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GDSC TMU '22 - '23 Lead ~ソフトウェア開発と無縁の大学生がソフトウェア開発コミュニティを再構築してみた話~

Summary -時間の無い方へ-

これは、ひょんなことから全くの無縁だった分野のコミュニティの代表になった私の経験談です。そして、一年間の代表任期でそのコミュニティを生まれ変わらせた経験談でもあります。
以下のような目的をもって執筆しましたが、それ以外の方にも読んでいただけたら嬉しいです。

  • コミュニティのリブランディングや再生に取り組む人に一事例を提供する

  • 後輩GDSC Lead/GDGoC Organizerに向けて、ソフトウェアのバックグラウンドがそれほどないLeadがチャプター運営した事例を提供する


はじめに

 こんにちは、marsh_mallowです。2024年12月現在、東京都立大学大学院システムデザイン研究科所属のM2学生です。
 私は、2022年10月〜2023年9月までの1年間、GDSC TMUのLead(リード、代表)を務めていました。そして、「チャプター再構築部門があったら1位」という大変光栄な評価をいただいてLeadを卒業することができました。Lead卒業後に、他のLead同期や後輩Leadsの方々と交流していく中で、具体的にどんな運営をしたのか知りたい方が多いように感じたので、記事にまとめることにしました。

 内容に入る前に、GDSCやGDSC Leadについての説明を添えておきます(一部引用)。

GDSC(Google Developer Student Clubs)プログラムは、Google のテクノロジーに関心のある学生向けのコミュニティです。本プログラムでは、学生の皆さんが日々直面している身近なコミュニティ(部活・サークル・研究室)における問題を、テクノロジーの力で解決することを目指しています。GDSC は、IT 業界に関心のあるすべての大学・大学院生なら参加可能です。 世界中の学生達や現役エンジニアとの交流に加え、限定イベントへの参加など、さまざまな活動やワークショップを通じて、学生の開発能力とリーダーシップ力の向上を支援します。米国を始め、ヨーロッパ、オーストラリア、東南アジア、アフリカ、インド、中東・北アフリカ、ラテンアメリカ地域などなど、合わせて 113 カ国以上、1500 拠点から世界中の学生たちが活動しているグローバルなプログラムです。

GDSC JP公式HPより引用

 GDSC TMU(現・GDG on Campus TMU)は、2021年10月に創設された、GDSCの東京都立大学支部です。公式サイトはこちら
 GDSC Leadは、GDSCの各支部(チャプター)のリーダーとして、コミュニティの構築、運営、拡大をする役割を担います。GDSC Leadの任期は一年で、Leadになるには選考への応募が必要でした(参考:https://sites.google.com/view/gdsc-jp/lead-%E5%8B%9F%E9%9B%86%E4%B8%AD
※おことわり:本記事執筆時点で、GDSC (Google Developer Student Clubs) はGDGoC (Google Developer Groups on Campus) にリブランディングされ、各チャプター代表者の呼称はLeadからOrganizerへと変更されています。しかしながら、私がLeadを務めていた当時はリブランディング前であったため、当時を尊重して、本記事では一貫してGDSCおよびLead (GDSC Lead) の表記を使用いたします。

私がGDSC Leadになるまで

GDSC を知るまでの私

 もともとは高専の電気情報工学科の出身で、電気電子分野を中心に学んでいました。高専ロボコンに取り組んでいたので、マイコンを用いたロボットの制御や電子回路の扱いに関してはある程度慣れていました。しかしながら、ソフトウェア開発についてはまったくの無縁でした。
 2021年春に高専を卒業後、都立大の情報科学科に編入しました。電気電子から情報に専攻を変更した理由としては、構造化されたデータ(主にグラフ構造)に興味を持ち、研究に応用したいと思った、ということが第一にありました。そのため、相変わらずソフトウェア開発とはほとんど無縁でした。ちなみに、課外活動としては、またロボコン(NHK学生ロボコン)に取り組みました。
 

