イベント「ブラックな企業ブランド戦略の裏側」をガチでレポートしてみた。
※このレポートは実際のイベントのごくごく一部を抜粋しています。
※読み手がわかりやすいよう編集しているため、実際の流れと異なる場合があります。
2019.06.04 19:30 都内某所
その日、サンクチュアリ出版のイベント会場は大入り満員だった。
当初の想定は10名ほど。 しかし、その日の会場には西崎氏の話を聞きたいと30名を超える人が集まってきていた。
開口一番、「最初、少人数で話せるよって告知してしまってスミマセン」と申し訳なさそうに謝る西崎氏は、 Twitterのブラックな印象と打って変わって気さくなしゃべりと柔和な風貌だ。
「皆さん初めましてということで、僕の会社をTwitterで知っている人がほとんどやと思います。だいたい共通して会社オモロいね~と言っていただくんですけど、同時に、何やっている会社かよくわからんって言われます (笑)。ということで最初に会社の説明となんでこんな会社をやっているのかという僕の自己紹介をさせていただきたいと思います。」
期待を胸に耳をそばだてる私たちを前に、西崎氏は自己紹介を始めた。
―最初の夢は大学の先生。就職活動は5分でやめた。
「僕は昔から他の人と一緒っていうのを嫌う性格でして、なんか他人と違ったことやりたいな、自分にしかできないことをやりたいなというのが強い性格でした。」
原体験は父親。 自営業を営む父が、自分で物事を決めて雇用を作っていく姿を格好良いと感じたのがはじまりだった。そんな父親に惹かれて、最初に目指したのは意外にも大学の先生だった。
学生の西崎氏の目には、大学の先生は時間にも社会のしがらみにも縛られず、自由な存在に映ったのだという。しかし、その後家庭の事情で大学院進学を諦めなければならず、大学教諭への道も断念した。
大学3年時に周囲の学生と同じように就職活動をしようとしたけれど、普通の就活は5分で終わった。 そして、起業を決意したのは大学4回生、大学教諭の道が閉ざされたときだった。
「ナビサイトに登録をしようとしたとき、就職をした未来の自分の人生がイメージできてしまったんです。たぶん僕は就職をすると毎日満員電車に揺られて会社に行って、仕事をしていると上司から小言を言われながら、最初の3年はルーチンワーク。10年後に主任になって、課長になって、部長までなって、マイホーム買って…。 それが良いとか悪いとかではなく、僕の価値観には合わないなと感じました。」
もちろん、実際にはそんな会社ばかりではなかったし、今思えば面白い会社も沢山あったと振り返る西崎氏。 しかし、当時学生だった彼にはそれが全てに感じられてしまったという。
そんな会社がないんだったら、僕が作ろう。
当時の僕が当たり前と思っていた会社と180度違う会社を作ろう。
会社員で終わる未来はありえない。それが起業のきっかけだった。
決意したものの、社会人経験もビジネス経験もない西崎氏。
起業するためには何をすればいいのか。 そこで、まずは起業できるだけの力が身につく会社に行こうと考えた。
学生の西崎氏が考えた「起業するためのスキル」はたったの3つ。
・新規営業ができる会社である
・経営者が相手の仕事である
・お金が稼げる
結果的に選んだのは人材コンサルだった。
西崎氏の出身は福岡県。
大阪で就職して今日まで至る。
―起業、暗雲、そしてビジョンマップ策定。
人材コンサルの会社に5年勤めて、最年少支店長までなった西崎氏は27歳で起業した。
トゥモローゲート株式会社だ。
売上の9割は「採用ブランディング事業」。
そのほか2つの新規事業も展開している。
「採用の根本は何かと問われたら、企業作りだと考えています。どれだけホームページやセミナー等の外見をよくしたとて、中身が変わらんと良い採用はできないし定着もしない。それを前職の人材コンサルで嫌というほど肌で感じてきました。なので会社の存在意義は何か、自分たちは何者なのかをはっきりさせるところ、コンセプ ト・企画・デザインから提案していくところにこだわっています。」
大手企業や人気企業と異なり、中小ベンチャーは人に興味を持ってもらうところからがスタートだ。
トゥモローゲートが手掛けるいくつかのブランディング事例を見せてくれた西崎氏。
採用ブランディング事業と言いながら、 社員の服装やオフィスの空間デザインまで、企業と一緒になって考案する姿勢に並々ならぬ熱量を感じた。
もちろん、今までにないような価値観・想い・制度を持った会社を作りたいという創業時の想いは、きちんと自社のコンセプトにも体現されている。
ミッション・ビジョンを企業の支柱と考える西崎氏は、ミッションとして 「世の中にきっかけを」ビジョンとして「世界一変わった会社で、世界一変わった社員と、世界一変わった仕を創る」を掲げた。とにかく変わったことをやろう、面白いことをやろう、その一心だったという。
ところが、ここで想定外のことが起こる。
