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ポストiOS14、Apple Search Adsの重要性が増す理由

本稿はUNICORN IncWhat We Believeマガジンに公開された記事です。


はじめ

iOS14以降のトラッキング許可に関する強制実施は2021年に延期となり、最低3.5ヶ月の期間は準備できるようになった。しかし、延期の発表前までの動きを振り返って見ると、その準備はかなりシステムや技術的な要素だけに限定されたように見えた。

iOS14以降の時代に向けて準備すべき物事は、システム的な部分だけでは無いと思う。それ以前に、アプリ事業のマーケターと組織が如何に従来の概念に引きずられること無く、柔軟、かつロジカルなメンタリティーを来年まで鍛えるかが肝心な所ではないかと思う。

そういった意味を込めて、Apple Search Adsという広告商品を例に挙げ、“ポストiOS14”に向けた心構えをここに記す。


誰に見て欲しいのか?

本稿には、Apple Search Adsの戦略的な利点なども含まれている。ただし、"CPIが安く取れます"的な話では一切ないので、近視眼的な視点で"CPIが安く取れる広告メニューを探している"人向けではない

本稿は、"マーケティングの在り方について、トレンドや変化を吸収しながら、自社のマーケティングに適用したい意思のある"人向けに“ポストiOS14”に向けた心構えを記すものである。


Apple Search Adsとは?

Apple Search Ads(ASA)は、言葉通りAppleが提供するアプリの検索広告。詳細などは、商品のホームページで詳しく記載されている。

https://searchads.apple.com/jp
https://searchads.apple.com/jp/advanced/
https://searchads.apple.com/jp/advanced/success-stories/


なぜ、Apple Search Adsが戦略的に重要なチャネルなのか?

1. App Store内で唯一自社のアプリを宣伝できる広告商品。

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広告商品・プラットフォームの"環境"とそこに存在する"ユーザーの行動"を考えると容易にその重要性が分かる。iOSアプリはApp Storeでしかインストール出来ない。そして、ASAはApp Store内で唯一広告掲載が可能な広告商品だ。さらに、App Storeでは今200万個近くのアプリが登録されている為、App Storeを訪ねるユーザーにとって検索はごく自然な行動であり、様々なアプリへの接触機会としても最も重要なものの一つである。その検索結果に連動し、自社のアプリを表示させる事が可能な広告がASAである。よって、"環境" x "ユーザーの行動"観点でもASAは非常に重要な広告と言える。

2. 検索広告である事。

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広告は色々な角度で分類する事が出来る。その一つとして、広告をPUSH型とPULL型と分類する考え方がある。
PUSH型は一般的に特定商品を不特定多数のオーディエンスにできるだけ広く宣伝する様式を指す。
PULL型は消費者を自社の商品に引き寄せる様式で、"自分が何を探しているかを分かっているユーザー”を対象とする広告だ。検索広告がこのPULL型の代表的な存在である。
その中で、ASAがアプリマーケティングにおいて重要度が高いことの根拠となるのは、ユーザーの目的がアプリダウンロードにフォーカスされているという事実である。一般的な検索広告商品のオーディエンスは、様々な目的をもって検索行動を行い、その検索結果に存在するサービスや情報コンテンツの中から目的にあったものを選択する。一方、App Storeを訪ねるユーザーは、アプリダウンロードが主な目的である。つまり、ASAは何らかのアプリを利用する意思がある状態のユーザーと接触が可能な広告商品であると言える。このユーザー行動の背景には、漫然と検索しているわけではなく、"新しいアプリ探し = 楽しく時間を消費できるコンテンツやソリューションを探している"ため、ダウンロード後の積極的なエンゲージメントに期待できるということも重要なポイントである。実際にOrganicユーザーのLTVより、ASAユーザーのLTVが高水準な結果となる事例は多数見られる。

3. ポストiOS14の環境で最も重要な広告商品。

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ポストiOS14の環境では従来のIDFA等をベースとした精度の高いターゲティングはiOSにおいてほぼ出来なくなる。そもそもマーケターがそれを求めていた理由は何か?見込み顧客相当のユーザーに対して広告を配信することによる、ユーザー獲得の効率化(≒コストダウン)のためである。しかし、ポストiOS14の環境では、個人情報がより繊細に扱われ、ユーザー単位データの取り扱いが大幅に制限される事から、従来型のマイクロターゲティングは極めて困難となる

その代替案の一つとして、これからより一層モバイルアプリ広告にもContextual Targeting(コンテキストターゲティング)が積極的に活用されることになる。Contextual Targetingは、広告が掲載面のコンテンツ、分類、トピック、キーワードなど連動して表示される事を意味する。ユーザーレベルの粒度でのターゲティングが困難となる時代においては重視されるべき方法論である。この観点においても、ASAはContextual Targetingの精度が最も高い広告と言っても過言では無い。なぜなら、アプリをダウンロードすることを目的としたユーザーの集まるApp Storeの検索結果に対して、ユーザーの意図・興味・関心が投影された検索キーワードに連動した広告が表示される仕組みなのだから。