Lead引継ぎ依頼を受けた経緯

 編入生活も半分を過ぎて大学4年になり、NHK学生ロボコン出場と大学院入試を控えた2022年4月、突然、所属研究室の先輩であるGDSC TMU初代Lead(留学生)から引き継ぎを依頼されました。その時点で、私はGDSCについてほぼ全く知りませんでした。改めてGDSCについて調べましたが、初見の印象ではどう見てもソフトウェア開発に興味と経験がとてもある人向けの場所に見えました。
  「申し訳ないですが、他にふさわしい人がいると思います」
初代Leadにはそう伝えたのですが、返ってきた返事はこんな内容でした。
  「あなたはロボットのソフトウェアの開発経験があるし、チームで活動した経験もある。世界のLeadsと英語でコミュニケーションもできる。だから、あなたにはできるはずよ」
 

応募理由に“自分の意志”を組み込んだ経緯

 応募するきっかけができたとは言え、そのままのマインドで応募してしまったらどこかで後悔するように思いました。そこで、応募書類を書きながら、本当に自分がLeadをやりたいと思う気持ちが少しでも入るようにマインドチェンジを試みました。
 応募書類では、数個の項目それぞれで、自分がLeadになったらどのようなコミュニティを作っていきたいかについて書かなければなりませんでした。そこで改めて、GDSCのシステムを使ったら何ができるか考えました。
 考えてみれば、都立大システムデザイン学部というのは、ものづくりに対して比較的高い関心を持った学生が集まっている場所です。そして、GDSCは、ソフトウェアというどこの分野でも縁のある分野のコミュニティです。そんな学生たちがGDSCに集まれば、これまでにないシナジーが生まれ、もっと活気のあるキャンパスになるのではないだろうか…そう考えたとき、あ、私、これやってみたいかも、と思いました。この時、応募理由に「自分の意志」が加わりました。
 そこまで考えたうえで応募書類に向き合うと、自分でも驚いたことに、全項目があっさりと埋まりました。
 合格したときは一瞬たじろぎました。ですが、どうせやるならやってやる、と気持ちを切り替えました。

GDSC TMUはどう変わったのか

 先代Leadから引き継ぎを受けた当初のGDSC TMUは、次のような状態でした。

  • チャプター公式Slack参加者:20名程度(誰もログインしていないため実質ゼロ)

  • 開催イベント数:3(うちチャプター内参加者がいないイベントが2)

  • 都立大内認知度:ほぼ誰も知らない(信頼度で言えばマイナス)

 2021年に設立され、一年間活動してきたコミュニティにしては、規模があまりにも小さい、というのが正直なところではないでしょうか。「(日本国内の同期のLeadの中で)一人だけマイナスからのスタート」と言われたのも頷けます。まったくの白紙から始めるのであれば、Lead就任して即座にアクションを起こすことができますが、私の場合、上記のようなチャプターの現状を把握して、信頼を取り戻すことから始めなければなりませんでした。
 それから約一年後、GDSC TMUは非常に活発なコミュニティに生まれ変わっていました。SNS等での広報を一切しなくてもメンバーが自然に加入するようになり、メンバーは1年で40名ほどまで増加しました。Solution Challenge2023にも1チームが参加することができました。

GDSC TMUを再構築するためにしたこと

 2022年10月にLeadに就任してから、だいたい2023年の3月ごろまでは、再構築および運営を安定させるために力を入れました。私の状況的に必要だったと考える点を中心に、だいたい時系列順に行ったことを書いていきます。

