あの時の言葉に会いたい
花火大会の時、俺は傘なんて要らないって言ったのに
「一応持って行っとこうよ」
「いや、俺は持っていかないから」
「じゃあ私が1本だけ持っていっとくね」
2人で会う時も、電話する時もずっと楽しみにしてた花火大会だった。しかし、案の定途中から雨が降ってきて君がクスッと笑う。
「ほらー、やっぱり降ってる。一緒に傘入れてあげるから、帰りのアイス奢りね?笑」
「だりぃー、仕方ねぇな」
そう言いながら2人で片方の方を濡らしながら身を寄せあって帰った。
君はいつも正しかった。待ち合わせの時間を絶対守ることも、100日記念を祝うことも、喧嘩の理由も。
特別じゃない日々を君と2人で一緒に過ごすことがとても幸せだった。
そして今君は、鴨川沿いで俺の目の前で泣いている。君が泣いているのもきっと俺の事を思ってくれてるからだ。きっと君の優しさだ。「またね」と優しい声が響いて、俺の耳には静寂が残った。去っていくかの君を追うように風が吹いていく。その少しあとをギターを持った背の高いバンドマンのようなが続く。きっと君にはこんな人が似合うのだろう。夜の鴨川は昼の賑やかさを忘れて濃紺の静寂に包まれていた。
淡雪が冬の終わりを告げて、春になる。俺と君は別々の道を進んでいるけど、たまに思い出す。小さな肩、茶色のサラサラの髪、細くなりたいって言ってたけど俺は好きだった丸い指と、俺の心をいつも潤わせていた声。
でも君はきっと俺の事なんか考えていないのだろう。俺が君にかっこいいと思ってもらうことが微塵たりともあれば、まだ君はここにいたのだろうか。君はもう他の誰かのところに帰って行ってしまったのかな。心に穴が空いた俺を励ますように少しづつ白くなっていく陽の光が、ひとりぼっちの俺の輪郭をなぞっていく。
今日から君はいない。
あの時の言葉に会いたい。