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ミュージカルSIXの話⑤:キャサリン・ハワード編
数年前のトニー賞授賞式を見て心奪われたミュージカルSIXがついに日本上陸!ということで、実際の王妃たちの歴史や楽曲について自分なりにdigったことをメモしていきます。
※英国史もポップミュージックも特に専門ではないので、個人の理解やフィーリングに基づいて書いていることをご了承ください。
5番目は最も若く哀れな王妃、キャサリン・ハワード!
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出自
父方は名門ハワード家の出身でノーフォーク公の息子でしたが、父の財産は長兄が相続していたためキャサリンの家は貧しく、父親は持参金目当てで妻が亡くなる度に結婚を繰り返していました。そのため家には腹違いの兄弟や妻たちの連れ子などが20人以上おり、そのうち同母の兄弟は10人程度だったと言われています。父親は大量の子供を養うために親戚やあちこちに金銭的援助を求めていましたが、親戚のアン・ブーリンが王妃になるとコネで官職に就くことができました。
キャサリンは口減しと花嫁教育をかねて幼くして義理の祖母の元に送られ、他の貴族の子女たちと暮らすようになります。ただこの屋敷では男性の出入りや連れ込みもあり、風紀はあまり良くないところでした(個人的にはアメリカドラマに出てくるような大学寮のイメージを勝手に持っている)。ここで10代前半だったキャサリンは、当時30代の音楽教師ヘンリー・マノックスや、20代の秘書官フランシス・デレハムと関係を持ったと言われています。歌に出てきたあの人たちです。
キャサリンは読み書きなどはそこまでできず、あまり高い教養はなかったようです。
ちなみにブーリンとシーモアとは従姉妹関係にあります。というか王妃6人もヘンリーもみんなエドワード1世がご先祖なので、全員遠い親戚ということになります。平安時代の貴族たちと天皇家みたいな感じですね。
なおキャサリンの信仰はカトリックでした。
結婚までの経緯
当初アナ・オブ・クレーヴスの侍女として宮廷に来ましたが、すぐにヘンリーに見そめられ、アナとヘンリーの離婚から19日後に新たな王妃となります。アナとの結婚生活がうまくいっていない間にすでに愛人になっていたのだと考えられています。この時ヘンリーはキャサリンより30歳以上年上のアラフィフでした。ウゲー
ヘンリーがなぜカトリックのキャサリンを王妃にしたのかは政治情勢を考えるとちょっと不思議な気もしますが、とにかく若く、多産の家系であるということを重視したのでしょう。あと容姿や体型が魅力的だったとも伝わっています。
また彼女が王妃になった背景には、キャサリンの叔父であるノーフォーク公の強いプッシュがあったと考えられています。ノーフォーク公はアン・ブーリンの叔父でもありましたが、アンの処刑時は自分の保身のために特に嘆願とかはしなかったようです。冷たいな。
アナに興味を示さずキャサリンに目をつけた王を見て、再び自分の身内を王妃にするチャンスだと思ったのでしょう。王子エドワードはまだ幼く体も弱く、キャサリンが男の子を産めばワンチャン自分の天下が来るかも!カトリックの復権ができるかも!(ノーフォーク公は保守派のカトリックでした)と期待したとしても無理はありません。アナの章で出てきたクロムウェルを処刑に追い込んだのもこの人でした。
結婚生活とその終焉
めでたく王妃の座に収まったキャサリンですが、この頃のヘンリーはすでに年老いて醜く、昔の怪我や肥満の影響で悪臭までしており、まあ夜伽どころか隣に座ってるのすらだいぶしんどいものだったろうと思われます。
結婚後ヘンリーはスコットランドに睨みを効かせるためにイングランド北部に自ら出かけて行き、ヘンリーに嫌気がさしていたキャサリンはその隙にトマス・カルペパー(キャサリンの母方の遠い親戚。歌にも最後に出てきましたね)との浮気を重ねます。王妃になる前から関係はあったようです。恋愛関係にあったという内容の手紙は残っていますが、肉体関係があったかは不明です。まああったでしょうね。
またこの頃あのフランシス・デレハムが王妃付秘書官として城にやって来ていました。デレハムとは、キャサリンが宮廷に来る前には夫婦のようなものだったとも言われています。デレハムの出張中、キャサリンが家のお金を管理したりしていたようです。
