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ミュージカルSIXの話④:アナ・オブ・クレーヴス編

数年前のトニー賞授賞式を見て心奪われたミュージカルSIXがついに日本上陸!ということで、実際の王妃たちの歴史や楽曲について自分なりにdigったことをメモしていきます。
※英国史もポップミュージックも特に専門ではないので、個人の理解やフィーリングに基づいて書いていることをご了承ください。

4番目は結婚期間最短の異色の王妃、アナ・オブ・クレーヴス!

出自

神聖ローマ帝国領内のクレーフェ公国の君主の娘として生まれましたが、幼少期の記録はあまり残っていません。名前のドイツ語読みはアンナ・フォン・クレーフェです。クレーフェの宮廷は、エラスムスに影響を受けた神学的で真面目な雰囲気だったようです。
アナの姉はザクセン選帝侯と結婚しており、弟はフランス王の姪と結婚した後いろいろあって神聖ローマ皇帝の皇女と結婚しています。微妙な立地のプロテスタントの国として、政略結婚でうまくバランスを取っていたようです。
アナは公女として高い教育を受けてはいましたが、内容はドイツ語と刺繍のみで、音楽や外国語は習っていませんでした。イングランドの貴族社会とはやはり文化が違い、ヘンリーと上手くいかなかった原因もそこにあるのではと言われています(ヘンリーは音楽とかダンスが大好き)。そのへんは後の章で。

結婚までの経緯

ジェーン・シーモアの死後ヘンリーは数年気落ちしていましたが、後継者となる男の子が一人では不安(ヘンリーも三兄弟でしたが生き残ったのは自分だけ、幼いエドワード王子はあまり体が強くなかったそう)、政治情勢的にもプロテスタントの国と協力関係を結んでおきたい、など色々思惑があり、次なる王妃探しに乗り出します。Hous of Holbeinのマッチングアプリ風のあれですね。王妃候補を外国に求めたのは政治的な理由だけでなく、これまでの顛末から国内の有力貴族とはなかなかもう縁組ができなかったという事情もあります。
なお外国でもヘンリーの悪評は知られており、他に王妃候補となっていたデンマークのクリスティーナは、ヘンリーとの結婚話が持ち上がると「私に頭が2つあったらね」と跳ねつけています。あのミュージカルの中でリジェクトされ、まあミラノ公とマッチしてるからいいか、って言われてた人です(ただ実際ミラノ公は子供の時の結婚相手で、結婚後すぐ亡くなっている)。ちなみに彼女はアラゴンの姪の娘で、のちにアナの元婚約者ロレーヌ公と結婚します。

そんな状況の中クロムウェルが頑張って縁談を取り付け、宮廷画家ハンス・ホルバインにアナとその妹アマリアの肖像画を描かせます。そう、歌にも出てくるあのハンス・ホルバインです🕶️
ヘンリーは肖像画を気に入り、めでたく婚姻が成立。アナは実家を後にし、カレーやドーバーを通りえっちらおっちらイングランドに到着します。飛行機や特急のない時代は大変ですね。
このハンス・ホルバインが描いたこのアナの肖像画は、現在ルーヴル美術館にあるそうです。いつか実物見てみたいな。

イングランドにアナが到着すると、ヘンリーと対面し一晩共に過ごしますが、翌朝ヘンリーはクロムウェルにこの結婚なかったことにできない??と相談します。
ヘンリーがアナを気に入らなかった理由については色々な説があり、歌に出てくる肖像画が本人とかけ離れすぎていたというのが有名ですが、本当だったかは不明です。何らかの理由で床入りが上手く行かなかった(アナの若さに対してヘンリーが自分の老いを感じてたたなかった説、アナが花嫁教育を受けておらず知識がなかった説、etc…)のではないかとも言われています。そっちが上手く行かなければ子供は期待できませんもんね。
あとは有名なエピソードとして、ヘンリーはイングランド宮廷の伝統として変装してアナの元を訪れ、ドイツ出身でそんな伝統なんか全然知らないアナがヘンリーのことをめっちゃ拒否したか無視したかして、ヘンリーが機嫌を損ねたというものもあります。容姿が気に入らなかったというよりも、こういったイングランドのノリが全然通じず、ヘンリーの考える教養があって洗練された女性の条件に当てはまらなったのも大きな理由なのかもしれません(ちなみにこの“教養があって洗練された“にぴったり当てはまるのがアン・ブーリンでした)。

