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ミュージカルSIXの話②:アン・ブーリン編

数年前のトニー賞授賞式を見て心奪われたミュージカルSIXがついに日本上陸!ということで、実際の王妃たちの歴史や楽曲について自分なりにdigったことをメモしていきます。
※英国史もポップミュージックも特に専門ではないので、個人の理解やフィーリングに基づいて書いていることをご了承ください。

お次は6人の中では多分一番有名なんじゃないかというアン・ブーリン!

出自

アンの父方ブーリン家はアンが生まれた時には伯爵家でしたが、曽祖父の時代は農民で、祖父の時代に貴族の仲間入りをしている、いわゆる新興貴族の家柄でした。貴族と縁組して領地を増やし、野心的に政治にも噛んでいったようです。アンの父は外交官的なポジションでした。

母方のハワード家はご先祖にイングランド王エドワード1世をもつ名門貴族で(といっても当時の王侯貴族は大体みんなこの人が先祖)、キャサリン・ハワードの父とアンの母は兄妹です。そのためアンとハワードは従姉妹にあたります。同じ末路を辿った従姉妹同士としてセットで語られることも多いですが、年齢も離れているので実際に会ったことはないと言われています。ちなみにジェーン・シーモアとも遠縁の親戚です。なんだか平安時代みたいですね(2回目)
6人の王妃で家柄ランキングをつけるとなると、ハワード家がやっぱり名門なのでジェーン・シーモアやキャサリン・パーよりは上って感じです。

アンの母エリザベス・ハワードはヘンリー8世の愛人のひとりだったと言われていて、アンのヘンリーとの結婚には反対していたようです。またアンの祖父ノーフォーク公はその昔ヘンリーとアラゴンの結婚に反対していた勢力の一人でした。因縁がありますねー

ちなみに作中でも出てくる6本指(アラゴンにそれしまいなさい!って言われていたやつ)は有名な伝説ですが、発掘調査とかの結果どうも事実ではなさそうとされています。後世カトリックからイングランドを引き離したアンを魔女化する話が色々出てきて、その中のひとつだったようです。

結婚までの経緯

ヘンリー8世の妹メアリー王女がフランスに嫁ぐことになり、アンはその際に侍女として付き添います。ここで洗練されたフランス宮廷の文化を学びます(ソロ曲もフランス語の挨拶から始まりますね!)
伯爵との結婚話が持ち上がるとイングランドに戻りますが、この話は破談となり、姉メアリー・ブーリンと共にアラゴンの侍女になります。

フランス宮廷で身につけた最先端のファッションセンスや音楽の才能はイングランドの社交界でも目立ち、注目の的だったと言われています。ただ当時の典型的な美人の条件(金髪で色白、ふっくら体型)には当てはまっておらず、見た目はそこまでじゃなかった説もあります。
先にヘンリーが目をつけたのは姉のメアリーでした。メアリーは既婚者で子供も何人かいますが、夫の子供かヘンリーの子供かについては諸説あります(少なくとも認知はされてない)

アンには別の伯爵との縁談が持ち上がりますが、色々あって破談に。失意のアンはいったん宮廷から下がりますが、また戻ってきます。その後ヘンリーに見そめられたアンはすぐには応じず、宮廷生活で培ったモテ女スキルを如何なく発揮して駆け引きを続けます。ただの愛人止まりで捨てられた姉を反面教師にしたのか、結婚しないならベッドには入らない!とヘンリー相手に強気に出ており、実際7年くらいヘンリーから求愛され続けた期間肉体関係はなかったと言われています。本当に度胸あるなあ。恋愛テクの本とか書いてほしいレベルですね。

ただ単なる恋愛の駆け引きではなく、アンは熱心な福音派でイングランドの宗教改革を狙っていたとする説もあります。
またフランス語が堪能なアンはフランスとの外交にも大きく関わり、ヘンリーとフランス王との会談にも同行しています(この時アンは侯爵の位ももらっています)。王妃として公の行事に出られるだけの教養があることも、ヘンリーの関心を引いた要因のひとつだったようです。

ヘンリーはキャサリンとの離婚に本腰を入れ、自分の兄と結婚していたから婚姻は無効だと教皇に認めさせようとしますがそう簡単に問屋は下ろさず、ついにカトリックと決別してイングランド国教会を作ってしまいます。トマス・モアをはじめとした反対派やカトリックの修道士が多数処刑され、めっちゃ血が流れます。

