先輩のお勧めのお店
18歳で就職し、20歳で転勤して一人暮らしをしていた赴任先での事を話そうかと、ふと思った。
転勤する前は内勤で寮生活だったので、帰りは遅い時が多かったが晩御飯は寮母さんが毎日、用意してくれていたし、寝坊した時以外は朝食も食べて出勤していた。
そんな生活から、いきなりの一人暮らしだったので、どうなる事かと不安だったが部屋を会社が見つけてくれるまでビジネスホテルに泊まる事になったので、晩御飯はコンビニ弁当とかだったと思う。部屋が決まってからは朝食もろくに摂らず会社に行っていた。営業職だったので昼は出先でコンビニかファミレスが多かったと思う。
ただ晩御飯は会社の先輩に馴染みのお店に連れて行って貰う事が多かった。流石1人暮らしの先輩、どの店もリーズナブルで美味しかったし、ジャンルも中華から洋食と様々で1週間で1店ずつ回れる数の店を教えて頂いたし、2人で食事する機会も多かった。
ちなみに自炊も挑戦した事があった。タイマー無しの炊飯器をお客様から貰ったので、奮起して作った料理が、ご飯、目玉焼き、スクランブルエッグの3点。これが食卓の上に並んだ。食べ終わった直後には、明日はどこに食べに行こうかと考えていた。
ある日の晩御飯を先輩と2人で食べていた時に先輩が言った言葉がとても印象に残っている。
お前に教えた店は、良い店しか教えてないんだからな。と、続けて、ハズレの店にも教えた店と同じ数ぐらい飛び込みチャレンジしたんだぞって。
そうなんですかと答えながら、そりゃあそうかもなと思った。入る店全てが当たりな訳がないだろうなと。頭の中でハズレの店から出てくる先輩の姿を想像できた。
確かに人に薦めたり一緒に行く店ってなかなか簡単じゃないかもと、その話を聞いて思った。味はもちろん、価格帯も考慮しないといけないしジャンルによっては駄目な人もいるかもしれない。鰻屋に誘ったら鰻は苦手とかの。
今でも人に薦めれる店は両手で数えらるくらいしか無いかもしれない。
なので一念発起して、ひとつぐらい先輩に紹介できる店を自分でも探してみるかと、1人歩きながら晩御飯の店を探した。見つからなかった。そんなに簡単に見つかる訳なかった。それに歩いたので空腹でもう何処でも良いと思い始めていた。
目に入ったネオン看板にスナック&軽食と書かれていた店に躊躇なく入った。薄暗い店内にママらしき人と常連客らしいおじさんが1人いた。メニューを見てカレーを頼んだ。カレーと一緒にカラオケの本をテーブルに置かれた。カレーを食べながら一曲歌って帰るしかないと思い、何を歌おうか考えていたのでカレーの味は覚えていない。
自分が小学生の頃に流行っていた南佳孝の『モンローウォーク』を歌って店を出た。おじさんが若いねえと言ったのは聞こえていた。
この店は先輩に紹介できないなと笑った。
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