ただ結婚の解消はできず、数日後に結婚式を行いました。

結婚生活とその終焉

スタートからダメダメだった結婚生活ですが、何とか半年は結婚生活が続きます。この間夫婦生活があったかは不明ですが、様子を尋ねた侍女にアナが「寝る前と起きた時にキスをした」と答え、侍女に「それでは将来の王子が生まれませんよ」と返されたというエピソードがあります。だめだこりゃ
半年後耐えかねたヘンリーはアナに離婚を伝え、アナは最初驚いて倒れたと言われていますが、特に揉めたりせず離婚を受け入れます。“王の愛する妹”という称号と領地や荘園、いくつかの城(その中の一つはかつてアン・ブーリンの邸宅だったヒーヴァー城)、十分な年金を与えられ、宮廷を去りました。離婚の理由は昔のロレーヌ公との婚約がちゃんと解消できていなかったから、というかなり苦しいもの。さすがに国内の弱小貴族相手とは違うので、処刑なんかとてもじゃないけどできず、文句が出ない程度の待遇を与える必要があったようです。
ただ離婚後イングランドから出ることは禁止されていました。他国の有力者と再婚とかされると面倒だったんですかね?アナは時折ホームシックになりつつも、おおむねイングランドでの生活に満足していたようです。
ちなみにアナとの縁組を頑張って取り付けたクロムウェルは責任取らされて処刑されています(理由は結婚だけではないのですが)。

離婚後は意外とヘンリーと仲良くやっていたみたいで、ちょいちょい宮廷にも顔を出しています。また“王の妹“という称号の通り王族として扱われ、序列は王妃・王女たちの次でした。
次の王妃ハワードが打首になるとアナの弟はヘンリーとの再婚を強く勧めましたが、拒否したと言われています。またその次の王妃パーとヘンリーの結婚式に参列しています。
6人の王妃の中では一番長生きし(享年で言うとアラゴンが上ですが)、メアリー1世の戴冠式にも参列しています。メアリーの時代はカトリックへの揺り戻しが激しい世の中で、アナはカトリックになったとも、プロテスタントの信仰を曲げずエリザベスと共にミサへの出席を拒否したとも言われています。どっちやねん。ただメアリーの即位以降はあまり宮廷や公式行事には顔を出さなかったようです。
エリザベス1世の即位の1年前に癌で亡くなり、王族が多く眠るウェストミンスター寺院に埋葬されました。温厚で寛大な性格と伝わっており、自分の死後は使用人たちをメアリーとエリザベスの元で雇ってほしいと遺言に残していました。優しい!

やっぱりこうして見ると、王妃の務めはないけど王族扱い、自分のお城で裕福に平和な余生を送ったアナが6人の中では一番ハッピーな人生だったんじゃないかなと思います。まあでも本当は故郷に帰りたかったかもしれないし、再婚して子供がほしかったかもしれないし、実のところは分からないですけどね。ただこの時代自分の希望通りに生きられる女性がどれだけいたかと考えると、やはりこれだけの自由を手にできた彼女はラッキーだったんじゃないかと思います。

インスピレーション

クレーヴスのインスピレーション元はリアーナとニッキー・ミナージュです。イギー・アゼリアのイメージもあるそう。プロデューサーのトビー・マーロウは映画化するならリゾかカーディBに演じてもらいたいと言っています。

楽曲

クレーヴスのソロ曲“Get Down”は、自信と強さを表すようなヒップホップスタイル。リアーナっぽいクールな雰囲気とニッキー・ミナージュっぽい大胆さを併せ持っています。
サビの“You You say that I tricked ya〜♪“からのところは手拍子してるとよくわかるのですが全拍で、リアーナの“Where Have You Been”とリズムが似ています。その他リアーナの有名どころの曲(たくさんありすぎて貼れない笑)やニッキーの“Starshps”とは同じバイブスを感じます。
イントロはイギー・アゼリアの“Fancy”っぽいですよね。
あと歌詞の“Now I ain't saying I'm a gold digger♪”はおそらくカニエ・ウェストの有名な曲“Gold Digger”から。

“I'm the queen of the castle. Get down, you dirty rascal!“の歌詞はイギリスの伝統的な子供の遊び歌の歌詞そのままだそうです。過激な遊び歌やな…
あと“Where my hounds at? Release the bitches♪”の後の“Woof“は、当初キャストたちのアドリブだったのが定番化したみたいです。クイーンの中でクレーヴスだけお下品なワードを直接言っているのですが(アラゴンとかはシッ…で止めている)、これはヘンリーがアナのことを教養がなく洗練されていない女とみなしていたと言う伝承に基づいたキャラクター造形なんだと思います。実際はイングランドと文化が違ったというだけで、真面目なお家で育てられた箱入りお嬢様なんですけどね。

またクレーヴスの曲の終盤では最前列の観客に踊って!とやりますが、観客が立ち上がらない場合はヘンリーのイ◯ポジョークを言うそうです(これ日本版公演でもそうなったら言うのかな笑)。これは多分、床入りがヘンリー側の原因で上手くいかなかったという伝承に由来するネタでしょう笑

ちなみにクレーヴスの曲の前にやるハウス・オブ・ホルバインは、ハウス・オブ・ガガ(レディー・ガガのクリエイティブチーム)から来たイメージらしいです。

衣装

衣装のテーマカラーは赤。クールなショートパンツスタイルで、ひと昔前のリアーナっぽい感じ(最近はちょっと系統違いますが)。基本短髪で、キャストによっては髪を赤くしていてこれもリアーナっぽいなーと思っています。

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