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人工股関節は、何年もつの?【変形性股関節症からの脱出 第8回】

「手術をしたら“人工股関節”は、何年もつのだろう?」

変形性股関節症と診断された患者は、誰でも「そんな疑問」を持つ。もちろん、ぼくも知りたい。

「人工股関節には寿命があり、15~20年経過すると取り替えなくてはならなくなります」

酒井慎太郎『股関節痛は99%完治する』幻冬舎(2013年)からの引用だけど、ネットで検索しても「同じような回答」を目にする。

股関節置換手術は、痛んだ股関節を外科的に取り除き、金属やセラミックなどでつくられた人工股関節に置き換える治療法。

当たり前だけど……

人工股関節の「寿命」は、手術後の患者の生活によっても違うだろう。ぼくは「走りたい」と思っているので「歩くだけ」の人よりは摩耗することは予想される。

だいたい、お医者さんは「悲観的な数字」を言う。楽観的なことを言って患者を安心させて「もしものこと」があったら、困るからだろう。

石部基実(いしべもとみ)といえば、股関節置換手術で有名なお医者さん。その人が書いた本では、次のように「人工股関節の寿命」を説明する。

「人工股関節は10~15年程度で取り替える必要がある、という話もあります。確かにそのようなケースがまったくないわけではありませんが、近年の人工股関節は最 先端の医療技術や加工技術でつくられているため、再手術が必要になるケースは多くはありません。

たとえばオーストラリア、スウェーデン、 フィンランド、イギリスの4カ国では人工股関節が登録制になっており、手術後の経過を集計した信頼性の高いデー夕が蓄積されています。そのデータの平均では、人工股関節置換術の術後10年間の再手術率は5%前後です。

わたしが自分の患者さんに手術前の説明をするときには、再手術の確率が年間に0.2〜2%、平均で1%程度は存在していると、お話しています。この数字を多いととらえるか少ないととらえるかは、それこそ患者さん個人の考え次第でしょう。ただ、ほとんどの人が再手術を受ける必要がある、というような数字ではないことは、十分に理解していただけるはずです」

石部基実『股関節の痛みは治る!』すばる舎(2013年)

エビデンスに基づき、数字をあげて具体的に説明している。誠実な説明なのだろう。でも……

「結局、人工股関節は何年もつのだろう?」という、ぼくの疑問は拭えない。検索と同時に本探しを続けていたら、こんな本に出会った。

杉山肇監修『股関節の痛み』別冊NHKきょうの健康(2012年)

「人工股関節は長期間にわたり使えるものですが、摩耗したり破損することもあります。ただし20年以上前に置換した人工関節でも、9割以上の割合で現在も問題なく使用できています。現在はより性能が高くなっているので、それより長く、20~30年以上もつ可能性があります」

「え?20~30年以上だって!?」

そう思って本探しを続けるのだけれど「最近出版された本」が、なかなか見つからない。「そんな本はないのかな」と、諦めかけたら見つかった。変形性股関節症に悩む人にとって、“必読の一冊”だと思う。

医療編集室編『股関節の痛みと向き合うための5章』ライフサイエンス出版(2021年)

前田昭彦医師は言う。

「昭和大学藤が丘病院には、開院した昭和51年以降に手術した患者さんひとりひとりについて、人工股関節がどれだけもっているかというデータが蓄積しています。それを見ると、何世代か前の人工股関節の場合でも30 年はもつことが分かっています。

その後、素材や構造は大きく進歩し ましたから、耐用年数はさらに延びているはずです。最近、患者さんには『40 年ぐらいはもつと思いますよ』と話して、安心して手術を受けていただくようにしています」

「よ、40年だって!!」

この後、ぼくは手術を受けることにしたのだけど、執刀医のE医師は「40年くらいはもちますよ」と言って、ぼくの背中を押した。E医師も同じ本を読んでいたのかな……。

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