4. 事業成長のコアに繋がる広告。

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私見だが、マーケターの向き合うべき大きなテーマの一つとして「Organicユーザーの拡大」があると考えている。User Acquisitionを目的とし、あるチャネルからの流入件数が明示される広告手法に終始するのではなく、どのように自社のサービス・プロダクトの認知を得て、自然とユーザーに選んで頂けるような状況を創り上げるか。この領域はいわゆるGrowth Hackと呼ばれる、マーケターとプロダクトサイドが如何に有機的に動けるかによってその結果が大きく変わるものである。一方、マーケター単体でも成果を上げられる領域がASO(アプリストア最適化)である。ASOの効能はApp Store内で自社のアプリがユーザーにより発見されやすく、よりクリックされやすく、そしてよりダウンロードされやすくなることであり、つまりは「Organicユーザーの拡大」に寄与する。また、App Store内において以下のような計算式が成り立ち、ASOはこれらに寄与することを認識すると、ASOの重要性がシンプルに理解できる。

ユーザーへの露出(imp) x ユーザーの反応(CTR x CVR) = 結果(CVs + ¥)

ARPUをマーケター単体の力で上げる事は容易ではない。しかし、露出、CTR、CVRを少し向上するだけでも、ダウンロードボリュームとそこから得られる全体収益は大きく変わって行く。そして、ASOの最適化に向き合うことはASAの最適化に繋がり、また、ASAの最適化はASOの最適化に繋がることをお伝えしたい。ASAにおけるクリエイティブはいわゆるスクリーンショットである。そして、そのスクリーンショットをクリエイティブとしてコントロールすることはASA運用における重要なメソッドであり、スクリーンショットを最適化することでASAは最適化され、同時にASOの大きな要素としてもユーザーの反応とその結果に大きく寄与する。つまり、ASOに取り組むことによりOrganicの拡大はもちろんのこと、ASAでの効果最大化を図ることができる。そしてASAにおけるクリエイティブ別の結果を元に、さらにASOの検証を深めることも可能である。つまり、ASAは事業成長のコアに繋がる非常に重要度の高い広告手法と言って差し支えないであろう。


破壊すべき“常識”。

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本稿ではここまでASAの重要性を例示してきた。ここからはASAを評価する上で重要な前提理解を記す。

ASAを評価する上で理解すべきことは、トラッキングツールとの乖離である。これまでアプリ領域におけるほとんどの広告メニューはトラッキングツール上の数値を正とすることが常識とされていた。しかしながら、ポストiOS14の環境において、ユーザー単位での価値を元に全ての広告メニューを同一の基準で、単一のレポートで表現・評価することは(少なくとも現在判明している情報に基づけば)不可能である。つまり、ASAに限らず、トラッキングツール上の数値だけに囚われず、ロジカルかつ柔軟に思考し、価値を評価することがこの先求められる。その上でASA単体で観測した際にどのような要因で乖離が発生するのかを整理していく。

まず乖離原因の一つとなるのはLAT(Limit Ad Tracking、追跡型広告の制限)の存在である。通常、LATの機能をON(有効)したユーザーの計測については、ユーザーのインタレストベースでターゲティングを行うGoogleやTwitterなどのメガプラットフォームでの広告の場合、ターゲティング対象にはならず、結果的に広告の露出は制限され、成果対象とならない(但し、わずかにトラッキングツール上で計測されるケースはある)。なぜなら、LATは"私をターゲティング・トラッキングしないでください"という設定をしているため、iOSのユーザー識別子であるIDFAの値が取得出来ないからである。

しかしながら、ASAにおいてはLAT-ONユーザーへのターゲティングは行わないものの、検索キーワードをベースに広告を露出するため、結果的に数多くのLATユーザーに対して広告の露出が可能となっている。これらが意味するのは、ASA経由で獲得できるユーザーには多くのLAT-ONユーザーが含まれており、またそれらのユーザーはトラッキングツール上においてはOrganicとして帰属されるため、トラッキングツール上のASAの評価数値に大幅な欠損が発生する事を意味する。

また、ポストiOS14環境においてこの乖離はさらに拡大し、そもそもASAに限らずメガプラットフォームでの広告全てにおいて、これまでのようなトラッキングツール上の数値を評価するというメソッドが通用しない世界が待っていることを忘れてはならない。繰り返しになるが、ポストiOS14環境においては従来のようなトラッキングツール上の数値のみで、同一基準で広告評価を行うということは不可能なのである。

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また再ダウンロード数の指標についても乖離要因の一つとして挙げられる。ASAにおける再ダウンロードは、いわゆるサイレントプッシュ(ユーザーには見えないプッシュ通知)をベースとしたアプリの死活確認ではなく、Appleのユーザー管理IDであるApple IDをベースとした最も厳密で正確な新規ダウンロード/再ダウンロードの識別により定義される。

