”な母親像や役割意識に苦しさを覚える人は、日本でも少なくないはずです。
本作を観ていると、そうした固定化した像とは違う「母」の姿の一つを見ることができるとともに、家族とは家族みんなでつくりあげていくものであることも、感じることができるはず。そんな少し新たな感覚を、今年の母の日を前に、映画から受け取ってみませんか?


予告編

映画『ペンギンが教えてくれたこと』
2021年 / 95分 / オーストラリア・アメリカ

今月のふろく

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この記事を書いた人

Ai Ayah 
ユナイテッドピープル(株)で環境問題や人権問題など、社会的メッセージ性の強い映画の配給・宣伝を約3年手掛ける。2018年春よりフリーで、ライター、イベント企画・運営、映画PR等を行う。石垣市在住。
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