4.またお願いします!!
おばあちゃんが入院した。
「なんで?」
とそこにいた弟の裕太に聞いた。
「なんか、具合がよくないらしいよ。」
ざっくりな返答が返ってきた。とにかく慌ただしい雰囲気に飲まれ不安に駆られた。お母さんに問いただすように聞く。
「大丈夫なの?」
「今から病院に行くから、一緒にきて!」
「分かった!」
家族で車に駆け込み、病院まで向かった。
少し小走りで入院している病棟まで向かう。
病室に入り、手前から3つめのベッドに覆われているカーテンをシャっとめくった。
「お〜〜ほっほほ〜。」
という声とともに、そこには満面の笑みを浮かべるおばあちゃんがいた。
あれ?めちゃくちゃ元気そう。
家族の切迫した雰囲気とは対照的な可愛い笑顔だ。
少し動悸が激しくなって、しんどくなって救急車で運ばれたが、少しやすんだら落ち着いたらしい。
ホッと胸を撫で下ろす。
しばらく様子見で一週間、入院するらしい。早く退院を待ち望むし、予定がない日は極力、お見舞いにくるつもりでいる。
おばあちゃんの場合、病状が何というよりは、はっきりと『もう年』らしい。永遠に生きていて欲しい。これが胸の内。
おばあちゃんの笑顔で人は癒される。癒しの効果持っている。そして哀愁を感じさせてくれる。これは特殊能力である。
そんな能力を持った人間は永遠に生きて良いんじゃないかと僕は思う。
夕方から、スーパーのアルバイト。1年の中越が面接がてら契約書を書きにやってくる。扶養控除や銀行振り込みの口座登録やもろもろ。
中越から「アルバイトしたいです。」と言われ、スーパーの店長にその事えお伝え、すぐにほぼ採用と契約のが決まった。
中越はその迅速な対応と店長の寛大さにとても喜んでいた。
タイムカードを押して出勤してしばらくして、中越がやってきた。
「おはようございます!」
ボリュームを間違えている。でもボリュームを間違えていても許されそうなやつだ。
半袖チェックのボタンシャツを着ていた。参観日の真面目なお父さんもみたいな私服で、おしゃれとは程遠い。
「事務所まで案内します。」
近くにいたパートのおばちゃんに伝え、バックルームに通す。
そして店長との面接が始まった。
僕はフロアで品出しを再開した。すると、
「お疲れ様!」という声がした。よくこのパターンを使うのは、と思い振り返るとそこには大島由実。
内心嬉しいが、
「また、来たのか。」とふざけ混じりに返す。
「え〜、来るよ〜。」みたいな、なんでもないやりとり。
正直、僕がバイトをしている日には必ずスーパーに来て欲しい。そう思っている。
大島が聞いてきたのは、進路のことだ。
「進路って決まった?」
もう高3。この話題が出るのは当たり前。必須だ。僕は、以前も言ったように自分の偏差値でいける大学に行くつもりでいる。
大島も、大学に進学するつもりで2つの大学で迷ってるらしい。
そこらへんの先のことを考えると少しげんなりしてしまう。親からもよく言われるがまだ頭に入れたくない。
今日はまだ、出勤して一時間しか経ってない。バイトあがりまで時間があるから大島とまた、運よく一緒に帰ったりできない。
そこに中越がやってきた。
「お疲れ様です!」
「早いな。もう、面接終わった?」
「はい!終わりました!」
もちろんだが、大島と中越は初対面で、軽く経緯を大島に話、大島が店長の娘だということと小学校からの同級生だということを中越に話した。
中越は大島由美に対しても今以上、丁寧に挨拶をして、初出勤日の話をして「では!!またお願いします!!」と言ってその日は帰った。
すると、大島が言った。
「中越君ってなんか似てるね!研一君と。」
「え、そうかな?」と腑に落ちない。
「どこら辺が?」と聞いてみる。
「なんだかわかんないけど、すごく一生懸命!」
疑問が一瞬で晴れるような事を言った。多分、大島はそんな気はなかっただろうが、褒められた気分になって嬉しかった。
他のお客さんや、パートさんの目もあるし、そこまで長い話ができないのが辛いところだ。
前に一緒に帰りながら、2人でアイスを食べた事が、まだ鮮明に脳裏に浮かんで色褪せてくれない。
欲深いものでもっと長く、もっと濃く過ごしたいと心で思う。
そんな風に考えるが、まだ大島に好きな人がいるという事実を去年の夏に聞いて、勝手に疑心暗鬼。「辛いな。」「その好きな人は僕じゃなさそうだな。」という考えが、大島への気持ちを足止めする。
しかし、僕のことが好きかもという場面も何回かあった。それが今の自分を繋ぎ止める。
勝手に粘りたい。諦めたくないなと思っているのは心の内。
「夏の大会近いね!」
「うん、もう高校最後だな。」
「応援してる!またね!」
「お、おう。」
つづく
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