デレハムとのかつての関係やその他の男性遍歴がどこからか大司教の耳に入ると、すぐに調査が開始されます。デレハムと婚約していたと言えばヘンリーとの結婚は無効となり離婚で済む可能性もありましたが、キャサリンはデレハムとは婚約しておらず同意の上の行為ではないと証言します。一方デレハムはカルペパーとの現在進行形の浮気について証言します。この証言によりカルペパーは逮捕され、手紙も見つかり、証言も多数出てきてキャサリンは投獄されます。キャサリンは浮気をするにあたりあまり慎重に行動してなかったようで、証言する人はたくさんいました。というか告発前から、浮気現場を見ちゃった人から黙っている見返りを要求されることも度々あったようです。あちゃー
この告発の背景には、カトリックのキャサリン(とその背後にいるノーフォーク公)を良く思わないプロテスタント派がいたと考えられています。唯一の王子エドワードの外戚であるシーモア家が、キャサリンの妊娠を恐れて手を打った可能性も大きいです。あとはキャサリンとの結婚前に処刑されたクロムウェルの支持者たちも関わっていたようです。
キャサリンは不義の罪を認めず、しばらくの間ロンドン塔に幽閉状態が続きます。しかし「王妃が結婚前に男性遍歴がある場合、結婚後20日以内に王に明かさなかったら反逆罪」という謎のピンポイントな法律が作られ、裁判がないまま処刑が決定します。
処刑の直前、キャサリンは「カルペパーの妻として死にたかった!」と見物人に向かって言ったと伝わっていますが、これはあくまでも伝説のようなもので、実際の演説は罪の懺悔と家族への慈悲を求めるものだったと言われています。ミュージカルの中ではカルペパーも結局他の男と同じだったと歌っていますが、実際の間柄はどうだったんでしょうね。
デレハムは四つ裂きの上モツ引きずり出しの刑となり、カルペパーは減刑され普通の打首となりました。ヘンリー・マノックスは特に処刑者リストには入っていないので、お咎めを受けないよう上手く立ち回ったか、あるいはこの頃すでに死亡していた可能性もあります。この人についてはぶっちゃけあんまり記録が残ってないんですよね。
ちなみにキャサリンとカルペパーの密会の手引きをしていたのは、アン・ブーリンの兄弟の妻であるジェーン・ブーリンで、彼女もキャサリンと同じ日に処刑されています。ジェーンはかつてアンに着せられた実兄との不義の疑いを証言していました。アンとは元々仲が悪かったとか、いや夫との関係が冷え切っていたとか、色々言われています。アンの処刑後はシーモアに侍女として仕え、その後クレーヴス、キャサリンにも仕えていました。ちなみに彼女がハワードの浮気の手引きをしていたのは、冤罪ではなくどうも本当だったようです。
キャサリンもハンプトン・コートに幽霊として表れ、無実を訴えると言われています。
ちなみにこのとき叔父のノーフォーク公はまたもや姪を見捨て保身に走り、処刑を免れています。それどころか後に同じカトリックであるメアリー1世の陣営に与して、公の場に返り咲いています。しぶといジジイだ。
インスピレーション
ハワードのインスピレーション元はブリトニー・スピアーズとアリアナ・グランデです。プロデューサーのトビー・マーロウは映画化するならマイリー・サイラスかアリアナ・グランデに演じてもらいたいと言っています。
インスパイア元の3人に共通しているのは幼い頃からスターだったこと。
特にブリトニーは実父や夫から主に金銭的に搾取され、世間からバッシングを受け続けていました。ハワードも曲の中で若い頃から性的に搾取されていたことを歌っていて、音楽やファッションだけでなくキャラクター性も重ね合わせているのかなと思います。
日本版でアイドル出身者がハワード役をやっているのもキャスティングの妙を感じます。
楽曲
ハワードのソロ曲“All You Wanna Do”は、セクシーでキャッチーなポップスで、甘い歌声と軽快なビートはインスパイア元のブリトニーやアリアナを彷彿とさせます。
ブリトニーの“Toxic”とサビのテンポとコードの運びが同じで、全体的なリズムやメロディーは“Womaniser”とか“If U Seek Amy”とも似ています。
ハイトーンボイスはアリアナっぽいですよね。
マノックスに関する歌詞、“And I was thirteen, going on thirty♪”は、“13 Going on 30”という13歳の女の子が朝起きたら30歳になってた!という内容の映画のタイトルの文字りです。
衣装
衣装のテーマカラーはピンク。ハイポニーテールはアリアナのイメージから、スカートの感じもこのアリアナの衣装に似てますね。全体的に若さとかセクシーなイメージを表現しているのかなと思います。Kのチョーカーはブーリンと同じく打首からのデザインですね。
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