
錯覚
喉が痛いので、きょうの飲み物はホットのレモネードにした。
しかし、半分しか飲めなかったので、持ち帰って残りは寝る前に飲もうと思った。
レモネードのペットボトルを横目で見て、先に風邪薬を飲もうと水を口に含んだ。
あれ?無味無臭だ!
と脳は混乱し、風邪薬を吹き出しそうになった。
甘酸っぱいレモネードを期待していたのに、無味無臭な水を飲まされ、おい待て、と脳がバグったのだろう。
人間の脳とは実に複雑にしてシンプルなので、このようなことは良くある。
コンビニで午後の紅茶と思い込んで買ったカフェオレを、飲み口を捻り開けて匂いまで嗅がずに飲んで、コーヒーかよ!口は温かいミルクたっぷりの紅茶を欲していたのだよ!と腹を立てる。
エスカレーターの前に乗っているロングコートの金髪女子が振り向いたらサッカー系男子だったと知った時。
どんな美人か期待した自分を呪う。
ウォークマンで音楽を聴いていて、次はトロイメライだと勘違いしてユモレスクが流れてきたとき、おい、と苛立つ。
しかし、思い込みとは恐ろしいものだ。
あれ?と騙されたことを知ると脳は怒りに充ちる。
べつに騙されたわけではなく、その対象も騙したつもりはない。
こちらが勝手に思い込んでしまっているだけなのだ。
まだ舌にレモネードを味わわせてあげていないので、脳が「甘味を、早よくれ、まだか」と些かお怒りモードなので、レモネードを飲むことにする。
甘いもので脳はホットしてくれるのだ。
お後がよろしいようで。