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授業中に乱入してきた親子

インド洋に浮かぶ小さな島国モルディブ共和国でヘアメイクの先生をしていた頃のお話し。

いつものように授業中、ヘアカットの理論を説明していると、なんだか外が騒がしい。
生徒たちも、顔を見合せソワソワしている。

今日はデモンストレーションを兼ねているので 隣接するヘアサロンに生徒を集めて教えていた。

突然ドアが開いて、ブルガをかぶったマンマ(お母さん)
がすごい形相で上がり込んでくる。

ひぇっ!なにごとーー?!

若い娘はマンマに髪をつかまれ、泣き喚き、抵抗しながら、引きずられてきた。
黒いアイラインが溶けて顔中、墨汁零したようになっていて、口元や手足に小さく血が滲んでいる。
マンマと、娘の姉妹と思われる女性もなにやらギャーギャーいいながら入ってきて、私や生徒達にクリッパーがどうのこうのと言っているが、私にはまったくわからない。

生徒の一人が、「バリカンをもってこいといっている」
と通訳してくれて、やっとこの騒ぎが読めてきた。
マンマは、娘の髪をバリカンで「じょりっ」といこうとしている。

理由はわからないけれど…
阻止せねば!!!!

しかし、時すでに遅し。
生徒がバリカンをみつけ渡していた。

こらぁ!ばかちん!なんで渡した?

「イルザーナ!?」(生徒の名前)
「あ、、、?       …   あぁ!!?」

目で諌めると、その生徒は渡した後に何が起こるかを、やっと想像できたらしい。

やっちまったな顔をして私を見る。


「だれか校長先生を呼んできて」と言うと、その他は何も出来ずその場を見守る形になった。
娘は未だに激しく抵抗し、姉(?)は殴る蹴るの暴行を
加え、母親はすでに娘の髪を野球部みたいにやってた。
押さえつけられている娘は嗚咽して床にうつ伏せている。

なにがあったん?!
そもそも親子か血縁関係なのかわからないけど、これは警察呼ぶべきよね?

校長が来て警察を呼び、学校の事務や、用務をしてるアリとナシードがきて親子を引き剥がし、すったもんだで彼女らはどっかへ連れて行かれた。

校長に「あれはなんだったんだ?」
と呆然としながら聞くと、恐らくあの少女はイスラムの戒律を破ったらしく、それが家族に見つかり あの仕打ちをうけていたらしい。
姉の旦那と「いい仲」になり、みつかってしまったらしい。
校長はチッチッチと舌打ちをしながら呆れていた。

あんなに取り乱したモ人を見たのは今回が初めてで、
本当にびっくりした。
マンマはブルガも服も黒くて長いものを着ていたから、恐らくとても厳しい家庭なのではないだろうか。
生徒の話ではあの子は15歳で、姉の旦那は20歳らしい。
そんで、その旦那は島の警察官。
小さな島だから、皆、顔見知り。

あの子の今後が心配だった。


それから数日過ぎたあたり職員室にあの娘が来た。
給食係みたいにバンダナをかぶって、ナシードと話している。

あ!って顔をした私に 魅力的に微笑み、頭に手をやりはにかむ。

ここは青年省の学校なので、彼女のその後が気になった校長先生が呼んでいたらしい。

「アッサラームアライクム。ケヘナカ?」
アッドゥ弁で挨拶をすると、おぉ!と目を見開き嬉しそうに笑い出す。
ナシードが、私の紹介をしてくれて、ヘアメイクコースの先生だと知ると、興味を持ってくれて、コースに入りたいと言ってくれた。

その後、色んな話をしてみると彼女は少し大人びていて
なんと言うか、粗い子だった。
磨けばとても素敵な大人になれるだろうな、と思った。
大人びていて、話も面白く、賢い。
醸し出す雰囲気は日本で言うヤンキーのそれと似ているけれど、礼儀はちゃんと知っている。
とても魅力的な明るい褐色の瞳で、目を太くて黒いアイラインでぐるっと囲んでいる。
爪の先は染料で赤く染めていて、低くハスキーな声で話す。
女らしく美しいけどワイルドでボーイッシュな子。

彼女は始まったばかりの初級クラスに途中から入ることになった。

これが、私の初めて受け持ったクラスの生徒の1人、
シファーザとの出会い。

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