情報を仕入れた

 何事においても事前に知識を仕入れておけば慌てずに済むのではないでしょうか。全く無縁だった場所に飛び込むならなおのことです。
 Leadになることが決まった学生には、GDSCをグローバルで統括しているチームから学習資料が送られてきます。資料の内容としては、コミュニティマネジメントにおける7つのPをはじめとするリーダーの心得を中心とするものです。資料が送られてきてから本格的に引き継ぐまでの一か月の間、大真面目にノートをつくりながらこれを勉強しました。
 これとほぼ同時に、前年度の活動の様子や現在のチャプターの様子に関する情報を可能な限り集めました。具体的には、前年度のコアメンバーのうち連絡先が分かった方や、先代Leadが挨拶していた学内の先生に連絡を取りました。そうして連絡がついた方に当時の情報を聞き出しました。

GDSC TMUの存在目的とターゲットを再定義した

 一度構築されかけたコミュニティから人が離れた原因の一つには、コミュニティの打ち出す目的と、ターゲットとする人々のニーズや場所の特性がマッチしていなかった、ということがあるのでは?と考えます。前項に書いたとおりに集めた情報をもとに検討した結果、それまでのGDSC TMUの存在目的を再定義し、ターゲットを一新することにしました。
 私が再定義した“GDSC TMUの存在目的”は、
「IT系モノづくり民の居場所であるとともに、分野を問わず技術系、モノづくり民どうしの交流、協力による課題解決が可能になる場所をつくる」
というものです。それに伴い、ターゲットは「ソフトウェア開発に興味を持つ学生に加え、IT全般を用いたものづくりに興味がある人や、課題解決に興味がある人」としました。
 「IT系モノづくり民の居場所」としたのは、GDSCのデフォルトターゲットとなっている「ソフトウェア開発」に関するサークルが、都立大には存在しないことがわかっていたからです。都立大には情報科学科があるため、このターゲットを掲げるサークルに対するニーズが存在するのは間違いないと思っていました。また、「分野を問わず技術系、モノづくり民どうしの交流、協力による課題解決が可能になる場所」としたのは、多分野をカバーする都立大(特にシステムデザイン学部)のものづくり環境に可能性を感じていたからです。これは応募書類を書いたときの思いと変わっていませんでした。
 この2点をおさえれば、都立大の中に埋まっているであろうニーズに応えつつ、このキャンパスのポテンシャルを最大限に引き出すための土壌をつくれる…そんな希望を胸に秘めていたのを覚えています。

諦めずに広報した

 再構築するためには、必ず、ふたたびメンバーが集まってくれなければなりません。そこで、決定したターゲットを軸として、公式Twitterでメンバーを募りました。先代がつくったTwitterアカウントはほとんどフォロワーがいなかったため、取り急ぎ技術系と思われる都立大生や他の技術系部活のアカウントをフォローしてプレゼンスを上げました。その状態で、メンバーを募集するツイートをしました。さすがに一回のツイートでは気づいてもらえませんでしたが、何回も表現を変えてツイートを繰り返すうち、反応してくれる人が現れました。実際に最も反応を多くもらえたツイートがこちらです。

この時に反応してくれたうち数名が、のちに2024年現在も中心となって活動してくれているメンバーとなります。

集まったメンバーに協力を仰いだ

 メンバーが集まっても、活動が始まらないとコミュニティは動き出しません。ですが、活動を企画する運営は私一人です。この2つを同時に解決するため、メンバーに活動に参加してもらう仕掛けを運営に組み込むことにより、コミュニティを活発化させることを試みました。
 最初に参加してくれたメンバー数名に声をかけて集まってもらい、このチャプターの設立経緯や運営の人不足やリソース不足を明かしました。すると、運営を積極的にやりたいと申し出てくれたメンバーや、技術的には助けると言ってくれたメンバーが何人も現れました。その結果、イベント企画が動きだし、GitHubや内部Notionなどの開発や情報共有に必要な環境が整っていきました。また、コアメンバーの尽力で、再始動から2か月後の2022年12月には学内のスペースを借りて対面で勉強会イベントを開催することができました。

