戸川純の歌詞に最近思ったこと

前回の記事のあと、それとは関係なく平沢進や戸川純への熱量が多くなり、Youtubeにあるものを漁っていたら、戸川純の歌詞は機能不全家族というか、フェミニズムが批判している社会構造とも無関係ではないなと新たに思うことになった。

エピソードについては彼女自身が語っている動画があるので探してみてください。私が知っている情報はほぼ動画からですので。

20代ごろの戸川純はよく「自分は普通だ」「普通であることを証明したい」とたびたび発言している。いいとものテレフォンショッキングでも言っている。しかし、まあ彼女はイロモノ芸能人として扱われる場合が多い。タモリの『今夜は最高』という番組で、上にあるようなことを言いつつ、逆に墓穴を掘ってしまったんじゃないかと沈んでしまう。そのなかでタモリは「あなた番組に出るとすごく周りのこと気にするんだよね」と慰めている。たぶんこれは事実そうだろうと思う(いろんな動画見ていると)。そこで周囲に気を回しすぎて言動がぎこちなくなってしまっているというのを感じる。

彼女は裕福な家庭に厳しい父のもとで育ったという。たしかバナナの販売か何かで豊かになったと言っていたような(うろ覚え)。とにかく、その厳しい父、あるいは家で躾を受けたのだろう。これによって、あるべき常識人への拘りが生まれたのだと思う。常識を外れる言動は父によって叱られ、常識人であることは褒められること、自分の存在が承認されることだと——裏を返せば、常識人を外れることは叱られることだと、自分の存在が承認されないことだと教わったのに違いない。

今でこそ毒になる親とか言われるけど、彼女が育った当時はそういう認識はなかっただろうし、子は親を疑うことをまだ知らないはずだし、疑うことは苦痛も伴うこともある。親を疑うということは、これまでに構築した価値構造の基礎の部分を壊すことにもなりかねないのだから。想像だけど、思春期になっても反抗期と呼べる時期は外見上はなかったんじゃないかと思う。

躾によって言動を縛られるということは、自発的な情動を発露できないということである。彼女は幼いうちから劇団に所属していたらしいが、彼女は女優としての自分にも拘りをもっていて、歌手というのは彼女にとって一番の職業ではなかったようだ。ただ、これもいいともの1コーナーで「戸川純さんの職業はなんですか?」と質問されたとき「あなたが思う職業です」と答えた。つまり歌手だと思えば歌手で女優だと思えば女優だという。その中でも女優の仮定の場合に「思ってくださるのなら」と望ましいものとして表現されていたと記憶する。

ここで、ゲルニカという風変わりなグループに歌手として参加したとき、歌手という楽器として扱ってくださいと言ったという話を思い出す。彼女は何者かになることの操縦を他者に預ける。これは父の躾からきているのだろうと思う。そして、このことと女優は一致するし、女優は様々な役を演じる者だから、この中であれば自己を表現してよいと逆説的に解放される。役柄という束縛を受けることで解放することに許可がおりているのだ。だから彼女は歌手として広く世間に認知されても女優に拘ったのだ。

さて、そんな彼女がうたう歌の詩はどんなものというと、「バーバラ・セクサロイド」という歌では人権も羞恥心もない機械だといい、「踊れない」では「あなたの指図通りに生きてきました」といい「なぜ私にダンスの踊り方を教えてくれなかった/私の仕事決められてる/私の動き決められている/思い通りに動けない」という。また「私の中の他人」という歌詞では暴力的な別人格が登場する。

彼女の歌詞はこのように、彼女の生育と無関係でなく、どこかで言っていたが右翼と自認している。声優の宮村優子に提供した「12才の旗」の歌詞は、初潮を迎えてそのシミを日の丸に例えて万歳をするというものだ。彼女にとって初潮というものが「女に生まれる」ということ、女の一員として承認されることとしてあり、フェミニズムの視点からは家父長制を内面化しているということになろう。内面化してそれに沿おうとしながら、彼女はうまくそうなれず、あるいは逸れていない自分を示そうと意識しすぎた余りむしろ逸脱してしまったのだろうと思う。それは彼女にとって不幸だったかもしれないけど、そうした人生をフィクションに変換して歌った彼女の魅力は、類似した境遇の者の胸を打ったのだとも思う。そういえば戸川純バンド名義のアルバムには「TOGAWA FICTION」という歌もあるし(「私はフィクション」って悩ましい声で言っている)、ヤプーズのテーマでは「フェイクでチープなドラマよ」と言っている。実人生と重ねないでねという意味なのか、ともかく彼女にはフィクションで偽物で浅はかなものだということに強さを得ているように思うのは、その発言が女優志向の根拠と私が考えているものと共鳴するからだろうか。

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