「創業当初はうまくやれていたのですが、抽象度の高いミッションビジョンだったので、社員数が10名を超えたころからすごく違和感が出てきました。同じことを言っているはずなのに伝わり方が全然変わってきたんです。 同じメッセージを伝えているはずなのに、かたやめっちゃポジティブに受け取ってくれるけれど、かたやめっちゃネガティブに受け取ってしまう。このままではまずいなぁと思いましたね。」
会社が崩壊してしまうという危機感を抱いた西崎氏。その危機を打開したのがビジョンマップの策定だった。
役員とともに24時間ほぼ寝ないで作成した。
「僕らの経営理念は3つの構成(ミッション、 ビジョン、バリュー)からできています。」
・ミッション =存在意義
「トゥモローゲートという会社はなんのために存在しているのか」
・ビジョン =目指す方向性
「僕らはどういう方向にいきたいのか」
・バリュー =僕らが守るべき価値観
「ありがたいことに面白いことやっているよねと声をかけてもらえることが多いのですが、 なんでそれをやれているのかという原点がこのビジョンマップです。」と西崎氏。
ビジョンマップの効用と思わぬ副次的効果について教えてくれた。
―共通認識を図り、判断軸を与えるビジョンマップ。
ミッション・ビジョンだけでは抽象度が高く、社員数が増えるほど解釈が多様化してしまう。
一方、ビジョンマップは、自分たちが何者なのかを明記した紙だ。社名やコーポレートカラーの由来などを事細かに説明しており、社員の方向付けを補完する役割を果たしている。
コーポレートカラーを例にとろう。
私たちのコンセプトカラーは「ブラック」
たくさんの個性(カラー)が集まり、すべてを混ぜ合わせると黒になる。ものごとをシンプルに考えたい、提案したい。独自の哲学は、何物にも染められない。“ブラックな企業”はオモシロイ会社づくりをする意思表示そのものである。哲学は何物にも染められない。
トゥモローゲートはブラックな企業と名乗っているけれど、なぜブラックなのか。 これを置いておくことで社員全員が同じようにその意味・意図を語れるようになるというわけだ。
ところで、ビジョンマップの効果はそれだけではない。 ビジョンマップでは、何がトゥモローゲートにとってのオモシロイなのかを明確に定義している。
西崎氏いわく、これは結構重要なことだという。
それまでは「トゥモローゲートの変わっているってなんですか」と学生から尋ねられても、「おもしろいことをやりたい」「他と違ったことをやりたい」と、その都度社員が何となくのイメージを答えていた。たしかに大きくズレてはいないが、これでははっきりしない。
そこで言語化したのが
「ささる×あがる=ひらく」の方程式だ。
ささる=人の心に突き刺さるか
あがる=定量的な成果が上がるか
この2つを両方満たしていないとオモシロイとはいえないとした。
とはいえ、これでもまだ抽象度が高いので、なにがささる・あがるなのかを各10項目ずつ「状態」で定義した。たとえば、ささるは「笑顔がこぼれるか・驚きびっくりさせられているか・今までにないか」、あがるは「利益が上がるか・質が上がるか・スピードが上がるか」 などである。
顧客への企画提案や社内制度を策定する際は、これら10項目のうち5項目以上満たしていなければ やらないというルールになっている。その基準をクリアして初めて、トゥモローゲートにとってのオモシロイが実現できて、人々の心をひらけると社員全員が考えているというのだ。
そして、このビジョンマップが浸透するにつれて思わぬ副次的効果が表れたという。
「僕、めっちゃ暇になりました(笑)。いままでは僕が業務に追われていて、顧客折衝から企画立案まで全部携わっていたんです。でも、ビジョンマップを作成したことで、社員が明確な判断軸を持てるようになって自走できるようになったんです。いまは僕が会社の未来を考える時間をきちんととれるようになって、どんどん新しいことを生み出せているなという実感があります。良い流れだと思いますね。」
ただし、このビジョンマップは未完成で、これから毎年どんどんブラッシュアップしていくそうだ。
なぜ、西崎氏はトゥモローゲートの原点であるビジョンマップを私たちに公開してくれるのだろうか。
「経営者の方は、なんのために自分たちの会社が存在しているのか、どういう世界観を創ろうとしているのかという想いをどんどん言葉にしてください。会社員の方は、変な会社が変なことやっているけど、ここだけためになったよと可能なら経営者に提案してみてほしい。
ビジョンマップが誰かの一歩踏み出すきっかけになって、それによって世の中にもっと面白い会社が たくさん増えたら、僕らの存在意義は果たされているということです。
僕たちは採用ブランディングの仕事をしているけれど、各企業が自分たちでブランディングできるのが一番良いと考えています。」
そう、西崎氏は笑顔で締めくくった。
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