結婚生活とその終焉

ついにキャサリンとの結婚が正式に無効扱いとなり、アンは戴冠式で王妃と宣言されます。やったね!この時アンは妊娠中で、お腹の子供は男の子だと確信していたヘンリーはめちゃ豪華な戴冠式を行います。ブーリン家の面々も爵位がアップしたりと、娘のおかげで左団扇でした。
戴冠式から程なくしてアンは出産しますが、子供は女の子。後のバージン・クイーン、エリザベス1世です。男の子を望んでいたヘンリーはめちゃめちゃがっかりしましたが、エリザベスには一応ちゃんと王位継承権が与えられます。アラゴンの娘メアリーはこの時庶子扱いで王位継承権はなく、アンはメアリーをエリザベスの侍女にしてしまいます。またメアリー王女を毒殺しようとしたとも言われています。
生まれたのは女の子、アンは気が強く贅沢三昧。あんなにアンに夢中だったヘンリーの心は離れ、アンの侍女だったジェーン・シーモアが新たなお気に入りとなります。手に入れたら飽きるタイプなんかなこいつ?

1536年にキャサリン死亡の知らせを受けたヘンリーとアンは黄色のドレスで宴を開き顰蹙を買います。イングランドでは黄色は喜び・お祝いのカラーでしたが、アラゴンの故郷スペインを表す色でもあり、哀悼の意だったとする説もあります。黄色のドレスの話はミュージカルでもアンがちょこっと歌って止められていましたよね。
この時アンは男児を流産し、ヘンリーの失望は決定的なものとなります。

国王暗殺未遂、不義密通、魔術を使ったなどの容疑をかけられ、アンはロンドン塔に幽閉されます。浮気相手として名を挙げられたうちの一人は実兄のジョージ・ブーリンで、男の子を妊娠するためにことに及んだ(もしくは及ぼうとした)という説もありますがまあ多分普通に濡れ衣。叔父とかも一緒に処刑されており、ブーリン家の天下も短いものでした。
ちなみに兄ジョージとの密通を証言したジョージの妻は、後にキャサリン・ハワードの侍女となり、ハワードの浮気の手引きをしたとして処刑されています。因果なものですね。
アンは当初反逆罪で火あぶりを宣告されていましたが打首に減刑?され、またイングランド式の斧での打首ではなく、フランスから呼び寄せた処刑人によって剣での打首になりました。結果同じじゃない??って感じですが、まあ少しでも苦痛がないようにという温情だったんでしょうか。処刑後、アンの遺体はロンドン塔内の礼拝堂に葬られました。
またロンドン塔に幽閉されていた時期にアンは作詞をしていたとも言われています。

インスピレーション

ブーリンのインスピレーション元はアヴリル・ラヴィーンとリリー・アレンで、マイリー・サイラスの要素もあると言われています。プロデューサーのトビー・マーロウは映画化するならビリー・アイリッシュかジェシーJに演じてもらいたいと言っています。

楽曲

ブーリンのソロ曲“Don‘t Lose Ur Head”は、反骨精神とユーモアを併せ持つガールズパンク・ロックな雰囲気。AメロBメロ?(サビじゃないところ)のギターサウンドはアヴリルの“Sk8er Boi“とかその他アヴリルの有名どころの曲と雰囲気が似てますよね。
メロディーラインや歌詞はリリーアレンの“Smile“や“Hard Out Here“がインスパイア元と言われています。ポップで可愛いサウンドに毒のある皮肉っぽい歌詞がまさにリリー・アレン風。
マイリー要素は型破りなキャラクター像に反映されているのかなーと思います。

衣装

衣装のテーマカラーは緑。チェック柄はアヴリルっぽいパンクファッションな雰囲気です。Bのチョーカーは肖像画のやつからですね。ちなみに打首仲間のハワードもKのチョーカーをつけています。
お団子ツインのヘアスタイルは途中からキャストのアイデアでやり始めたとか。

テーマカラーと腕についてるリストバンド?は作中でも何度か出てくる“Green Sleeves“から来ていると思われますが、この曲はヘンリー8世の時代より後に出て来たものなので、ヘンリーがアンに贈ったというのは事実ではないようです。
またこの歌に関する伝説からかアン・ブーリンは他の作品でも緑のドレスを身につけていることが多いのですが、緑はヨーロッパ文化圏では欲望や嫉妬の色(あんまりよくない色)とされているので、そういった意味合いもあるのかもしれません。

↓メロディを聞けばあーこの歌ねってなるやつ(Green Sleevesのメロディーラインは実は全員曲のSIXにも使われています)



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