多くのトラッキングツールが採用するサイレントプッシュをベースとしたアプリの死活管理の場合、プッシュ通知を許可していないユーザーの計測が出来ない。その点も含め再ダウンロードの定義方法が全く異なるため、乖離が発生する構造となっている。

すなわち、ASAにおけるトラッキングツールとの乖離は、ASA特有の要因を抱えているとともに、評価対象とすべき数値はASAの管理画面上で表現されるものであるべきか、トラッキングツールの管理画面上で表現されるものであるべきかは自明の理であろう。少なくとも現時点においてはいわゆるROASやLTVの評価の手掛かりとしてトラッキングツール上の数値は非常に有用なものである。しかし、ポストiOS14の環境においてはASAに限らず多くの主要な広告メニューにおいてこれまでのようなトラッキングツール上の数値のみでの評価が不可能となることは繰り返し言及した通りであり、またASAにおいては現時点においてもASAの管理画面上で表現されるダウンロード数や再ダウンロード数を評価対象とするのがフェアであると断言できる。

どう向き合うかによって勝負は決まる。

前項で言及した内容の理解が重要である理由は、もちろんポストiOS14環境を想定した数値の向き合い方という観点もあるが、現状としてASA管理画面とトラッキングツールとの数値乖離は多くの場合30%~50%、極端なものだと70%程度乖離するケースも散見されるためである。つまり、トラッキングツール上の数値を正として評価した場合、ASAの本来のパフォーマンスに対してその半分以下の評価を下すことになるという事実をどう捉えるか、である。

例えば、ASAとトラッキングツールの数値乖離においてその要因は理解しながらも、会社組織がトラッキングツール上の数値以外では評価しないために、LAT-ONのユーザー層の獲得は評価できないといったシチュエーションを目にすることは少なくないが、必然的にLAT-ONのユーザーが増え続けるポストiOS14環境下においてそれは看過できるだろうか。

また、トラッキングツール上の数値を正とし、それのみで評価することの弊害は他にもある。ポストiOS14環境下においては一部改善が期待される事象ではあるが、IDFAを悪用しView-throughをClick-throughと誤認させるなどといった、Organicに本来計上されるべきユーザーを特定のチャネルの広告成果に紐づけるアトリビューションの操作などは今もなお多くの広告予算が投下されている。こういったケースにおいては本来Organicに計上されるべきユーザーであるため、いわゆるユーザーの質は高く、効果の良い広告チャネルであると誤認されてしまう。その広告チャネルの特徴や、発生クリック数の多寡や、CTR・CVRなどの指標を見ればその異常性から不健全な広告チャネルであることは一目瞭然ではあるが、トラッキングツール上の数値、特に獲得数やその後のROASのみを評価していると見抜くことが難しい事象ではある。

果たして、こういった自社のマーケティングおける脅威を見抜く力と意志がないマーケターや会社組織が、IDFAが取れない事が当たり前となり、これまで頼りにしていたトラッキングツール上の数値も同一の基準、単一のレポートでは評価ができなくなるポストiOS14環境において生き残ることはできるのか。

私見ではあるが、ASAに限らず、トラッキングツール上の数値のみを正として評価することが困難なポストiOS14環境においては、マーケティング活動が自社のサービス・プロダクトに対してどれほどのインパクトを与えているかという全体像の理解(≒DAUの推移に目を向ける)とともに、個別の施策においては単一の指標や表面的な数値のみに囚われず、各施策固有の特徴を理解した上でそれをどのように最適化・最大化するか、という視点で評価と投資を意思決定する、といった、部分最適ではなく全体最適に重きを置いたマーケティングを実行できるマーケターにこそ価値があると考えている。


終わり:動機 - なぜこれを書いたのか?

ここまで色々書きましたが、言いたい事はASAの重要性を知ってもらう事ではありません。

急変する時代に生き残る為に、本質を見つめながらその変化にロジカル&柔軟に対応する力が必要という事が言いたかったです。私自身も直近まではトラッキングツール側の人間でして、もしその職にずっと努めたとしたらこういう発想は出て来なかったと思います。当たり前と考えて来た理論や考え方、だからこそ特に疑問も持って無かった物事が、置かれた環境の変化によって別の角度から物事を考えるきっかけとなり、新しい気付きに繋がった事は自分に取っては非常に価値のあるものでした。

コロナにより"New Normal"が生まれたように、iOS14によって業界にも"ポストiOS14"という新時代が来年から始まります。既存概念やフレームワークに囚われ、柔軟に対応出来ない個人や組織の生存率が極めて低いのは、歴史からも簡単に推測出来ます。一方、本質的な方向性を見失わず、柔軟な発想とクリエイティブな思考を元に"ポストiOS14"に挑もうとする動きが活発になればなるほど、よりエキサイティングなマーケティング業界になるのではという期待も含め、少しでも考えて頂く機会を作りたく本稿を書かせて頂きました。

本稿はUNICORN IncWhat We Believeマガジンに公開された記事です。




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