11.スピードを緩め
後半戦も必死の攻防が続くが、やや劣勢。
できるだけベンチから応援の声を飛ばす。応援の声を出しつつ、自分を出してくれというアピールを先生に送る。
時間が進むにつれて全体の空気が熱に包まれる。
後半30分、失点。
2−0になった時から次第に熱が冷めていくのが分かった。残された時間はあと15分とロスタイム。
味方陣営全体、みるみるうちに闘争心が衰えていっている。
正直見ていられない。僕はまだ諦めていないし、同じ気持ちのやつも中にはいる。少しの望みに全部をかけたい。
すると、先生がベンチに控えている3年生に声をかけた。選手の交代だ。
まずフミが呼ばれてスタメンの選手との交代。行く時にフミは僕に、
「絶対に点決めてくる!」
と言って飛び出して行った。そして、すぐにまた先生はベンチにいた3年生を呼んだ。また3年生を出すらしい。
そして思った。
先生はもう勝てないと思っていると。この試合が3年生にとって高校生活最後の試合になる。だから、最後に3年生全員を試合に出してやろう。
と。それに気づいた時には、「あ、もう負けてしまうんだ。終わってしまうんだ。」という感情が襲ってきたが、一人で首を振って、「まだ負けてない。まだ可能性はある。」とまだ戦えると自分の姿勢を正した。
そして、また3年が試合に出る。あとは僕だけだ。「早く!早く出してくれ!」
体がおかしくなってしまいそうだった。自分がこの状況をどうにかしたいという気持ちや、負けてしまう、高校最後の試合が終わってしまうという気持ち。なぜだかわからないが目に涙が滲んだ。今までの練習の日々、試合での苦しかったこと、仲間との思い出が勝手に、そんなつもりは一切ないのに勝手に走馬灯のように浮かんできた。
「んん〜、、。」
言葉にならないうめき声のようなものが口から出ている。
「早く!早く、、、、
え、、、、、。」
ピーーーーッ、ピーーーーッ、ピーーーーーーーーーーッ!!
試合終了のホイッスルが鳴る。
頭が真っ白になった。え?
試合が終わってしまった。理解ができなかった。僕は出れなかった。
負けたうちのチームはうなだれる人や泣いている人やそれぞれだ。そして、次第にベンチの中がざわつき始めた。この状況に気づいた副顧問の先生が監督顧問の先生にこの状況を伝える。
この状況というのは3年生でただ一人だけ、僕が試合に出ていないということだ。
それを伝えられた先生は、何かハッとした表情を浮かべて一言、かすかに何かを言った。僕ははっきりとは聞こえなかったが、この先生の口でかたどった言葉がはっきりと分かった。
「忘れてた。」
さすがに、こうとなるとどんな感情、どんな表情でそこに居ればいいのかわからなかった。分からなさすぎた。ただ誰の顔も、誰にも目を合わせられなかった。
その後のチーム最後の円陣を組んでの先生からの言葉など全てのことが頭に入らなかった。みんな最後で泣いているのに僕は涙すら出なかった。完全に空っぽだった。絞り出してあるとすれば、「試合にでたかったな。」だ。
仲のいいフミですら僕に声をかけられなかった。そんな状態になっていた。
円陣や、記念写真の撮影、全てのことが終わり解散となった時に、顧問の先生がこちらに向かってくるのが分かった。
しかし、僕はそれに気付かぬフリをしてそそくさと、先生の追いつけないスピードで帰った。誰とも話すことなく、誰とも顔を合わせないように誰かには聴こえるように「お疲れさまです!」とそこら辺に挨拶を飛ばした。
その場から逃げるように帰った。
自転車に乗り、気づいたら普段より早いスピードでペダルを漕いでいた。しかし、スピードを緩め自転車を降りて歩いた。
夕日で当たりが赤かったが、その綺麗な夕日に目もくれず下を向きながら歩いた。今の自分の顔を誰にも見られないように。そろそろ泣きたかったが、泣くきっかけすら見つけられなない。
すると、後ろから自転車の車輪の音が聞こえた。その音は僕の後ろでブレーキの音と共に終わった。
振り向くとそこには大島がいた。息を荒げながら。
つづく
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