相沢沙呼先生に釣られてリーライ見に行った話「密室の中の亡霊 幻視探偵」
※ネタばれを含みます
リーディングライブのライブビューイング「密室の中の亡霊 幻視探偵」、2019/10/26(昼公演)に行ってきました。普段なら、まず行かないであろう声優さんのイベントに何故行ってきたかといえば、今回の脚本担当が相沢沙呼先生だったからです。相沢先生の読者のファン層とは違う(ミステリファンとは限らない)というのも、今回のキーとなったのではないかと思います。
役名は失念しているところがあり、申し訳ないのですが、ミステリとしての面白さを生かした作品になっていたかと思います。密室、多重推理、探偵と助手の関係性。この三点に力点のおかれており、映像的作品であるからこそ成立するところが強いです。
1.密室
コンパクトな密室を用意しつつ、館の中でほかの人間と言い争うなどの「ミステリらしさ」というのを忘れないのがよかったです。「百年前の事件」という書物にだけ表出する謎、というのは、ミステリのオタクは心躍ります。「黒書館」というオカルト蔵書で満ちた館であったり、キャラクター一人一人がミステリ小説に登場しそうな造形をしていてどういう存在なのか覚えやすいことも魅力といえるでしょう。グリモワールに対する言及などにも、相沢先生のフェティッシュな一面が見られるように思います。
密室自体の解決としては目新しさはないのですが、それをいかに見せるか、を考慮している。たとえば、被疑者と被害者の配置表現であったり、密室の状態を、探偵助手の合いの手でフォローすることなど。一瞬では理解が難しいことも、何度も確認することで、小説のように巻き戻せない舞台にあtってミステリを成立させることができたのだ、と思います。
2.多重推理
多重推理自体は割と『虚構推理』以降よく取り入れられるようになってきましたが、キャラクターの独白という朗読劇の見せ場として用いているところが好印象でした。多重推理によって、キャラクターの全容が少しずつ開示されていくというのは、今回のような「全員見せ場を作る」という場合には有効です。被疑者三人の三パターンを提示する。しかも、それは名探偵の「幻視」である、というキャラ付けのパーツとしても使われていて、このあたりも痺れるポイントです。被害者のうめき声にも、多重推理によって意味が生まれるのは面白い。なかなか古川さんのうめき声を沢山聞く機会もないでしょう。
「多重推理の思考パターンが、よりシンプルなものに近づく」ということと、「物語全体の真相にたどり着く」ということの二つを上手くやっていて、その話運びのうまさが良いです。そして、「たった一言」でそれぞれの推理を棄却できる、というのも興味深かったです。
意外な犯人、というのを持ってくるには、最初に三人を被疑者とする構図で気付くかな……と思うのですが、ストーリー展開を持っていくための工夫の一つといえば納得できます。
1926年のアガサ・クリスティの作品を踏まえている、という言及は面白かったんですが、日本でその作品を当時タイムリーに読むことができたのか、には引っかかります。ただ、小道具として、ミステリオタクがクスリとできる要素として使ったのかな、と考えるとありがたい気配りだと思う。
3.探偵と助手
「名探偵の挫折」を描く作品は最近顕著に多い印象ですが、相沢先生と同じく鮎川哲也賞を受賞した、『名探偵の証明』(著・市川哲也)などが挙げられます。(ほかにもたくさんあるのですが、ネタバレに繋がるので他の作品への言及は避けます)
翻って、今作の名探偵たる暁も、「挫折」を経験して推理ができなくなったタイプの探偵で、その鬱屈として、かつ「名探偵」らしい癖のあるキャラ造形(とにかく、なんだか偉そうだけどかっこいい!)。私は神谷バージョンで観ただけなので、その演技の部分に対しては深い言及はできませんが、「長年シリーズ探偵をやっていた貫禄」みたいなものが上手く表現されていたように思います。
助手・摂理について。吉野バージョンしか見ていないんですが、とにかく「まったく」と呆れていたり驚いたりしているところが、助手然として最高にかわいい。相沢作品で、今までこんなに助手として可愛い男子いただろうか、ってびっくりしてしまった。普段書かれている探偵助手に比べると、「二次元」寄りなのは、リーライという2.5次元的な空間で演じられることを前提としているからかな、と。
バディものの片方が相方の名前を呼び続ける、というのは王道ですが、摂理は何度も「あかつき!」と名探偵の名を呼びます。暁は摂理のことをそんなに呼ばない。こういう王道の集積が今回の探偵助手関係を語るには必須だと思います。社会不適合者の名探偵と、傍にいるけれど自称・無力な助手という構図は「みんな」が好きなバディミステリです。摂理の独白、暁の独白、それぞれで自身のキャラクターを確立させるだけではなく、互いを照射してみせるところも熱い。エモい。
で、オチとして、「幻視」探偵である所以を解き明かされるわけですが、こういう落とし方自体はままある。けれど、それを探偵と助手の絆に収斂していくところが、とてもバディミステリとしての正解を提示していると思います。
なんだ、さこもこ先生、ブロマンス調のお話も書かれるんだ! って素直に感動してしまいました。幻視探偵、どこかでまたお目にかかれたらいいな、と思います。楽しかったです。ありがとうございました!
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