実験した

 集まったメンバーがコミュニティに滞在することへの価値を少しでも高めるため、Slack上にたくさんの情報を共有し、活動しているのを見せるようにしました。そうしたことで、徐々にSlackを定期的に見てくれる人が増えていきました。
 それ以外にも、Leadとしてやってみたいと思ったことは実験としてなんでもやってみるようにしました。Slackチャンネルを増やしたり、オンラインスペースをつくってみたり、海外と交流してみたり。長期的にはうまくいかなかった施策も多数ありますが、再構築したてでまだまだ不安定だったコミュニティを機能させ続ける燃料にはなっていたと思いたい…です。

Lead任期中に気をつけたこと

 再構築中はもちろん、ある程度コミュニティが安定した2023年4月以降も、Leadとして運営するうえで気をつけていたことが何点かありました。

自分の中の常識や許容範囲を広げる

 活動初期の話ですが、集まってくれたメンバーのほとんどと経歴が異なるという立場で運営をする中で、自分だけの常識に基づいて行動してしまっていることに気がついたことがあります。また、私自身、想定外の状況が発生することを許容できない面がありました。そんな私でしたが、メンターのGoogle社員の方や運営を手伝ってくれたみんなに意見してもらうことで、少しずつ、メンバーの個性やライフスタイル、小さなほころびや想定外の状況を許容できるようになり、メンタル的に楽になっていきました。

「メンバーに」楽しんでもらう

 メンバーとバックグラウンドが異なるということで、自分が楽しいと思うイベントばかりを企画しても誰もついてこれないことは、分かっているつもりでした。そこで、メンバーの意見やフィードバックを自分から求めるようにして、メンバーにとって楽しい場所を目指しました。現在は動いていなチャンネルですが、誰かがポロっと言ってくれた「このツール布教したいよね」という言葉に勝手に体が反応するようにしてSlackに「布教」チャンネルを立ち上げたら一気に盛り上がったのはいい思い出です。

人に聞いてもいいが、最後は自分で決定する

 ソフトウェア開発の知識が乏しい私は、特に技術面において、往々にして周囲のメンバーより運営に関する知識が足りないことがありました。また、SNS運用など客観的視点が必要なときもあります。そのため、特にコアメンバーにはよく頼らせてもらいました。しかしながら、すべてをコアメンバーに任せたわけではありません。周りの人に頼るのは大事ですが、最終的にどの方向性で運営していくのかを決定するのはLeadの責任です。

疲れたら休む、人と話す

 ここまで計画的に活動をしていても、メンバーの技術的な議論についていけない、通じ合えないなどでどうしても心が折れるときはありました。そういう時は、メンターとの1on1をお願いして、壁打ちに付き合っていただきました。そのほか、以前からの友達、特に学生ロボコンで一緒に活動したメンバー達も、話につきあってくれたり、応援してくれたり、活動に参加してくれたりしました。今でも感謝しています。活動初期に背中を押してくれた一言は忘れられません。

おわりに

 いかがでしたでしょうか。何かの参考にしていただける方、笑っていただける方が一人でもいらっしゃれば幸いです。
 私がGDSC Leadを卒業してから一年と少しが経ちましたが、現在のGDSC TMU、もといGDGoC TMUは、学内でもある程度光る存在になっているように感じられます。対面活動ができるようになったことでさらにメンバーが増えました。都立大の他の技術系部活ともつながりができ始めたようです。最近では、私がもといた都立大ロボコン部の方にも良い影響が出始めたというお話も耳にしています。安堵と感慨深い思いでいっぱいです。
 最後になりますが、私がGDSC Leadとして駆け抜けた一年は、多くの方の支え無しでは成り立たなかったものです。当時コアメンバーになってくれた方々、仲良くしてくれた日本中そして世界の同期Leads、担当Googlerの皆様、都立大の教員や職員の皆様、GDSC TMUの当時メンバーの皆様、そして応援してくれた友人や各所の先輩後輩の皆様へ、改めて深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
お気づきの点、ご指摘いただける点などがあればコメント等でおしらせください。随時アップデートしていきます。感想もお待ちしています。


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